7 / 35
7
しおりを挟む
一人で生きることにもそれなりの自信が付き、故郷のことをあまり想わなくなったある小雨の日の午後……
俺はあの老人と出会った。
大きな木の根元に背中を預け、ぐったりとした様子で座りこんでいたその老人を見た時、俺は老人が死んでいるのかと思った。
痩せこけた手足、まばらな髪…
俯いて半分隠れた顔は土のような色をして、唇も白い。
怖ろしかったが、かといって素通りすることも出来ず、俺は恐る恐る老人の傍に近付き、声をかけた。
すると、老人はゆっくりと頭を上げ、虚ろな目を開いた。
「あ、あの…大丈夫ですか…?」
「あ…あぁ…大丈夫だ…ありがとうよ…」
消え入りそうな声でそう言うと、老人は再び目を閉じた。
この老人の体調が良くないことは、医者でなくとも容易にわかる。
こんな雨の中に放っておいたら、余計に具合が悪くなることも予想が付いた。
俺は、老人を背負って走り出した。
最初は放っておいてくれと言っていた老人も、俺が止まらないでいると何も言わなくなった。
まるで子供を背負っているような軽くて固い骨と皮だけの身体の感触…
走っているうちに死んでしまうのではないか…
そう思うと、怖くてたまらなかった。
俺は泣き出したいような気持ちを懸命に堪えながら、ただひたすらに走った。
医者に診せる金等持ってなかったが、町に行けば親切な誰かがなんとかしてくれるのではないか…
そんな願いにも似た想いを支えに、俺は小雨の中を走り続けた。
俺はあの老人と出会った。
大きな木の根元に背中を預け、ぐったりとした様子で座りこんでいたその老人を見た時、俺は老人が死んでいるのかと思った。
痩せこけた手足、まばらな髪…
俯いて半分隠れた顔は土のような色をして、唇も白い。
怖ろしかったが、かといって素通りすることも出来ず、俺は恐る恐る老人の傍に近付き、声をかけた。
すると、老人はゆっくりと頭を上げ、虚ろな目を開いた。
「あ、あの…大丈夫ですか…?」
「あ…あぁ…大丈夫だ…ありがとうよ…」
消え入りそうな声でそう言うと、老人は再び目を閉じた。
この老人の体調が良くないことは、医者でなくとも容易にわかる。
こんな雨の中に放っておいたら、余計に具合が悪くなることも予想が付いた。
俺は、老人を背負って走り出した。
最初は放っておいてくれと言っていた老人も、俺が止まらないでいると何も言わなくなった。
まるで子供を背負っているような軽くて固い骨と皮だけの身体の感触…
走っているうちに死んでしまうのではないか…
そう思うと、怖くてたまらなかった。
俺は泣き出したいような気持ちを懸命に堪えながら、ただひたすらに走った。
医者に診せる金等持ってなかったが、町に行けば親切な誰かがなんとかしてくれるのではないか…
そんな願いにも似た想いを支えに、俺は小雨の中を走り続けた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
親戚のおじさんに犯された!嫌がる私の姿を見ながら胸を揉み・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
親戚のおじさんの家に住み、大学に通うことになった。
「おじさん、卒業するまで、どうぞよろしくお願いします」
「ああ、たっぷりとかわいがってあげるよ・・・」
「・・・?は、はい」
いやらしく私の目を見ながらニヤつく・・・
その夜。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※完結済み、手直ししながら随時upしていきます
※サムネにAI生成画像を使用しています
妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。
ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」
そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。
長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。
アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。
しかしアリーチェが18歳の時。
アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。
それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。
父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。
そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。
そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。
──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──
アリーチェは行動を起こした。
もうあなたたちに情はない。
─────
◇これは『ざまぁ』の話です。
◇テンプレ [妹贔屓母]
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!
婚約破棄の場に相手がいなかった件について
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。
断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。
カクヨムにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる