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番外編 《ガウェイン》①
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「君は真っ直ぐ過ぎる。」
曲がるという事を知らず、誰であろうが真っ直ぐと相手の目を見て、ぶつかって行く君の背を僕はただ何も言えずに何も出来ずに見送る事すら出来ずに眺めていた。
これから君が進む道はどれだけ君を傷付け、苦しめるか知っているというのに、僕は君を止めない。僕等の誓いを厳守する為に、それがこの世界為だと言い訳して僕等は君達を犠牲にする。
だが、それが鬼畜の所業だとしても僕等はもう後戻りはできない。
千年前のあの日。
今は《彼の王》と呼ばれる我等が王が命を落としたあの日。
骸になった王をその腕に抱き寄せ、あの方の願いを胸にひとりの大魔法使いが命を賭してこの世界に魔法を掛けたあの日。
あの日に僕等は誓いを立てた。
『俺達が王の意志を継ぐ。俺達がこの世界の、この魔法の、行く末を見守っていこう。』
二人の死を無駄にしてはいけない。
騎士として仕える王を守るという本懐を遂げられなかった僕等は自身達の無力さとその尊き願いを胸に最期の瞬間まで生き抜くと誓った。
ある者は自身が王となり、王の願った世界の実現の為に奔走し。
ある者は王が愛したこの世界の人々の為に身を粉にして戦い抜いた。
そして王に仕えた騎士の中でも長寿である僕と白龍は大魔法使いの遺した魔法とこの世界の行く末を見守り続ける役目を果たす事となった。
「随分と辛い役目を担わせて悪ぃな、ガウェイン。」
極力手を出さず、魔法を見守り続けるだけの役目だというのに、その役目を受け負った時に人族の騎士ケイはそう申し訳なさそうに背を叩いた。
「…まぁ、何千年も生きる長寿種の僕等にはおあつらえ向きの役目だしねぇ。…ふふっ。大体、人族の王として我が王の代わりに国を背負う君の方が大変だから気にしない。君はホント、変な人族だねぇ。」
「…まぁ、それもそうだがな。俺はお前が心配でしょうがねぇよ。」
「うーん。心配はごもっともだから何も言えないねぇ。僕の所為で一国滅んだしねぇ。信用はマイナスかな?」
「そういう事じゃねぇよ、阿呆。」
パシッと頭を軽く叩いて、全くと溜息をつくこの僕の親友は口も悪ければ手もすぐ出る人だったけど。彼はニ千年以上生きている僕よりも周りがよく見えて気の使える出来た人間だった。
心配性な所もあり、一ヶ月に一回は俺を尋ねに来い。と、再三約束させられて、彼が死ぬまでの期間、会いに行っては他愛のない話プラス説教されていた。
共に同じ王に仕えた騎士達も時が経つに連れ、様々な理由でこの世を去っていった。約束から七十年経つ頃にはもう存命の騎士は僕と白龍とケイだけになっていた。
「全く、お前は何十年経っても世話が焼ける。」
ケイはそうヨボヨボになり起きられなくなった身体をベッドに横たえて、何十年も変わらない説教をする。それを何十年前と変わらない姿で僕はベッドの横に用意された椅子に座り聞く。
「君の説教も何十年経っても変わらないねぇ。…それにしても、たった七十年で僕とランスロットと君だけになってしまうなんてね。」
「はぁ…。俺は心配で死ぬに死ねないだけだがな。獣人のベディヴィアは人族並の寿命だからしょうがないとしてお前達の次に長生きな筈のガラハットが一番に逝っちまうなんてな。」
「彼は他が為に生き、死ねる子だったからねぇ。騎士として立派な最期だったよ。」
「…ランスロットは大丈夫か?流石のアイツも息子の死はこたえただろう。」
「まぁ、ちょっと女遊びが酷くなったかな。知能が少しある魔物のメスにも手を出しはじめたから。」
「それは息子の死が云々じゃなく、ただ見境がなくなっただけだろ。アイツもアイツでしょうもねぇな、…ったく。」
アイツも久々に呼んで説教か…と、呟いたケイの口から苦しげな咳が出始め、ベッドの隣に置いてあった水差しを手に取ろうとしたがケイは要らないと制止する。
ケイは人族としてかなり長生きしている部類に入るらしく、その分、身体のあちこちにガタが来ていた。魔力も今にも途絶えそうで寧ろ、生きている事自体が不思議なくらいだった。
だから覚悟はしていた。もう長くないと。
本当に騎士達の生き残りは僕とランスロットだけになってしまうと。
「俺が死んでも泣くなよ、ガウェイン。俺は本当は充分な程長生きしたんだからな。」
