神在琉葵(かみありるき)

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 「じゃあ、おやすみなさい。」



 家に戻っても、家族からは特に何も言われなかった。
 鏡の中の私はうまくやったと言ってはいたけど、友達ならともかく血の繋がった家族なら小さな変化にも気付く筈。
だから、帰るのが少し怖かった。
だけど、家族はいつもと少しも変わらない様子で私に接してくれた。
 何も言われなかったということは、もう一人の私がうまくやってくれたということだ。
 私の身体にも何も問題はなかった。
 帰りにはお腹もすいたし、喉も乾いた。
 何も変わらないうちに、私も周りの環境だけがうまい具合に好転したわけで…それは、すべて鏡の中の私のお陰に他ならない。

 彼女は、私と体験を共有してるって言ってたけど、私が鏡の中にいた時、私は何もわからなかった。
そのことを訊ねてみたら、きっと、それは流れが一方的だからだろうって、彼女は答えた。
つまり、実体の私から鏡像の彼女には流れるけど、いくら鏡の外へ出たとはいえ、彼女は本来鏡像だから、流れは逆には流れないと…あくまでもそれは彼女の推測だけど、私もそうじゃないかと思う。


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