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 「おめでとう、聖子!」

 「お幸せに!」



 友人達の祝福を浴びながら、私はあの人と結婚した。
 頭が良くて、格好良くて、お金持ちで、優しくて……
非の打ち所のない人だと思ってた。
そんな人と結ばれる私は、世界一の幸せ者だと本気で思ってた。



 小さな違和感を感じたのは、新婚旅行の時だった。
どこへ行くにも私の傍を片時も離れず、繋いだその手を離さないあの人に、どこかおかしな気分を感じながらも、それは慣れない海外で私のことを心配してのことだと思っていた。
 彼は私にとても優しかったし、その頃の私は幸せで胸がいっぱいで彼の異常さには欠片程も気付くことはなかった。



そのことに気付かされたのは、新婚旅行から戻って来てすぐのことだった。



 「聖子、着ているものを全部脱ぐんだ。」

 「えっ…!?……何?
どういうことなの?」



 仕事に出掛ける前になり、あの人が突然そんなことを私に言った。
まるで意味がわからない。
 戸惑っている私に、あの人は追い討ちをかけるように同じ言葉をまた口にした。
さっきよりも強い口調で…



「だから、どうしてなの?
そんなのいやだわ…恥ずかしいし…」

 「いいからいうことを聞くんだ!」

とても恐ろしい目だった。
 彼のことが別人のように思え、私は仕方なく彼の言葉に従った。



 「さぁ、こっちだ。」

 彼が私を連れて行ったのは、ある特別な部屋。
 近々、ピアノを習おうと思っているからわざわざ作ったんだと言われた防音設備の整った部屋だった。
 民家には不似合いな分厚い扉を開けると、そこにはまだピアノはなく、小さなテレビがあるだけだった。



 「食べるものはそこにある。
じゃあ、行って来るから。」

 「行くって…あの……」



 分厚い扉が閉じられ、外からかちゃりと鍵のかかる無情な音が響いた。

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