「泣かないさ。僕は長命の耳長族だよ?…長く生きてるんだ。人の死には慣れてる。」
「……倅達にはお前の事を頼んである。俺の子孫が途絶えるまではお前が孤独にならないようにお前の元に行かせるから間違っても後追いなんてしてくれるなよ。」
「だからそんな事しなくても大丈夫だよ、ケイ。僕はこれでも君より数千年長く…。」
「後追いなんてしてみろ。あの世でしこたま説教の上、怒りながらお前が困る程泣いてやる。」
「……えぇ。君が泣くなんて珍しい。ちょっと見たいかも。」
「何期待してんだ、阿呆。」
軽口に呆れた顔を浮かべる君の紅茶色の瞳は何処か悲しそうに揺らいだ。それを何百年経った今でも鮮明に覚えている程、僕にとっては印象的だった。
「なぁ、ガウェイン。本当は分かってんだろ?お前が選んだ道がどれ程のお前にとって辛い道か。大魔法使いが負わなかった魔法への責任を全てお前達が負う事になるって事を。」
「大袈裟だよ。ただ見守る…それだけ。…ほら、もう休んだ方がいいねぇ。老体には長話はキツイでしょ?」
「最期まで俺の話を聞け。…見守ると言えば聞こえはいいが、言い方を変えれば、手出しをしないという事。幾らこの世界が《選帝の獣》に牙を向き、死の運命が待ち受けていようが、手出しが出来ない。本当は救える力があるのに救えないのは辛いだろうが。その上、『何故、救わなかった。』と責められるのはお前達だ。」
「別に構わないねぇ。今更、罪が何個増えようが僕等はもう大罪を犯している。」
「そういう所が心配だって言ってんだよ。お前はそれが罪だと分かっている。……お前は長く生きてる癖にランスロットと違って人寄り過ぎる。それなのに長生きときたからタチが悪い。お前はその罪を何千年掛けて償い続けるつもりだ。」
「生きてる限り…かな?」
「あのなぁ…。そもそもお前一人の罪ではない。この罪は言うなれば俺達全員の罪だ。それをお前一人が償い続ける必要なんざない。大体、お前が言う大罪の方もな。お前だけの責任じゃねーんだよ、阿呆が。」
ケイの言葉に思わず可笑しくて笑い声を漏らす。
それを見てケイの深く刻まれた眉間の皺が更に寄ったが、しょうがない。だって、あの大罪すらも僕だけの責任じゃないっていうのはあまりにも甘過ぎる。
僕は僕の無能さ故に守るべき民を戦争へと駆り立て、ちっぽけな種族のプライドの為に死に絶えるまで戦いをやめなかった。民を死へと導き、多くの龍族の命を奪った。大事にしていた妹分すらも殺す気はなかったとは言え、その手に掛けた。
この大罪は一生を懸けて償わなければいけない。
いや、死んだとしても赦されてはいけない。
「…お前気付いているか? 辛い時に何時もその腰の剣に触れている事。」
そう問われてはたと自身の手が剣に触れている事に気付き、ソッと手を離す。
しかし、その手を今度はケイが皺だらけの血管が浮いた手で握る。その手は剣を握っていた全盛期に比べる弱々しいのにそれでもまるで最期かのように力強く僕の手を握る。
「民も臣下も種族の滅亡に至るまでお前を止めなかった。」
「僕はエルフの国の王で、真に国を想うなら自らその結末に向かってしまう前に止まるべきだった。」
「確かにそうだがな。滅びに突き進んだのは全員の意思だろ。全員がその道を選んだ。王だから、生き残ってしまったから、その全員の罪も背負わねばいけないのか?何百年も何千年も一人で苦しみ続けなければいけないのか?」
「そうさ。それだけの罪だと思うよ。」
「…違うだろ。滅んだのは全員の責任だ。お前一人が背負うべきじゃない。…ああ、くそっ。お前がそんなんだから俺は死ねないんだろ。死んでも死に切れない。どうせ、俺達騎士の罪も全て背負うつもりなんだろうが、阿呆。」
「……ランスロットだって一緒でしょ?」
「アイツはお前と違って割り切れんだよ。割り切って生きていけるんだ。過去は過去として今日を生きようと出来る。」
苦痛に歪むその顔に僕は申し訳なさを感じると同時に僕の何がいけないのか分からなかった。僕の何が君をそこまで苦しめているのかが分からなかった。
「この先、お前がどれ程憎まれようと責められようと俺は何百年、何千年経とうがお前を肯定する。お前を許し続ける。…それだけは忘れないでいてくれ。」
そう言われた言葉に「それは僕が負うべき責だから許さなくていい。」と答えようとした。しかし、ケイの顔を見ていると上手く言葉が口から出て来ず、ただ俯いた。
それからケイがこの世を去ったのは五日後の事だった。
