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「皆様、お待たせいたしました!
天才ピアニスト、リシャール・セガラの登場です!」
割れんばかりの歓声と拍手の中、長い金髪をなびかせ、華奢な青年がしずしずとピアノの前に進み出て、小さく頭を下げる。
天才ピアニストという大仰な謳い文句とは裏腹な、とても控えめな印象だ。
やがて、彼は席に着き、その長い指先で鍵盤を叩き始めた。
さざ波のように静かで穏やかに…
確かに評判通りだ。
彼の旋律は、私にありもしない風景を見せつけた。
広い草原…そよぐ柔らかな風…草のにおい…
私には、それらが見え、感じられたのだ。
彼の演奏に聞き入り、遠い世界を旅している時、ふと泳がせた視線がある人物の元で止まった。
その途端…自分でも意外な程、心臓が飛び跳ねた。
それは、可憐な印象の黒髪の女だった。
もちろん、人間の女だ。
頬を上気させ、夢見るような瞳をして、リシャールの演奏に聞き入っているその顔に、私はこともあろうか、一目惚れをしてしまったのだ。
ありえない…!
私が人間の女に一目惚れをするなんて…
しかし、私は彼女から視線をはずせなくなっていた。
確かに美しい女だが、美人なら悪魔にも山ほどいる。
なのに、なぜ、下等な人間の女に一目惚れなど…
自分の心が理解出来なかった。
私は、その瞬間から、楽しみにしていたピアノの演奏もうわの空で、彼女の顔ばかりみつめていた。
天才ピアニスト、リシャール・セガラの登場です!」
割れんばかりの歓声と拍手の中、長い金髪をなびかせ、華奢な青年がしずしずとピアノの前に進み出て、小さく頭を下げる。
天才ピアニストという大仰な謳い文句とは裏腹な、とても控えめな印象だ。
やがて、彼は席に着き、その長い指先で鍵盤を叩き始めた。
さざ波のように静かで穏やかに…
確かに評判通りだ。
彼の旋律は、私にありもしない風景を見せつけた。
広い草原…そよぐ柔らかな風…草のにおい…
私には、それらが見え、感じられたのだ。
彼の演奏に聞き入り、遠い世界を旅している時、ふと泳がせた視線がある人物の元で止まった。
その途端…自分でも意外な程、心臓が飛び跳ねた。
それは、可憐な印象の黒髪の女だった。
もちろん、人間の女だ。
頬を上気させ、夢見るような瞳をして、リシャールの演奏に聞き入っているその顔に、私はこともあろうか、一目惚れをしてしまったのだ。
ありえない…!
私が人間の女に一目惚れをするなんて…
しかし、私は彼女から視線をはずせなくなっていた。
確かに美しい女だが、美人なら悪魔にも山ほどいる。
なのに、なぜ、下等な人間の女に一目惚れなど…
自分の心が理解出来なかった。
私は、その瞬間から、楽しみにしていたピアノの演奏もうわの空で、彼女の顔ばかりみつめていた。
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