神在琉葵(かみありるき)

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 『おばあちゃまの家で見たことは、絶対に誰にも言っちゃだめよ!』



 駅に降り立った時に届いたお母さんからのメール。



どういうことなのか全くわからない。
すぐにでも訊きたい気持ちはあったけど、荷物もあるし、とにかく家に着いてから…
そう考え、私はタクシーを拾い、まずはスーパーに向かった。
そこでちょっとしたものを買い込み、再び、タクシーを拾っておばあちゃんの家へと向かう。
おばあちゃんが亡くなってからは、その次の年に一度皆で来たっきりだからここに来るのは二年ぶりのことだ。
たった二年だけど、なんとなく懐かしさを感じる。



タクシーを降り、門をくぐるとすぐにお母さんのメールの意味がわかった。
 二年前に来た時とは庭の様子が大きく変わってる。
 綺麗に配置された花壇があちこちに出来、以前はなかったベンチや花のアーチまでが置いてあったのだ。



 (……なるほど、そういうことだったのね…)



お母さんが私をここに来させたくなさそうだったのはこのせいだったのか。
きっと全部出来あがってから、私達に見せて驚かせようとしていたんだと思う。



 (お母さんったら……)




 鍵を開け、扉を開くとそこも様子が違っていた。
 玄関に飾られた花瓶や置きものは、いかにもお母さんの趣味の可愛らしいものに変わり、家全体が若返ったような雰囲気だ。



 窓を開けると、気持ちの良い風が部屋の中を通り抜ける。
リビングのソファに深く腰掛け、開け放した大きな窓から広い庭を眺めると、風に流されて心の中のもやもやが晴れるようだった。
そのうち、お母さんがここにたくさんの花を植えたら、ここからの景色はもっと良くなる。
 季節ごとに色鮮やかな花が咲き、良い香りを運んでくれる筈だ。
その時の様子を思い描き、私はまた心の中が爽快になるのを感じた。



 (本当にここに来て良かった…!)


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