上 下
10 / 58

新しい住まいは豪華&至れり尽くせり 2

しおりを挟む
 ティティはふよふよと浮いたまま腕をかざして円を描くように動かす。すると、ふわりと目の前に人間用の食べ物が現れた。
 召喚魔法の一種だろうか。目の前には焼きたてのパンと目玉焼きにベーコン、それから葉野菜のサラダにスープ。

「うわ。豪華」
「グレゴルン著 人間の生活・貴族編を参照しまして用意してみました、朝食ですぅ。たーんと召し上がれ」

 ティティが嬉々とした声を出す。

 ん? なにそのタイトル。口調からして本かな。貴族編ってことは他のバージョンもあるんですか。つうかグレゴルンって誰ですか。

 ティティはわたしのすぐ傍らまで近づいてきていそいそと給仕を始めた。もちろん浮いているし、長い髪の毛が皿に触れないよう、彼女の髪の毛は重力に逆らって上の方へ浮いている。宇宙船の無重力空間に彼女だけいる感じ。
 まさかリアル精霊とお知り合いになって給仕を受けるとは。人生何があるかわからない。

「あ。おいしい」
 パンはふわっふわで、上質なバターを使っているのが分かるくらいに美味しい。

「よかったですぅ」

 ティティは上機嫌にあれやこれや勧め始める。わたしはそれらを順番に攻略していく。カリカリに焼いたベーコンにとろっとろの半熟加減の目玉焼き。これをパンにつけて食べるのもおいしいんだよね。はぁぁぁ、幸せ。美味しいって幸せ。チーズの味も濃いし、野菜のスープは優しい味で口の中でほろっととろけるほどに蕪が柔らかい。

 わたしがあらかた朝食を片付けたところでレイアが話しかけてきた。

「何か足りないものがあったら遠慮なく言ってちょうだいね。わたくしたち、あなたがここに住むことにしてくれて嬉しいの」
「いえ。お気遣いなく。ほとぼりが冷めたら出て行きますから」

 わたしは間髪入れずに釘をさす。このまま竜のお世話役にされたのでは身が持たない。

「ええええ~。そんな釣れないことを言わないで。ほんのに二、三十年くらい住んでくれていいのよ」
「いえいえ。さすがにそれは長すぎですから。もっと早くに自立します」
「リーゼ、せっかく新しい住まいに越してきたのだから、もっと森での生活を楽しんでほしいわ。自立も大事だけれど、人生臨機応変に対応していくことも大切よ」

「臨機応変って……。かなりの不可抗力でここに住むことになりましたよね?」
「うふふ」

 あ、笑ってごまかした。

「普通竜に気に入られたら喜ぶんじゃないのかな」

 ミゼルが会話に加わってきた。

「それは、人にもよるんじゃないですか。わたしはこれからは魔法とは無縁に暮らしていく予定だし」

 大体の国でも魔法使いはそれなりの家柄に属している。魔法を使う職業についちゃうと、たとえシュタインハルツではない国だとしてもどこで身元がバレるかわかったものではない。
 新しい人生を始めるうえで、わたしは魔法を使わないことを決めていた。

「あら、竜の子守なんてしたくてできるものでもないし、竜と交流を持ちたくなって持てない人間はたくさんいるのよ」
「それはそうでしょうけど」

 特に、竜の加護を受けたい人とかね。

「人生回り道も必要だと思わないかい?」

 にこにこしながらそんなこと言うの止めてもらえないかな。
 この夫婦、当分わたしを手放す気は無いなとわたしは内心盛大にため息を吐いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】スクールカースト最下位の嫌われ令嬢に転生したけど、家族に溺愛されてます。

永倉伊織
恋愛
エリカ・ウルツァイトハート男爵令嬢は、学園のトイレでクラスメイトから水をぶっかけられた事で前世の記憶を思い出す。 前世で日本人の春山絵里香だった頃の記憶を持ってしても、スクールカースト最下位からの脱出は困難と判断したエリカは 自分の価値を高めて苛めるより仲良くした方が得だと周囲に分かって貰う為に、日本人の頃の記憶を頼りにお菓子作りを始める。 そして、エリカのお菓子作りがエリカを溺愛する家族と、王子達を巻き込んで騒動を起こす?! 嫌われ令嬢エリカのサクセスお菓子物語、ここに開幕!

