上 下
7 / 20
道化師

しおりを挟む
道化師は、後ろを向いて懸命に笑いをこらえていたが、揺れる肩を見れば笑っていることは誰の目にも明らかだった。



「……笑いたけりゃ笑えば?
僕が君と一緒に旅をして笛さえ吹けば文句はないんだろ。」

ディルカは不機嫌な顔で立ち上がり、尻に付いた土を払い落とす。



「だめよ!」



あたりに響いた大きな声に二人が振り向くと、そこには眉を吊り上げたジュリーが立っていた。



「ジュリー!」

「あれれ?あんたの知り合いなの?」

呑気に話す道化師に、ジュリーはつかつかと歩み寄る。



「あんたねぇ!ディルカにおかしなこと言わないでくれる!?
ディルカもディルカよ!
よく考えてみなさいよ。
こいつは、あんたが玉に乗れなかったら一緒に旅に出て笛を吹け、乗れたら諦めるだなんて、どっちにしてもあんたには良いことなんてないじゃない!」

「あ……」

ディルカは、ジュリーに言われてやっとそのことに気付き、俄かに渋い顔に変わった。



「酷いなぁ…初対面で『こいつ』呼ばわりはないよ~」

道化師は腕を組み、思いっきり頬を膨らませて怒った顔をする。



「ディルカ…こんな奴の言うことなんて気にすることないんだからね。
さ…帰ろうよ。
うちで夕飯食べようよ。」

差し伸ばされたジュリーの片手をディルカはただみつめるだけだった。



「……ディルカ、どうしたの?
まだ、マーサのこと怒ってるの?」

「僕は…嘘吐きじゃない。」

「えっ!?」

言葉の意味がわからず、ディルカの顔をまじまじとみつめるジュリーに、ディルカははっきりとした声で言った。



「どんな条件であっても、僕は彼との勝負に負けたんだ。
……だから、僕は旅に出る。」

ディルカのその言葉に、道化師は歓声を上げ、軽やかなダンスを踊り始める。


「だめ!そんなの絶対だめ!
あんたは絶対にこの町を出ちゃだめよ!」

ジュリーは、ディルカの胸に飛び込み、身体を強く抱きしめた。
ディルカの胸に熱いものが染み渡る。



「ジュリー……」

ディルカはゆっくりとジュリーの身体を引き離すと、悪戯っぽい顔をして片目を瞑って見せた。



「騙された~!
路銀もないのに、僕が、旅になんて出るわけないだろ!?
やーい!泣き虫ジュリー!」

「も、も、もうーーーっ!
ディルカなんて大っ嫌い!!」

ジュリーは、大粒の涙を流しながら、走り去って行った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...