虚実の時

３１

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 「ね？実際に見てみたら、印象は違ったでしょう？」

 「そうね。確かに中も綺麗だし、使い勝手も良さそうだし、住みやすそうな家ではあるわね。」

 上機嫌なローランに返事をしつつも、アニエスはミカエルのことが心配で心は上の空だった。



 「あそこだったら、三人でも暮らせそうな広さだね。
 母さん達があそこに越して来たら、僕もあそこで一緒に暮らそうかなぁ……」

 「ローラン…あなた、仕事は良いの？
 三十分だけお許しをもらって抜け出して来たんでしょ？
 早く戻らないと。」

 「え……あ！もうこんな時間か。大変だ。
じゃあ、また夕食の時にね。」

ローランは二人に手を振り、慌ただしく駆け出した。



 「……本当に困った子ね。
ねぇ、ミカエル…どうしたの？
 私が家を見に行ったのが気に触った？」

 「そうじゃないさ。
ただ、僕はあの村を離れるつもりはないからね。
でも、中を見て気に入ってしまったら困るから、見なかっただけなんだ。」

ミカエルの返事と見慣れた笑顔に、アニエスは安堵した。



 「……そうだったの。
 確かに、あなたの言う通りだわ。
 私、あの家を見ながらここに住むのも良いかもしれない…なんて考えてしまったもの。
でも、ここに越して来ることになったら、仕事もみつけなきゃならないし、エリックさんのこともすべて先生任せになってしまう…やっぱり、無理よね。」

 「そうだね……
あ、あそこじゃないか。」

ローランから聞いていた画廊らしき場所をみつけ、ミカエルはその場所を指さした。