あの日はとても晴れた快晴の日でケイを悼む者達の悲しみがポタリポタリッと流れ落ちて行く光景がまるで天気雨のようで。
僕は全く濡れぬ渇いた頰を撫で、「ほら見た事か。」と溜息をついた。
「慣れっこだよ。自分より薄命な者の死には。僕の瞳はあの空のように快晴さ。雨の一つも降りはしない。」
確かに君がいないのは寂しいけど、それでも僕は悲しまない。それなのに君の子等は君との約束を律儀に守った。
君の子が死ねば孫が。孫が死ねば曾孫が。
森の奥底でひっそりと御隠居ライフ…のつもりだったのに何時も部屋には笑い声や僕の名を呼ぶ声で溢れていた。
曲がるという事を知らず、誰であろうが真っ直ぐと相手の目を見て、ぶつかって行く君の背を僕はただ何も言えずに何も出来ずに見送る事すら出来ずに眺めていた。
これから君が進む道はどれだけ君を傷付け、苦しめるか知っているというのに、僕は君を止めない。僕等の誓いを厳守する為に、それがこの世界為だと言い訳して僕等は君達を犠牲にする。
だが、それが鬼畜の所業だとしても僕等はもう後戻りはできない。
千年前のあの日。
今は《彼の王》と呼ばれる我等が王が命を落としたあの日。
骸になった王をその腕に抱き寄せ、あの方の願いを胸にひとりの大魔法使いが命を賭してこの世界に魔法を掛けたあの日。
あの日に僕等は誓いを立てた。
『俺達が王の意志を継ぐ。俺達がこの世界の、この魔法の、行く末を見守っていこう。』
二人の死を無駄にしてはいけない。
騎士として仕える王を守るという本懐を遂げられなかった僕等は自身達の無力さとその尊き願いを胸に最期の瞬間まで生き抜くと誓った。
ある者は自身が王となり、王の願った世界の実現の為に奔走し。
ある者は王が愛したこの世界の人々の為に身を粉にして戦い抜いた。
そして王に仕えた騎士の中でも長寿である僕と白龍は大魔法使いの遺した魔法とこの世界の行く末を見守り続ける役目を果たす事となった。
「随分と辛い役目を担わせて悪ぃな、ガウェイン。」
極力手を出さず、魔法を見守り続けるだけの役目だというのに、その役目を受け負った時に人族の騎士ケイはそう申し訳なさそうに背を叩いた。
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「全く、お前は何十年経っても世話が焼ける。」
ケイはそうヨボヨボになり起きられなくなった身体をベッドに横たえて、何十年も変わらない説教をする。それを何十年前と変わらない姿で僕はベッドの横に用意された椅子に座り聞く。
「君の説教も何十年経っても変わらないねぇ。…それにしても、たった七十年で僕とランスロットと君だけになってしまうなんてね。」
「はぁ…。俺は心配で死ぬに死ねないだけだがな。獣人のベディヴィアは人族並の寿命だからしょうがないとしてお前達の次に長生きな筈のガラハットが一番に逝っちまうなんてな。」
「彼は他が為に生き、死ねる子だったからねぇ。騎士として立派な最期だったよ。」
「…ランスロットは大丈夫か?流石のアイツも息子の死はこたえただろう。」
「まぁ、ちょっと女遊びが酷くなったかな。知能が少しある魔物のメスにも手を出しはじめたから。」
「それは息子の死が云々じゃなく、ただ見境がなくなっただけだろ。アイツもアイツでしょうもねぇな、…ったく。」
アイツも久々に呼んで説教か…と、呟いたケイの口から苦しげな咳が出始め、ベッドの隣に置いてあった水差しを手に取ろうとしたがケイは要らないと制止する。
ケイは人族としてかなり長生きしている部類に入るらしく、その分、身体のあちこちにガタが来ていた。魔力も今にも途絶えそうで寧ろ、生きている事自体が不思議なくらいだった。
だから覚悟はしていた。もう長くないと。
本当に騎士達の生き残りは僕とランスロットだけになってしまうと。
「俺が死んでも泣くなよ、ガウェイン。俺は本当は充分な程長生きしたんだからな。」
「泣かないさ。僕は長命の耳長族だよ?…長く生きてるんだ。人の死には慣れてる。」
「……倅達にはお前の事を頼んである。俺の子孫が途絶えるまではお前が孤独にならないようにお前の元に行かせるから間違っても後追いなんてしてくれるなよ。」
「だからそんな事しなくても大丈夫だよ、ケイ。僕はこれでも君より数千年長く…。」
「後追いなんてしてみろ。あの世でしこたま説教の上、怒りながらお前が困る程泣いてやる。」
「……えぇ。君が泣くなんて珍しい。ちょっと見たいかも。」
「何期待してんだ、阿呆。」
