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朝。
まだ覚醒しない頭でボンヤリと雨模様の空をベッドから眺めた。
隣ではもう起きて魔術書を読み耽っているアルトワルトの姿があった。
真剣な面持ちで魔術書に視線を落とす姿は様になっていて、やはり《聖女》より聖女らしい清廉な空気を纏っている。
こちらが目覚めている事に気付くと少し驚いた表情を浮かべた。朝に弱い僕が起きている事に珍しいと思っているのだろう。
「僕も起きようと思えば起きれるんすよ。」
「なら毎日きちんと起きろ。」
「まぁ、今日から起きてあげてもいいっすよ。」
「何故上から目線なんだ。」
どうだ、凄いだろうと胸を張る僕を可哀想な子を見るような目で向けながら溜息をついた。
「暗殺者とは皆、お前みたいなのか。」
「まさか。僕みたいな面白くて大人の魅力溢れる暗殺者はこの世に一人だけっすよ。」
「過大評価だな。阿呆でちんちくりんな暗殺者だろう。」
「手厳しいっすね。確かに大きい方でないけども百七十近くはあるっすよ、背。」
「オレは百七十五ある。お前より脚も長い。オレから見ればお前はちんちくりんだ。」
「うっわ、嫌味っすか。でも残念ながら僕は二十歳っす。男はまだ二十過ぎても伸びる。」
「オレは十八だ。」
「まさかの歳下。」
ティーンエイジャーかよ、とカラカラ笑いながらベッドに転がるとまた一つアルトワルトが溜息をつきながら僕の左手を掴んだ。ポケットからジャラリと取り出したブレスレットをおもむろに僕の手首に付ける。
「何すかコレ。」
「身分証のブレスレット。」
「身分証? 」
付けられたブレスレットにはプレートが付いていて、そのプレートには『シグリ・ハープナー。宮廷魔術師長夫人』と刻まれている。
アルトワルトの手首を見ると同じようなブレスレットが付いている。
どうやらこれは王城内で使える身分証代わりのブレスレットのようで、多分これがあれば城からの出入りも身体検査なしでいけるのだろう。
「コレは普通、王城勤めの者の家族も王城に勤めてなくても、もらえるんすかね。」
「もらえないな。」
「じゃあ、何で発行されたんすか…。」
アルトワルトは話は終わったと言わんばかりにスッと視線をまた魔術書に落とす。
ー まぁ、経緯なんてどうでもいいか。
自由に歩き回れる保証されてる事実が大切。
もしやこれがあれば今からでも《聖女》暗殺出来るのではないかとも思ったが、組織にはもう暗殺失敗ととられている。
今更、仕事した所で処分は免れない。
ー 無駄な殺しは主義じゃないっすし。
雨空を見上げると雨の中でもあの鳥は旋回を続けている。どうやらあの鳥もあの鳥の持ち主はこの王城には潜入出来ないようだ。
ー まぁ、だから僕が抜擢されたんすけどね。
常に結界で外からの刺客の潜入を防ぎ、唯一入れる城門は入念な身体検査。
人気芸人として要人に取り入り、簪に仕込んだ針で痕跡を残さずに暗殺する僕は今回の暗殺に組織お抱えの暗殺者の中で一番適していた。
王城に僕以外の暗殺者を送るにしても数ヶ月は仕込みに掛かるし、大掛かりな仕事になるだろう。
ー そろそろ動いた方がいいっすかね。
ベッドの上で軽く伸びをして首に嵌められている首輪に触れる。
動くにあたり問題なのはこの首輪だ。
城から出て僕を処分しに来たあの鳥の持ち主、オルニに会うにしても「戻れ。」と命が下りてしまえば、アルトワルトの下に戻らざるおえない。
だが……。
昨日、クラヴィスとの修羅場の後。
アルトワルトは組み上げた魔術の報告書を書き上げる仕事に戻った。つまり、アルトワルトは仕事を中断して、わざわざ僕を連れ戻しに来た事になる。
わざわざ来るくらいなら首輪に「戻れ。」と命じれば良かったのではとは思うが、もしかしたら命令の届く範囲があるのかもしれない。
ー 命令の効く範囲も調べなくては。
しかしそこまで時間もない。
オルニが僕の死神である間に接触しなくてはいけない。
オルニは暗殺者として腕もあり、粛々と仕事を全うするタイプ。
殺しに快楽を求めたりしない。標的で遊んだりせず、苦しまずに暗殺するオルニになら裏切り者の僕相手でも苦しまずにやってくれるだろう。
うちの組織の暗殺者は結構曲者揃いでオルニのようなタイプは少ない。
オルニが僕の処分の任から下されれば次に来るのは快楽を求めるタイプかもしれない。
オルニが来た時点で僕は処分対象となっている。
組織は口封じをする為に地の果てまで僕を追い掛けてくるだろう。
待っているのは死のみ。
出来る事は苦しまずに逝く努力だけだ。
