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闇の声

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「リチャード…私があなたなんかとよりを戻すと思ってたの?
 私にはこんなに素敵な彼がいるのよ。」

エレナは、甲高い声を上げ、リチャードを嘲笑った。
ライアンもおかしそうにくすくすと肩を揺らす。
リチャードのプライドはずたずただ。
 彼から発せられる憎しみの感情に、私は活力がみなぎるのを感じた。



エレナはそれからも、周りの人々を傷付け、私に憎しみや怒りの感情をたくさん与えてくれた。
 彼女自身、初めて出会った時とはすっかり変わり、実に、嫉妬深く、傲慢な性格に変わっていたから、何かというと人を憎しみ、妬んでくれたおかげで、私は常に満足した状態だった。



 実に良い獲物だ。
これからもずっとエレナに憑りつき、彼女をうまく操ってやろうと私は考えていた。



だが、ある日、彼女は唐突に命を絶ってしまったのだ。
どれほど変わろうとも、彼女の根底には、いまだ脈々と白き心が生き続けていたのだ。
それに気付かなかったのは私の落ち度だ。



 彼女は、今の暮らしに…自分自身に疑問を抱いていたのだろう。
 男達を虜にし、金品を巻き上げ、面白おかしく生きる毎日の中で、エレナはずっと何かが違うと感じていたのだろう。
どこかでそれを良くないと感じていたのだ。
だが、一度覚えた蜜の味はなかなか忘れられるわけではない。



その挙げ句、彼女は衝動的に逝ってしまった。
 今の華やかな生活を何も考えずに受け入れていたならば、エレナにはこれからもずっと贅沢で愉しい日々が続いただろうに…



もっと染まってしまえば良かったのだ。 
 闇のような黒い色に…そうすれば、悩むことなんて何もなかったのに…



彼女の灰色の魂には、深い悲しみや罪悪感、後悔が刻み込まれていた。



 (死んだ者のことを考えても仕方がない。
また新たな獲物をみつけよう…)



 私は、気持ちを切り替え、町へ繰り出した。 
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