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第三の依頼

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「……力士さん、なぜ私の名をご存知なんですか…?」

 「ぼ、僕……あなたからの依頼を受けて……」

 「おぉ、そうでしたか!
この度はお世話になります。
 私……」

そう言いながら、ナナシさんは背広の内ポケットから名刺を取り出し、僕の前に差し出した。



 「招き猫秘書のナナシゴンゾウと申します。」

 「あ…ぼ、僕はまー…じゃなくて……」

 今の僕のいでたちとはあまりにも似つかわしくない僕のここでの名前を言うことが躊躇われる。
だけど、名刺までくれたナナシさんに、ちゃんと名乗らないわけにはいかない。
だから、僕はその躊躇いをわざとらしい咳払いと共に吹き飛ばした。



 「僕の名前は、ローレンツ・E・モリソン14世……」

そう言った僕の顔をナナシさんはまじまじとみつめて……



「あ……申し訳ありません。
なんとか山とか、なんとかの里とかいうお名前を想像していたもので……」

ナナシさんは照れ臭そうにはにかんで、小さく頭を下げた。




 (……なんとか山?)



そういえば、さっきも僕のことを「力士さん」って言ってたな……
あ、そうか!この肉襦袢のせいで……



「あ、あの、ナナシさん…僕は……」



 「いーさん!」



 僕が力士じゃないことを説明しようとしたちょうどその時、僕を呼ぶ声が響いた。
 振り向くと手を振るエドガーとおじさんが僕らをみつけて駆けて来るところだった。



 「いーさん!もしかして、この方は……」

エドガー達はすでにナナシさんの正体に気付いてるようだ。



 「そうなんだ、今回の依頼者のナナシさん。
 僕もついさっき会ったばかりなんだ。
ナナシさん、こっちは僕の仲間のエドガーとおじさんです。」

 「それは、それは……」

ナナシさんはエドガーとおじさんにも名刺を渡し、丁寧に挨拶をしていた。
 見た目通り、とても礼儀正しい人だ。



 「それじゃあ、とりあえず、宿に戻ってゆっくり話しあわないか?
そろそろ腹もすいてきた頃だろう?」

 「そうですね。
では、そうしましょう。
ナナシさん、こちらです。」

おじさんが先頭に立ち、僕らは宿に向かって歩き始めた。
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