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新しい住まいは豪華&至れり尽くせり 2
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ティティはふよふよと浮いたまま腕をかざして円を描くように動かす。すると、ふわりと目の前に人間用の食べ物が現れた。
召喚魔法の一種だろうか。目の前には焼きたてのパンと目玉焼きにベーコン、それから葉野菜のサラダにスープ。
「うわ。豪華」
「グレゴルン著 人間の生活・貴族編を参照しまして用意してみました、朝食ですぅ。たーんと召し上がれ」
ティティが嬉々とした声を出す。
ん? なにそのタイトル。口調からして本かな。貴族編ってことは他のバージョンもあるんですか。つうかグレゴルンって誰ですか。
ティティはわたしのすぐ傍らまで近づいてきていそいそと給仕を始めた。もちろん浮いているし、長い髪の毛が皿に触れないよう、彼女の髪の毛は重力に逆らって上の方へ浮いている。宇宙船の無重力空間に彼女だけいる感じ。
まさかリアル精霊とお知り合いになって給仕を受けるとは。人生何があるかわからない。
「あ。おいしい」
パンはふわっふわで、上質なバターを使っているのが分かるくらいに美味しい。
「よかったですぅ」
ティティは上機嫌にあれやこれや勧め始める。わたしはそれらを順番に攻略していく。カリカリに焼いたベーコンにとろっとろの半熟加減の目玉焼き。これをパンにつけて食べるのもおいしいんだよね。はぁぁぁ、幸せ。美味しいって幸せ。チーズの味も濃いし、野菜のスープは優しい味で口の中でほろっととろけるほどに蕪が柔らかい。
わたしがあらかた朝食を片付けたところでレイアが話しかけてきた。
「何か足りないものがあったら遠慮なく言ってちょうだいね。わたくしたち、あなたがここに住むことにしてくれて嬉しいの」
「いえ。お気遣いなく。ほとぼりが冷めたら出て行きますから」
わたしは間髪入れずに釘をさす。このまま竜のお世話役にされたのでは身が持たない。
「ええええ~。そんな釣れないことを言わないで。ほんのに二、三十年くらい住んでくれていいのよ」
「いえいえ。さすがにそれは長すぎですから。もっと早くに自立します」
「リーゼ、せっかく新しい住まいに越してきたのだから、もっと森での生活を楽しんでほしいわ。自立も大事だけれど、人生臨機応変に対応していくことも大切よ」
「臨機応変って……。かなりの不可抗力でここに住むことになりましたよね?」
「うふふ」
あ、笑ってごまかした。
「普通竜に気に入られたら喜ぶんじゃないのかな」
ミゼルが会話に加わってきた。
「それは、人にもよるんじゃないですか。わたしはこれからは魔法とは無縁に暮らしていく予定だし」
大体の国でも魔法使いはそれなりの家柄に属している。魔法を使う職業についちゃうと、たとえシュタインハルツではない国だとしてもどこで身元がバレるかわかったものではない。
新しい人生を始めるうえで、わたしは魔法を使わないことを決めていた。
「あら、竜の子守なんてしたくてできるものでもないし、竜と交流を持ちたくなって持てない人間はたくさんいるのよ」
「それはそうでしょうけど」
特に、竜の加護を受けたい人とかね。
「人生回り道も必要だと思わないかい?」
にこにこしながらそんなこと言うの止めてもらえないかな。
この夫婦、当分わたしを手放す気は無いなとわたしは内心盛大にため息を吐いた。
召喚魔法の一種だろうか。目の前には焼きたてのパンと目玉焼きにベーコン、それから葉野菜のサラダにスープ。
「うわ。豪華」
「グレゴルン著 人間の生活・貴族編を参照しまして用意してみました、朝食ですぅ。たーんと召し上がれ」
ティティが嬉々とした声を出す。
ん? なにそのタイトル。口調からして本かな。貴族編ってことは他のバージョンもあるんですか。つうかグレゴルンって誰ですか。
ティティはわたしのすぐ傍らまで近づいてきていそいそと給仕を始めた。もちろん浮いているし、長い髪の毛が皿に触れないよう、彼女の髪の毛は重力に逆らって上の方へ浮いている。宇宙船の無重力空間に彼女だけいる感じ。
まさかリアル精霊とお知り合いになって給仕を受けるとは。人生何があるかわからない。
「あ。おいしい」
パンはふわっふわで、上質なバターを使っているのが分かるくらいに美味しい。
「よかったですぅ」
ティティは上機嫌にあれやこれや勧め始める。わたしはそれらを順番に攻略していく。カリカリに焼いたベーコンにとろっとろの半熟加減の目玉焼き。これをパンにつけて食べるのもおいしいんだよね。はぁぁぁ、幸せ。美味しいって幸せ。チーズの味も濃いし、野菜のスープは優しい味で口の中でほろっととろけるほどに蕪が柔らかい。
わたしがあらかた朝食を片付けたところでレイアが話しかけてきた。
「何か足りないものがあったら遠慮なく言ってちょうだいね。わたくしたち、あなたがここに住むことにしてくれて嬉しいの」
「いえ。お気遣いなく。ほとぼりが冷めたら出て行きますから」
わたしは間髪入れずに釘をさす。このまま竜のお世話役にされたのでは身が持たない。
「ええええ~。そんな釣れないことを言わないで。ほんのに二、三十年くらい住んでくれていいのよ」
「いえいえ。さすがにそれは長すぎですから。もっと早くに自立します」
「リーゼ、せっかく新しい住まいに越してきたのだから、もっと森での生活を楽しんでほしいわ。自立も大事だけれど、人生臨機応変に対応していくことも大切よ」
「臨機応変って……。かなりの不可抗力でここに住むことになりましたよね?」
「うふふ」
あ、笑ってごまかした。
「普通竜に気に入られたら喜ぶんじゃないのかな」
ミゼルが会話に加わってきた。
「それは、人にもよるんじゃないですか。わたしはこれからは魔法とは無縁に暮らしていく予定だし」
大体の国でも魔法使いはそれなりの家柄に属している。魔法を使う職業についちゃうと、たとえシュタインハルツではない国だとしてもどこで身元がバレるかわかったものではない。
新しい人生を始めるうえで、わたしは魔法を使わないことを決めていた。
「あら、竜の子守なんてしたくてできるものでもないし、竜と交流を持ちたくなって持てない人間はたくさんいるのよ」
「それはそうでしょうけど」
特に、竜の加護を受けたい人とかね。
「人生回り道も必要だと思わないかい?」
にこにこしながらそんなこと言うの止めてもらえないかな。
この夫婦、当分わたしを手放す気は無いなとわたしは内心盛大にため息を吐いた。
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