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愛彩

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 (えっ!?)



 鼓動が速さを増した。



 一体、どういうこと?



 ***



 「あの……すみません。」

 「はい。」



 服を棚に並べている時、背後から声が聞こえて…
振り返ったら、そこにはあの人がいた。



びっくりして心臓が止まりそうになった。
だって…昨夜、意外な所で会って、瑞穂の彼だとわかって、私がどれ程傷付いたことか。
 昨夜は、涙が止まらず、眠ることさえ出来なかったっていうのに、あの人はそんなことも知らずに、こんな所にやって来て…



「昨夜はどうも…」

 「は、はい。どうも…」

 「あ、あの…いつも申し訳ないんですが、今日もまた服を見立ててほしくて…」

 「は、はい、わかりました。」



 今まで見立てた服が、瑞穂のためだったなんて、考えもしなかった。
そして、残酷にも、また私は瑞穂のための服を選ばされる…
悲しくて、今にも泣いてしまいそうな心を隠し、私は懸命に平静を装った。



 「だいぶ暖かくなって来ましたし、今回は明るくカジュアルな感じにしてみました。」

 「どうもありがとうございます。
 早速、着てみます。」

 彼は嬉しそうな顔をして、試着室に入って行った。



 昨日のことなんて、なんとも思ってないみたい。
いや…確かに、彼は何も悪くない。
 私が勝手に彼に想いを寄せていて、そして失恋しただけのこと。
 友達の彼氏だったっていうのも、大きなダメージだった。
でも、そんなのは私だけの勝手な事情なのだから。


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