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新米守護霊

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「ふわぁ~…」



 幸彦の力の抜けた大あくびに、こっちのやる気もそがれてしまう。
 今日は、わしの初仕事の日だというのに…



幸彦は、実家暮らしなのを良いことに、週五日、アルバイトをしている。
もう30歳だというのに、全く仕方のない奴だ。
もしかしたら、先輩が、こいつを甘やかしたのかもしれない。



わしは厳しくやるぞ!
 厳しくやって、こやつをもっと素晴らしい人間に引き立ててやる…!



そんな闘志がわきあがったその刹那…
幸彦が、地下鉄の階段を踏み外した。



 『あ、あぶないっ!』



わしは、必死に幸彦の態勢を立て直した。
そのおかげで、幸彦は三段落ちただけで済んだ。



 「いってぇ…」



 幸彦は、顔を歪めて足をさする。
どうやら、捻挫をしたようだ。



 幸彦はゆっくりと立ち上がり、近くのベンチに座ると、ポケットからスマホを取り出した。



 「あ、店長ですか。
 三浦です。
 今、俺、階段から落ちて足をくじきましてね。
 今日からしばらく休ませていただきます。」

 「そんなこと急に言われても困るよ!
なんとか出て来られないのか!」

 「無茶言わないで下さいよ。
もしかしたら、骨が折れてるかもしれないのに…」

 「だが、こっちにも都合ってもんが…」

 「じゃあ、俺、バイトやめますから。
お世話になりました。」



そう言うと、幸彦は電話を切った。
なんという短絡的な性格か…
わしは呆れてしまった。



 「あ~、いて…
本当に俺ってツイてないな…」

そんな愚痴をこぼす幸彦に、わしは苛々するのを必死で堪えた。
 馬鹿者めが!
わしが支えてやらなければ、もっと高い所から落ちて、それこそ骨を折るか、大けがをしていたはずなのに、それを感謝するどころか、ツイてないとはどういうことか。
そもそも、あんなにぼさーっとして歩いてるから、階段を踏み外すんだ。



 「とりあえず、病院行くか…」

 幸彦は、片足を引きずりながら、歩き始めた。
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