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 「それじゃあ、行って来ます。」

 「気を付けてな!」



 数日後、アニエスとミカエルは、バルバスの町を目指して出発した。
 村に着くまでに五日かかった道のりも、荷物も持たない若い二人には三日で町の近くに着くことが出来た。



 「こんなに近くだったんだね。
なんだか気が抜けたよ。
こんなに近いのに、僕は、過去を知るのが怖くてなかなかここまで来られなかったんだ。
 情けない話だね。」

ミカエルは、結婚する前に自分の素性を調べたいと話した。
バルバスの近くで倒れていたのなら、もしかしたらバルバスの住民の誰かが自分のことを知っているのではないかとミカエルは考えたのだ。



 「アニエス…僕が倒れてたのはどのあたりなの?」

 「えっと…それは……」



 次の日の朝、二人はバルバスから少し離れた街道沿いを歩いていた。
アニエスは、記憶をたどりながら、斜面のある場所へミカエルを案内した。



 「た、確か、このあたりだったと思うわ。」

 「こんな所に……」

ミカエルは崖下をみつめながら、小さな溜息を吐いた。



 「こんな所からよく気付いてくれたね。
それに、この高さじゃ引っ張り上げるのも大変だっただろう?」

 「え…えぇ、エリックさんと先生が二人がかりで頑張ってくれたの。」

 「そうか……あれ?でも、エリックさんは最初僕には関わるなって言ってたんじゃ……」

 「そ、そうなんだけど、私が必死でお願いして、先生も口添えしてくれたから……」

 「そうだったんだ……ありがとう、アニエス!君は本当に命の恩人だね。」

ミカエルの笑顔に、アニエスは罪悪感を感じながらも安堵し、同じように微笑みを返した。



 「それじゃあ、次はバルバスの町だね。」

 「……そうね。」



 実は、ミカエルは以前この町に来たことがあった。
 町の下見と家を借りるためだ。
しかし、そのことを二人はもちろん知らなかった。
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