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第三の依頼

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「それはそうと力士さん…
さっき、なにか言いかけられてたようでしたが……」

 「え……?」



だめだよ、ナナシさん。
おじさんがいる前では話せるわけないじゃないか。
そんなこと言うから、おじさんがじーーっと僕の顔を見てるじゃないか。




 「え…えっと……
そ、その……あの…だから、お、お、お菓子でももってらっしゃらないかと……」

な、な、なにつまらないこと言ってるんだ!?
いくら焦っていたとはいえ、自分の口から飛び出したあまりにもくだらない返事に僕は驚愕した。



 「いーさん…そんなことなら、私に言ってくれたら良いものを……」

おじさんは、立ち上がり、自分の袋の中をごそごそさぐって、干からびたパンのようなものをテーブルの上にぽんと置く。



 「あいにくと甘いものはないんですが、明日すぐに買って来ますから、今日はそれで我慢しておいて下さい。」

 「あ。は、はい。」



っていうか、これ……一体、いつのパンなんだ!?



 「あ……」

おじさんは急にパンを掴むと、袖口でパンの一部分をこすりだす。



あ、あのぅ……何してるんですか?



さらに、おじさんは爪でもこすって、その上ふーふーして……



「はい、これで大丈夫ですよ。
カビはもうちゃんと取れましたから。」



ひぃぃぃぃ~~



 僕は、潔癖症ではないにしろ、そんな図太い神経はしてないぞ。
こっちの世界に来てからけっこう鍛えられたとはいえ、カビをこすり落として食べれるのは、僕のおばあちゃんくらいの年代だけだ。



 「さ、いーさん…遠慮しないで。」

いえ、遠慮なんてしてませんから。



おじさんとナナシさんの目が、僕がパンを口に運ぶのをじっと見ている。



 「ははは……じゃあ、いただきますね。」



そこには一滴の水分もなかった。
きっと、砂漠で五年くらい日にさらされたカエルと同じくらいぱっさぱさで……
しかも、歯が折れそうなくらい固いんだ。
いっそ、この歯が折れてくれたら、このパンを食べずに済むものを……



意外にも僕の歯が丈夫だったことを恨みながら、僕は岩のようなパンを食べ続けた。

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