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清々しい朝に
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脱がされたズボンと下着を履き、まだ痛いと頭を抱えて泣くアホを無視して扉の鍵を確認する。
昨晩、閉めて寝た鍵は奴の持つ部屋の鍵によって開けられてしまっている。
ー …これ、部屋に鍵がある意味ってあるか?
そもそも家主とはいえ変態が部屋の鍵のマスターキーを持っている時点でアウトだろ。
「コタ。おはよウ。」
ふわりと花の香りが鼻腔をくすぐり、顔を上げると薬茶と魔力増強剤を持ったミドリが柔らかな笑みを浮かべて立っていた。
俺の寿命の件で塞ぎがちだったミドリ。この一ヶ月では見なかった笑顔に少しホッとする。
「おはよう、ミドリ。」
「うん。…コタ。お薬の時間だから座っテ。」
ミドリに促されてベッドに座り、魔力増強剤と薬茶を飲むとやはりお風呂に浸かっているような心地よさが全身を包んで折角起きたのにまた微睡む。
そのまま少しベッドに横たわろうとも思ったが、ミドリが腰に小さな手を回し、あまりにも懸命に支えるので身を預けた。
ー コイツも俺以外に仲間を作んないとな。
ミドリが俺にベッタリなのは仲間を失ってから唯一出来た仲間だから。
仲間の一人二人増えれば、俺が消えたとしてもコイツの孤独も少しは満たされる筈だ。
勿論、ただで死んでやる気はない。
俺だって男のプライドを捨てる以外に生き残る方法があるなら死ぬ程痛かろうがなんだろうが、生きる為にその方法に手を伸ばす。
「大体、トリなんちゃらが喚んだんだろうが、アイツがなんとか出来ねぇのかよ。」
大魔法使いが組み込んだ元々の役割だったとしても、喚んだのはアイツだ。そもそもアイツが喚んだんだから男らしく喚んだ責任を果たすべきだ。
そして、あの切れてはいけなかったものだと感じたあの白く光る糸。
あの変態が夢の中に出て来て、あの糸を剣で刺してからあの白く光る糸は見えなくなってしまったが、あの糸が切れてから不調が始まった。
あの糸も俺の魔力欠乏症に関係ある気がするし、喚んだトリなんちゃらだったら何か知ってる事もあるんじゃないだろうか。
取り敢えず、トリなんちゃらに思いの丈を一発入れて、問いただす価値は十分ある。やはり、城にカチコミを入れるべきだな。
「コタ。朝食出来てるけど立てル? ここで食べル? 」
今後の方針が決まり、どうあの城に侵入するか考えているとミドリがこてんと首を傾げて様子を伺う。
「身体はすっかり元気になったから心配すんな。……ありがとな、ミドリ。」
ニッと笑い掛けると俺の腰に回るミドリの手に少し力が入り、ミドリの顔が俺の胸に埋まり、ギュッと抱きしめられた。
「コタ。今度はボクが……………絶対…。」
胸の中でミドリが小さく何かを呟いた。
何か言ったかと聞けば、ミドリはフルフルと首を横に振る。飛び降りるようにベッドから降りると「朝食冷めちゃうから早ク。」とパタパタ元気に廊下を駆けていった。
「いやぁー、ミドリくんは働き者だねぇ。そして今日も魚なのかなぁ。リザードマン、今日も来てたからなぁ。」
ミドリの後ろ姿を見送るとボフッと隣に座り、チラリと変態が窓の外を見る。
すると窓の外で様子を窺っていたらしき、トカゲっぽい影とライオンっぽい影達は慌てて逃げ出した。
「モテモテだねぇ、コタくんは。」
苦笑を浮かべると変態は俺の首に触れ、頰に触れた。
「うん。ある程度は回復したねぇ。……でも、完治した訳じゃないからねぇ。今だって魔力の欠乏は確実に君の身体を蝕んでる。」
釘を刺すようにそう告げた言葉は口調の所為か、やはり軽く感じるが見つめる翠の瞳は鋭く真剣そのもの。
軽く息を吐き、「分かってる。」と頷けば、翠の瞳からは真剣さが消え、息をするように変態行為をするいつも通りの奴が帰ってくる。
パシンッと尻を触る手を叩けば、「ミドリくんと違ってコタくんは僕に優しくないし、料理も下手。」と癪に障る泣き真似をしながらミドリの所に逃げていく。
ついでに俺はこの変態に頑なに料理を作る事を禁止されている。
奴曰く、まずトマトやリンゴを包丁使わずに手で潰して調理する事が駄目だったらしい。そして次に味が大雑把すぎる。目分量で料理していいのは料理に慣れている人の特権。袋や瓶から直接調味料を投入するって気は確か? 食材に謝れ……だ、そうだ。
確かに出来は塩辛かったが、別に食えない事もなかったので食えりゃあOKだろと反論したら台所に入る事すら禁止になった。
何がいけなかったのか。
ミドリに聞けば、「コタの料理はコタの性格がよく出てル。ボクは男らしくていいと思ウ。」と言いつつも台所に手伝いに行けば、何時も千切るだけのレタスしか触らせてもらえない。確実に気を遣われてる。
認めたくねぇがミドリの気の遣いっぷりから察するに俺は料理が出来ない分類に入るんだろうな……。
昨晩、閉めて寝た鍵は奴の持つ部屋の鍵によって開けられてしまっている。
ー …これ、部屋に鍵がある意味ってあるか?
