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プロローグ

ケモ耳と僕

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『ケモミミには萌えとロマンが詰まっている。』

ラニ迷言集、三十五ページ七行目より抜粋。


現在、全百五ページまでに及ぶ自身の迷言集を頭の中でペラペラめくりながらラニ(僕)は、タラタラと鏡の前で冷や汗を掻いていた。


今日の天気は晴れ。
毎日が常夏な自身の祖国とは違い、穏やかな温かさが包む、レーヴ帝国の春の朝。

無事に留学二年目を迎えて、自身の寮部屋で何事もなく朝を迎える筈だった。



異変に気付いたのは寝ぼけ眼で鏡の前に座り、これでもかと付いた寝癖頭に櫛を通した時。



「…あれ?かったいな。そんな酷い寝相だったかな??」

全く櫛の通らない寝癖にそう疑問を抱きながらまだ半覚醒状態の頭で首を傾げる。

なんだろうとその酷い寝癖に触れ、髪とは思えない未知の感覚に意識が覚醒しきって冒頭に戻る。





「嘘だ…」

鏡に映った自身の姿に冷や汗が止まらない。

見慣れた銀色の髪。
チャームポイントの深海のような青い瞳には花のように銀の虹彩が咲いている。
ちょっと童顔が入ったカッコいいとは言えないザ平凡な容姿はいつも通り。


一部分を除いて。



「み、耳!?え??ケモミミ!!?」

頭の上でピコピコと元気よく動く、人のものじゃないお耳が二つ。

昨日までなかった筈の馬の耳のような形なのに兎のように長い謎のケモミミが頭の天辺に生えていた。


勿論、僕は獣人じゃない。半獣人でもない。
至って普通の人間で、そもそもこの世界にそんな種族は存在しない。

一度見ては固まり、現実逃避する様に目を逸らしを数回繰り返し、受け止められない現実にワッと顔を覆う。


ケモミミには萌えとロマンが詰まっている。

だから、ケモミミは嫌いじゃない。
だけどそれは可愛い女の子に付いているから萌えるのであって、自身に付いたらイタいだけだ。

やはり現実イタい自分が受け止め切れなくて絶望していると、ふと窓の外から声が聞こえた。


「あー。お前、犬耳?俺は猫耳だぜ!」


そろりとバレないように窓から外を覗くと同じ寮の生徒が楽しそうに自身についた猫耳を犬耳の付いた生徒に自慢している。

一人で焦り、絶望していたのが馬鹿みたいに楽しそう。
その上、あっちもこっちもみんな生徒も先生もケモミミが生えている。


「まぁ、明日には直るって!!」

そんな楽観的な生徒の言葉通り次の日には何事もなかったかのようにケモミミはなくなり、学園は普通の日常に戻った。

「…あれ?かったいな。そんな酷い寝相だったかな??」


僕、一人を除いて。




ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

初めて読んでくれた方ははじめまして。他の作品を読んでくれた方はお久しぶりです。

心機一転。吉雪改め、きっせつとして書き溜めた物語を投下させて頂きますので、宜しければ、どうぞ!
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