軽口に呆れた顔を浮かべる君の紅茶色の瞳は何処か悲しそうに揺らいだ。それを何百年経った今でも鮮明に覚えている程、僕にとっては印象的だった。
「なぁ、ガウェイン。本当は分かってんだろ?お前が選んだ道がどれ程のお前にとって辛い道か。大魔法使いが負わなかった魔法への責任を全てお前達が負う事になるって事を。」
「大袈裟だよ。ただ見守る…それだけ。…ほら、もう休んだ方がいいねぇ。老体には長話はキツイでしょ?」
「最期まで俺の話を聞け。…見守ると言えば聞こえはいいが、言い方を変えれば、手出しをしないという事。幾らこの世界が《選帝の獣》に牙を向き、死の運命が待ち受けていようが、手出しが出来ない。本当は救える力があるのに救えないのは辛いだろうが。その上、『何故、救わなかった。』と責められるのはお前達だ。」
「別に構わないねぇ。今更、罪が何個増えようが僕等はもう大罪を犯している。」
「そういう所が心配だって言ってんだよ。お前はそれが罪だと分かっている。……お前は長く生きてる癖にランスロットと違って人寄り過ぎる。それなのに長生きときたからタチが悪い。お前はその罪を何千年掛けて償い続けるつもりだ。」
「生きてる限り…かな?」
「あのなぁ…。そもそもお前一人の罪ではない。この罪は言うなれば俺達全員の罪だ。それをお前一人が償い続ける必要なんざない。大体、お前が言う大罪の方もな。お前だけの責任じゃねーんだよ、阿呆が。」
ケイの言葉に思わず可笑しくて笑い声を漏らす。
それを見てケイの深く刻まれた眉間の皺が更に寄ったが、しょうがない。だって、あの大罪すらも僕だけの責任じゃないっていうのはあまりにも甘過ぎる。
僕は僕の無能さ故に守るべき民を戦争へと駆り立て、ちっぽけな種族のプライドの為に死に絶えるまで戦いをやめなかった。民を死へと導き、多くの龍族の命を奪った。大事にしていた妹分すらも殺す気はなかったとは言え、その手に掛けた。
この大罪は一生を懸けて償わなければいけない。
いや、死んだとしても赦されてはいけない。
「…お前気付いているか? 辛い時に何時もその腰の剣に触れている事。」
そう問われてはたと自身の手が剣に触れている事に気付き、ソッと手を離す。
しかし、その手を今度はケイが皺だらけの血管が浮いた手で握る。その手は剣を握っていた全盛期に比べる弱々しいのにそれでもまるで最期かのように力強く僕の手を握る。
「民も臣下も種族の滅亡に至るまでお前を止めなかった。」
「僕はエルフの国の王で、真に国を想うなら自らその結末に向かってしまう前に止まるべきだった。」
「確かにそうだがな。滅びに突き進んだのは全員の意思だろ。全員がその道を選んだ。王だから、生き残ってしまったから、その全員の罪も背負わねばいけないのか?何百年も何千年も一人で苦しみ続けなければいけないのか?」
「そうさ。それだけの罪だと思うよ。」
「…違うだろ。滅んだのは全員の責任だ。お前一人が背負うべきじゃない。…ああ、くそっ。お前がそんなんだから俺は死ねないんだろ。死んでも死に切れない。どうせ、俺達騎士の罪も全て背負うつもりなんだろうが、阿呆。」
「……ランスロットだって一緒でしょ?」
「アイツはお前と違って割り切れんだよ。割り切って生きていけるんだ。過去は過去として今日を生きようと出来る。」
苦痛に歪むその顔に僕は申し訳なさを感じると同時に僕の何がいけないのか分からなかった。僕の何が君をそこまで苦しめているのかが分からなかった。
「この先、お前がどれ程憎まれようと責められようと俺は何百年、何千年経とうがお前を肯定する。お前を許し続ける。…それだけは忘れないでいてくれ。」
そう言われた言葉に「それは僕が負うべき責だから許さなくていい。」と答えようとした。しかし、ケイの顔を見ていると上手く言葉が口から出て来ず、ただ俯いた。
それからケイがこの世を去ったのは五日後の事だった。
あの日はとても晴れた快晴の日でケイを悼む者達の悲しみがポタリポタリッと流れ落ちて行く光景がまるで天気雨のようで。
僕は全く濡れぬ渇いた頰を撫で、「ほら見た事か。」と溜息をついた。
「慣れっこだよ。自分より薄命な者の死には。僕の瞳はあの空のように快晴さ。雨の一つも降りはしない。」
確かに君がいないのは寂しいけど、それでも僕は悲しまない。それなのに君の子等は君との約束を律儀に守った。
君の子が死ねば孫が。孫が死ねば曾孫が。
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