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終章 勇者と聖女編

全て終えたら

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 夜の帳も深く、王都にも眠りが訪れる深夜。
 勇人は身を隠しながら宵闇を駆け抜ける。風を置き去りにするほどに早いその動きから、見張りの兵士たちは勇人が通り過ぎるた後で不思議そうに辺りを見回してから首を傾げる。

「……見えた」

 王城の一角、リリアに貸し与えられている部屋を見上げると、そのまま数階ほどの高さの窓に向かって飛びあがる。
 音も立てずに窓枠に手をかけると、そのまま懸垂するようにして体を持ち上げる。

「よっ……っと。さて、後は」

 窓に張り付きながら、強めに叩く。
 数回ほど、感覚を開けて窓を叩いていると、警戒しながらリリアが近づいてきた。

「え? ユーキさん?」
「よっ、ちょっと鍵を開けてもらっていいか?」

 リリアが慌てて窓まで近づいて鍵を開けたのを確認すると、勇人はそのままスルリと部屋の中へと飛び込む。

「ふう、悪いな、リリア。起こしたか?」
「色々と片づけをしていたのでまだ起きていました。ですが……どうしたんですかこんな夜遅くに?」
「ああ、ちょっと話をしたくなってな。部屋の中で立ち話もなんだし、ちょっと場所を変えようぜ」
「きゃっ! ゆ、ユーキさん!」

 勇人はリリアをお姫様抱っこの持ち上げると、そのまま空いたままの窓から外へと飛び出す。
 そのまま王城のもっとも高い天辺まで登っていき、ようやくリリアを降ろす。

「わっとと……た、高いですね」
「いい眺めだろ? 高い所ダメだったか?」
「いいえ。いきなりすぎて驚いただけです。もう、せめて一言くらいください」
「悪い悪い。次があるなら気を付けるわ」

 両手を合わせて勇人が謝ると、リリアは膨らませていた頬を緩めて屋根の縁に腰掛ける。
 勇人もリリアの隣に並び、肩を抱きながら腰を掛ける。

「…………」
「…………」

 しばらくの間、無言のまま星を眺め続ける。沈黙が続く中、勇人が口を開く。

「その、だな……その寝間着、エロいな」

 え、いきなりなんですか? という表情をリリアは浮かべてしまう。
 実際、いまリリアが着ている純白のナイトドレスは肩先、ひざ丈くらいまでしか裾が無く、胸やパンツも隠していないため服の上から乳首が浮き上がり、チラチラとパンツも見える。

「えーと……ありがとうございます? ユーキさんは、その、私と……え、エッチをしに来たんですか?」
「いや違う。すまん、そういう話をするつもりじゃなかったんだ」

 リリアからはなにも尋ねず、じっと勇人の言葉を待つ。
 勇人もそんなリリアの気遣いを感じ取り、大きく息を吸ってから覚悟を決める。

「色々と話しておきたいことがあってな。だけどその前に……邪魔をされたあの時の続きをさせてくれ」
「あの時の続き……あっ」

 察しがついたリリアは顔を真っ赤にする。
 それでも、顔をそらすようなことはせず、勇人を見つめ続ける。

「リリア。俺は、お前が――お前のことが好きだ」

 落とし子や魔王、賢者と戦う時よりもずっと緊張した面持ちで言葉を紡ぐ勇人の頬にリリアは手を伸ばす。

「私で、いいんですか?ユーキさんの中には、まだアリア様への気持ちがあるんだと思っていました」
「確かにリリアのことも初めはアリアの代わりだと思っていた。だけど、今は違う。アリアじゃない、リリア・クレスティン・フェミルナのことを愛している。だから、その……俺の恋人になってほしい」
「…………初めは、なんでこんな人が勇者なのかと思いました。強引な契約に腹を立てたことも多かったです。でも、今はあの時の契約に感謝したいです」

