上 下
38 / 42

38

しおりを挟む




 「ねぇ、ミカエル…あなた達、一体、何をやってるの?
 帰って来たかと思ったら、ローランはなにも言わずにまた出かけて行くし……」

 二人の様子に異変を感じたアニエスは、ついに我慢しきれずミカエルににじり寄った。



 「アニエス、すまない……もうしばらく待ってくれ。
もう少ししたら、すべてを話すから……」

 「すべてって…何なの?
 私に何を隠してるの?
 隠してることがあるなら、今すぐ話して!」

 「……すまない。
 今は話せないんだ。」

そう言って冷たく顔を背け、ミカエルはそのまま部屋を後にした。



 (ミカエル……どうして話してくれないの…?何を隠してるの?)



 傷心したアニエスはキッチンの椅子に腰掛け、ミカエルの変化に想いを巡らす。
つい先日までは何の変わりもなかった彼の様子がおかしくなったのはいつからだろうと記憶を辿る。



 (そうだわ……あの日……あの絵をみるまでは何の変わりもなかった……
あれをみた彼はあきらかにおかしかった。
あんなに苦しんで、意識まで失って……
でも、あの絵に一体なにが……)



アニエスは、絵のことを、今一度、頭に思い浮かべた。
 特に強烈な印象を受ける絵ではなかった。
 描かれた若い女性は確かに美しかったけれど、いくら女性に甘いミカエルでも、絵の中の女性に一目惚れするようなことはないと思えた。



 (では、なぜ……)



アニエスは落ち着かない気持ちを紛らせるために町へ出かけた。
 商店街を冷やかして、夕飯の食材を少し買い、町を散策したが、アニエスの心は少しも晴れなかった。



 (そうだわ……)



 空が薄暗くなった頃、アニエスは画廊へ向かって歩きだした。
しおりを挟む

処理中です...