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 (ねぇ…ジョセフ…もしかしてここって…)

 (そうだな、きっとそうだ。
 早く立ち去ろう…)

ジョセフとシーナは、顔を近付け、小さな声で囁きを交わした。



 老婆の家は、人里はずれた森の奥にあった。
それだけでもおかしいが、一歩足を踏み入れた途端に、二人はこの家が普通ではないことをはっきりと悟った。
 家の中に漂う独特の香りが鼻を衝く。
 部屋の片隅には、薬草と思われるものが山積みにされ、止まり木には白いフクロウが止まっていた。



 「送ってくれてありがとう。助かったよ。
……さぁ、そこに座っておくれ。」

 老婆は長椅子を指し示した。



 「いえ、僕達はそろそろ戻らねばなりませんので…」

 「そう言うな。
 助けてもらった恩人にお茶も出さずに帰すほど、わしは恩知らずではない。」

ジョセフとシーナは困惑した顔を見合わせ、ほんの小さく頷いた。



 「で、では…少しだけ。
あ、その前に…薬はありませんか?
 足の手当てをしなければ…」

 「あぁ、薬なら…すまんが、そこの杖を取ってくれないか?」

 「は、はい。」

 言われた通りに、シーナは近くにあった杖を老婆に渡した。



 杖を持った老婆が低い声で呪文を唱えると、部屋の奥から、小さな箱が浮かびながら飛んで来た。



 「あっ!」



ふたりは同時に驚きの声を上げた。
 老婆はそんなことに動じる様子もない。



 「杖さえ忘れて行かなければ、おまえさん達に迷惑をかけることもなかったんじゃがな。
 大切な杖を忘れて行くとは、わしももうろくしたもんじゃ。」

 老婆は、喉の奥でくつくつと笑った。


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