ミステリーSS集

不思議なキノコ

１

（意外と良いじゃないか…）



 俺は、空に向かって腕を大きく伸ばした。



ここへ来たのは正解だった。
 胸いっぱいに吸い込んだ山の空気の美味しさのせいか、俺にはそんな風に思えた。



 最近は、ずっとトラブル続きだった。
 人間関係のあまりの煩わしさに、精神面もやられ気味だった俺は、都会の喧騒を離れ、しばらく山奥に籠る事にした。
 軽自動車をキャンピングカー代わりに、生活必需品を積み込み、山に入った。



 人里離れた昼間でも薄暗い、鬱蒼とした森の傍を居場所に決めた。
 近くには泉や小川もあるし、けっこう便利な場所だ。
 人と関わらなくて済むと思ったら、寂しさなんて少しも感じない。



だけど、夜はさすがに不気味だった。
あたりは、漆黒の闇…子供みたいで恥ずかしいが、この世のものではない者でもぬーっと出て来そうな雰囲気に気味が悪くなり、俺は車の中で眠ることにした。