 リリアは勇人へと顔を寄せてキスをする。

「ちゅ……私も、好きです。例えアリア様が生き返ったとしても、渡したくないほどお慕いしています」

 星々と月明かりに照らされながら微笑むリリアの姿を見た勇人は、無意識のうちにリリアを抱きしめていた。

「あっ……ふふ」

 一瞬、驚いたリリアだがすぐに勇人と同じように抱き返す。

「なんか、安心したら肩の力が一気に抜けた」
「ふふ、私がわかるくらいに緊張してましたからね」
「当たり前だ。自分でいうのもなんだが、色んな女を抱いて、好き勝手している男だから。断られるかもしれない、って考えたりしてな」
「何故です? 男の人が複数の女性の方と関係を持つのは禁止されていませんよ? ユーキさんのような魅力的で優れた男性ならなおさらです」
「……ああ、そういうとこの常識は違うんだったな」

 今更ながら、一夫一妻ではなく一夫多妻制だったというこの世界の常識を思い出し苦笑する。

「――さて、これでようやく憂いもなくなって話ができるな」
「他にも、なにかあるんですか?」
「ああ。もっとも話というよりは俺の弱音になるのかもしれないがな……聞いてもらえるか?」
「もちろんです。私はもうユーキさんの、こ、恋人なんですから。どんなことでも相談に乗ります」
「……そうだな。俺が聞いてほしいのは勇者召喚のことなんだ」
「勇者召喚……ですか? 心配しなくても、魔方陣の使用許可はしっかり取りました。フィアさんだってしっかり改良してくださっていますし大丈夫ですよ」
「ああ、その辺りは心配していない。問題はちゃんと勇者召喚が発動するのかどうかだ」
「それは、どういう……?」
「これは勇者である俺だからわかることかもしれないが、勇者ってのは魔王は同じようなものなんだよ。この世界にとっては異物でしかない。俺がこの世界に来ることができたのは、魔王という異物を排除するため例外的に世界が許可したからに過ぎないんじゃないかってな。だから、魔王を倒した後で再度俺はこの世界に召喚されるのか……そんな心配があるんだ」
「……あの、戻って来られないって確証はあるんですか?」
「いや、これは完全に感覚的なものだから。俺の考えすぎで案外あっさり戻ってくることができるかもしれない可能性のほうが大きいわけだ」

 勇人は話しながらもし戻ってこれなかった場合のことを考えてしまい、身震いする。

「始まりは無理矢理連れてこられたから、何度も帰りたいって思ったな。でもな、シェロやマオ、クレハにフィア、シータ、そしてリリアのいるこの世界が俺の住む世界なんだよ。だからこそ怖いんだ。俺が、俺だけが世界から爪弾きにされちまうんじゃないかって」
「ユーキさん……」

 いつも不敵に笑い、誰よりも強い存在であった勇人が見せる人らしい弱み。
 それを見たリリアは、勇人を胸元に抱きしめると優しく頭を撫でる。

「私はアリア様のような聖女ではないただの俗人だったみたいです。今から、私は身も蓋もないことをいいます。このままユーキさんがあの人を倒しに向かわなければ、大勢の人が亡くなるかもしれません。ですけど、私は顔も知らない誰かよりも愛する人の大切なんです。ましてや、私やアリア様の名誉を守るためだけになんて……私は嬉しくありません。戻ってこられる保証がないのなら、行かないでほしいです」

 リリアの言葉は、勇人が欲しいものだった。
 引き留めてほしい、愛する人にここにいてくれと縋りつかれたい。
 ああ、確かにそれは酷く魅力的な提案だが――

「……すまん、リリア」
「わかってます。ユーキさんはもう決めているんですよね。誰にも見せたことない弱音を私に零してくれただけで嬉しいんです」

 声を震わせ、それでも気丈にリリアは微笑む。

「必ず帰ってくるって信じてますからね、旦那様ご主人様
「ああ、約束する。絶対に帰ってくる」

 リリアとの約束を守るため、改めて帰ってくると決意する。
 長い長い、魔王を倒したその後の後日談が終わるまであと少し――
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