婚約破棄されましたが、貴方はもう王太子ではありませんよ

榎夜
恋愛
「貴様みたいな悪女とは婚約破棄だ!」 別に構いませんが...... では貴方は王太子じゃなくなりますね ー全6話ー

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

気弱な公爵夫人様、ある日発狂する〜使用人達から虐待された結果邸内を破壊しまくると、何故か公爵に甘やかされる〜

下菊みこと
恋愛
狂犬卿の妻もまた狂犬のようです。 シャルロットは狂犬卿と呼ばれるレオと結婚するが、そんな夫には相手にされていない。使用人たちからはそれが理由で舐められて虐待され、しかし自分一人では何もできないため逃げ出すことすら出来ないシャルロット。シャルロットはついに壊れて発狂する。 小説家になろう様でも投稿しています。

いずれ最強の錬金術師?

小狐丸
ファンタジー
 テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。  女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。  けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。  はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。 **************  本編終了しました。  只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。  お暇でしたらどうぞ。  書籍版一巻〜七巻発売中です。  コミック版一巻〜二巻発売中です。  よろしくお願いします。 **************

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

怒れるおせっかい奥様

asamurasaki
恋愛
ベレッタ・サウスカールトンは出産時に前世の記憶を思い出した。 可愛い男の子を産んだその瞬間にベレッタは前世の記憶が怒涛のことく甦った。 日本人ので三人の子持ちで孫もいた60代女性だった記憶だ。 そして今までのベレッタの人生も一緒に思い出した。 コローラル子爵家第一女として生まれたけど、実の母はベレッタが4歳の時に急な病で亡くなった。 そして母の喪が明けてすぐに父が愛人とその子を連れて帰ってきた。 それからベレッタは継母と同い年の義妹に虐げられてきた。 父も一緒になって虐げてくるクズ。 そしてベレッタは18歳でこの国の貴族なら通うことが義務付けられてるアカデミーを卒業してすぐに父の持ってきた縁談で結婚して厄介払いされた。 相手はフィンレル・サウスカールトン侯爵22歳。 子爵令嬢か侯爵と結婚なんて…恵まれているはずがない! あのクズが持ってきた縁談だ、資金援助を条件に訳あり侯爵に嫁がされた。 そのベレッタは結婚してからも侯爵家で夫には見向きもされず、使用人には冷遇されている。 白い結婚でなかったのは侯爵がどうしても後継ぎを必要としていたからだ。 良かったのか悪かったのか、初夜のたったの一度でベレッタは妊娠して子を生んだ。 前世60代だった私が転生して19歳の少女になった訳よね? ゲームの世界に転生ってやつかしら?でも私の20代後半の娘は恋愛ゲームやそういう異世界転生とかの小説が好きで私によく話していたけど、私はあまり知らないから娘が話してたことしかわからないから、当然どこの世界なのかわからないのよ。 どうして転生したのが私だったのかしら? でもそんなこと言ってる場合じゃないわ! あの私に無関心な夫とよく似ている息子とはいえ、私がお腹を痛めて生んだ愛しい我が子よ! 子供がいないなら離縁して平民になり生きていってもいいけど、子供がいるなら話は別。 私は自分の息子の為、そして私の為に離縁などしないわ! 無関心夫なんて宛にせず私が息子を立派な侯爵になるようにしてみせるわ! 前世60代女性だった孫にばぁばと言われていたベレッタが立ち上がる! 無関心夫の愛なんて求めてないけど夫にも事情があり夫にはガツンガツン言葉で責めて凹ませますが、夫へのざまあはありません。 他の人たちのざまあはアリ。 ユルユル設定です。 ご了承下さい。

処理中です...