宿星の恋人

３０

＊




 「思ったよりも長い間、異界に留まられたんですね。」

 「あぁ、そうだな。」

 「用事はうまくいったんですか？」

 「……あぁ。」



アーロンは、素っ気なく船頭に答えました。
 遠い目をして『時の川』をみつめるアーロンは、傍目にも酷く憔悴して見えました。



 （マリアン……）



アーロンの心には、いつの間にか、リンではなくマリアンが住み着いていました。



 ＊




 「おかえりなさい。
あら、ずいぶんとおやつれになりましたね。
 異界にはどのくらいいらっしゃったんですか？」

ジョイスは心配そうに、アーロンの顔をのぞき込みました。



 「どのくらいって……あ……」

アーロンは気付きました。
 時の川を遡って過ごしたあの二年程の期間は、こちらには何の影響も及ぼしていないことを。



 「約二年程滞在した。」

 「二年も…！だから、そんなに痩せられたのですね。でも、ご無事で良かったです。
それで、説得は出来たのですか？」

 「……あぁ。」

 「それはようございました。」

 「それで…約束のものだが……」

 「そうお急ぎにならずとも良いではありませんか。
まずは、うまくいったことを祝って、祝杯をあげましょう。」

そう言って、ジョイスは奥の部屋に入って行きました。