そもそも家主とはいえ変態が部屋の鍵のマスターキーを持っている時点でアウトだろ。
「コタ。おはよウ。」
ふわりと花の香りが鼻腔をくすぐり、顔を上げると薬茶と魔力増強剤を持ったミドリが柔らかな笑みを浮かべて立っていた。
俺の寿命の件で塞ぎがちだったミドリ。この一ヶ月では見なかった笑顔に少しホッとする。
「おはよう、ミドリ。」
「うん。…コタ。お薬の時間だから座っテ。」
ミドリに促されてベッドに座り、魔力増強剤と薬茶を飲むとやはりお風呂に浸かっているような心地よさが全身を包んで折角起きたのにまた微睡む。
そのまま少しベッドに横たわろうとも思ったが、ミドリが腰に小さな手を回し、あまりにも懸命に支えるので身を預けた。
ー コイツも俺以外に仲間を作んないとな。
ミドリが俺にベッタリなのは仲間を失ってから唯一出来た仲間だから。
仲間の一人二人増えれば、俺が消えたとしてもコイツの孤独も少しは満たされる筈だ。
勿論、ただで死んでやる気はない。
俺だって男のプライドを捨てる以外に生き残る方法があるなら死ぬ程痛かろうがなんだろうが、生きる為にその方法に手を伸ばす。
「大体、トリなんちゃらが喚んだんだろうが、アイツがなんとか出来ねぇのかよ。」
大魔法使いが組み込んだ元々の役割だったとしても、喚んだのはアイツだ。そもそもアイツが喚んだんだから男らしく喚んだ責任を果たすべきだ。
そして、あの切れてはいけなかったものだと感じたあの白く光る糸。
あの変態が夢の中に出て来て、あの糸を剣で刺してからあの白く光る糸は見えなくなってしまったが、あの糸が切れてから不調が始まった。
あの糸も俺の魔力欠乏症に関係ある気がするし、喚んだトリなんちゃらだったら何か知ってる事もあるんじゃないだろうか。
取り敢えず、トリなんちゃらに思いの丈を一発入れて、問いただす価値は十分ある。やはり、城にカチコミを入れるべきだな。
「コタ。朝食出来てるけど立てル? ここで食べル? 」
今後の方針が決まり、どうあの城に侵入するか考えているとミドリがこてんと首を傾げて様子を伺う。
「身体はすっかり元気になったから心配すんな。……ありがとな、ミドリ。」
ニッと笑い掛けると俺の腰に回るミドリの手に少し力が入り、ミドリの顔が俺の胸に埋まり、ギュッと抱きしめられた。
「コタ。今度はボクが……………絶対…。」
胸の中でミドリが小さく何かを呟いた。
何か言ったかと聞けば、ミドリはフルフルと首を横に振る。飛び降りるようにベッドから降りると「朝食冷めちゃうから早ク。」とパタパタ元気に廊下を駆けていった。
「いやぁー、ミドリくんは働き者だねぇ。そして今日も魚なのかなぁ。リザードマン、今日も来てたからなぁ。」
ミドリの後ろ姿を見送るとボフッと隣に座り、チラリと変態が窓の外を見る。
すると窓の外で様子を窺っていたらしき、トカゲっぽい影とライオンっぽい影達は慌てて逃げ出した。
「モテモテだねぇ、コタくんは。」
苦笑を浮かべると変態は俺の首に触れ、頰に触れた。
「うん。ある程度は回復したねぇ。……でも、完治した訳じゃないからねぇ。今だって魔力の欠乏は確実に君の身体を蝕んでる。」
釘を刺すようにそう告げた言葉は口調の所為か、やはり軽く感じるが見つめる翠の瞳は鋭く真剣そのもの。
軽く息を吐き、「分かってる。」と頷けば、翠の瞳からは真剣さが消え、息をするように変態行為をするいつも通りの奴が帰ってくる。
パシンッと尻を触る手を叩けば、「ミドリくんと違ってコタくんは僕に優しくないし、料理も下手。」と癪に障る泣き真似をしながらミドリの所に逃げていく。
ついでに俺はこの変態に頑なに料理を作る事を禁止されている。
奴曰く、まずトマトやリンゴを包丁使わずに手で潰して調理する事が駄目だったらしい。そして次に味が大雑把すぎる。目分量で料理していいのは料理に慣れている人の特権。袋や瓶から直接調味料を投入するって気は確か? 食材に謝れ……だ、そうだ。
確かに出来は塩辛かったが、別に食えない事もなかったので食えりゃあOKだろと反論したら台所に入る事すら禁止になった。
何がいけなかったのか。
ミドリに聞けば、「コタの料理はコタの性格がよく出てル。ボクは男らしくていいと思ウ。」と言いつつも台所に手伝いに行けば、何時も千切るだけのレタスしか触らせてもらえない。確実に気を遣われてる。
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