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「本当に素敵ね。」

 母さんは、赤いドレスを病室の壁にかけては、それを見て恍惚とした表情を浮かべた。



 「理恵子、これは世界にひとつしかない私のドレスなのよ。私だけの。」

 母さんは、誇らしげに…そして、とても幸せそうにそう言っていた。



 結局、そのドレスに母さんが袖を通したのは、母さんが亡くなった時だった。
もちろん、棺には入れてあげようと思っていたけど、父さんはそのドレスを母さんに着せると言い出した。
それほど多くはないだろうけど、葬儀にはそれなりの人が来るだろうに、そんな恥ずかしいこと…そう思ったけど、父さんは聞き入れなかった。



 採寸の時より遥かに痩せていた母さんには、ドレスは大き過ぎ…
少しも似合ってなかったけれど、不思議と父さんは満足しているように見えた。
 父さんだけではない。
 母さんも、とても満ち足りた顔をしていた。
 平均寿命にはまだだいぶあったのに…
病気で苦しい想いをしたのに…なぜ、そんなに穏やかな顔をしているのか、私にはわからなかった。


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