まだ覚醒しない頭でボンヤリと雨模様の空をベッドから眺めた。
隣ではもう起きて魔術書を読み耽っているアルトワルトの姿があった。
真剣な面持ちで魔術書に視線を落とす姿は様になっていて、やはり《聖女》より聖女らしい清廉な空気を纏っている。
こちらが目覚めている事に気付くと少し驚いた表情を浮かべた。朝に弱い僕が起きている事に珍しいと思っているのだろう。
「僕も起きようと思えば起きれるんすよ。」
「なら毎日きちんと起きろ。」
「まぁ、今日から起きてあげてもいいっすよ。」
「何故上から目線なんだ。」
どうだ、凄いだろうと胸を張る僕を可哀想な子を見るような目で向けながら溜息をついた。
「暗殺者とは皆、お前みたいなのか。」
「まさか。僕みたいな面白くて大人の魅力溢れる暗殺者はこの世に一人だけっすよ。」
「過大評価だな。阿呆でちんちくりんな暗殺者だろう。」
「手厳しいっすね。確かに大きい方でないけども百七十近くはあるっすよ、背。」
「オレは百七十五ある。お前より脚も長い。オレから見ればお前はちんちくりんだ。」
「うっわ、嫌味っすか。でも残念ながら僕は二十歳っす。男はまだ二十過ぎても伸びる。」
「オレは十八だ。」
「まさかの歳下。」
ティーンエイジャーかよ、とカラカラ笑いながらベッドに転がるとまた一つアルトワルトが溜息をつきながら僕の左手を掴んだ。ポケットからジャラリと取り出したブレスレットをおもむろに僕の手首に付ける。
「何すかコレ。」
「身分証のブレスレット。」
「身分証? 」
付けられたブレスレットにはプレートが付いていて、そのプレートには『シグリ・ハープナー。宮廷魔術師長夫人』と刻まれている。
アルトワルトの手首を見ると同じようなブレスレットが付いている。
どうやらこれは王城内で使える身分証代わりのブレスレットのようで、多分これがあれば城からの出入りも身体検査なしでいけるのだろう。
「コレは普通、王城勤めの者の家族も王城に勤めてなくても、もらえるんすかね。」
「もらえないな。」
「じゃあ、何で発行されたんすか…。」
アルトワルトは話は終わったと言わんばかりにスッと視線をまた魔術書に落とす。
ー まぁ、経緯なんてどうでもいいか。
自由に歩き回れる保証されてる事実が大切。
もしやこれがあれば今からでも《聖女》暗殺出来るのではないかとも思ったが、組織にはもう暗殺失敗ととられている。
今更、仕事した所で処分は免れない。
ー 無駄な殺しは主義じゃないっすし。
雨空を見上げると雨の中でもあの鳥は旋回を続けている。どうやらあの鳥もあの鳥の持ち主はこの王城には潜入出来ないようだ。
ー まぁ、だから僕が抜擢されたんすけどね。
常に結界で外からの刺客の潜入を防ぎ、唯一入れる城門は入念な身体検査。
人気芸人として要人に取り入り、簪に仕込んだ針で痕跡を残さずに暗殺する僕は今回の暗殺に組織お抱えの暗殺者の中で一番適していた。
王城に僕以外の暗殺者を送るにしても数ヶ月は仕込みに掛かるし、大掛かりな仕事になるだろう。
ー そろそろ動いた方がいいっすかね。
ベッドの上で軽く伸びをして首に嵌められている首輪に触れる。
動くにあたり問題なのはこの首輪だ。
城から出て僕を処分しに来たあの鳥の持ち主、オルニに会うにしても「戻れ。」と命が下りてしまえば、アルトワルトの下に戻らざるおえない。
だが……。
昨日、クラヴィスとの修羅場の後。
アルトワルトは組み上げた魔術の報告書を書き上げる仕事に戻った。つまり、アルトワルトは仕事を中断して、わざわざ僕を連れ戻しに来た事になる。
わざわざ来るくらいなら首輪に「戻れ。」と命じれば良かったのではとは思うが、もしかしたら命令の届く範囲があるのかもしれない。
ー 命令の効く範囲も調べなくては。
しかしそこまで時間もない。
オルニが僕の死神である間に接触しなくてはいけない。
オルニは暗殺者として腕もあり、粛々と仕事を全うするタイプ。
殺しに快楽を求めたりしない。標的で遊んだりせず、苦しまずに暗殺するオルニになら裏切り者の僕相手でも苦しまずにやってくれるだろう。
うちの組織の暗殺者は結構曲者揃いでオルニのようなタイプは少ない。
オルニが僕の処分の任から下されれば次に来るのは快楽を求めるタイプかもしれない。
オルニが来た時点で僕は処分対象となっている。
組織は口封じをする為に地の果てまで僕を追い掛けてくるだろう。
待っているのは死のみ。
出来る事は苦しまずに逝く努力だけだ。
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