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「ここよ。」

「ここって…?」



やがて、車は新居に着いた。
とは言っても、まだ、工事は始まったばかりだけど…
門から入り、私は庭に車を停めた。



「何なんだよ、ここ…」

「……私達の新居よ。」

「新居……?」

咲哉は腹を抱えて笑い始めた。



「咲哉…どうして笑うの?
あなた、言ってたじゃない。
住むのはマンションより一軒家が良いって。
だから、私、良い場所を探して…ここなら静かだし、便利も良いし…」

私がそう言うと、咲哉はさらに大きな声で笑った。
私にはその笑いの意味が分からず、ただ、不安な気持ちで彼の笑いの発作がおさまるのを待っていた。



「百合子…冗談はほどほどにしてくれよ。
俺、腹の皮がよじれて死にそうだったよ。」

そう言いながら、咲哉は笑い過ぎて溢れた涙を拭った。



「なにがそんなにおかしいの?
私は笑うようなことなんて言ってないわ。」

「言ったじゃない。私達の新居だって。」

「どうしてそれがおかしいの?」

月の明かりに照らされて、咲哉の口端が歪むのが見えた。



「なんで俺がおまえと暮らさなきゃいけないんだよ。」

今までとは打って変わって、酷く冷たい声だった。



「何も今すぐ結婚しようって言ってるんじゃないわ。
結婚は、咲哉の言う通り、メジャーデビューが決まってからで良いの。
ただ…早く一緒に暮らしたいと思って…」

「……信じられない。どこまで鈍感なんだ。
まさか、まだ気付いてないっていうんじゃないだろうな?
それに、今日のことだって…」

「咲哉……何を言ってるの?」

咲哉は、私を今までに見たことのないような冷ややかな視線でみつめた。




「もうたくさんなんだよ!」

「咲哉…?」

「いくら金のためとはいえ、おまえみたいなくだらない女の相手をするのはもう飽き飽きだって言ってるんだ。」




彼は、吐き捨てるようにそう言うと、私のことを睨みつけた。
激しい憎悪を感じる瞳で……
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