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「これは酷い状態だね。
 身体の傷はそうでもないけど、頭の傷が深刻だ。」

まだ若いドクターは、手当したばかりのセザールの様子を見ながら、深い溜息を吐いた。



 「やっぱり、こいつは助かりそうにないかい?」

 「そうですね。
 助かる見込みは少ないと言えるでしょうね。
それに、助かったとしても意識が戻るかどうかはわからないし、この傷のせいでなんらかの障害が残るかも知れない。」

 医師の言葉に、アニエスは不安で鼓動が速まるのを感じた。



 「なんだって…!?
それじゃあ、命は助かっても、ずっと意識が戻らない…つまりは寝たきりになる可能性があるってことなのか!?」

 「そういうことです。
 僕が手当をしたのは、あくまでも傷だけです。
 中味の脳がどの程度の損傷を受けているかはわかりませんから。」

 「なんてこった……頭を打つとそんなことがあるのか……
えらいことになっちまった。
なぁ、アニエス……こいつはこのままここに置いていったらどうだろう?
こんなに大きな町なんだ、きっと誰かがみつけてくれるだろうし、もしかしたら診療所が受け入れてくれるかもしれない。
その方がこいつにとっても良いことなんじゃないか?」

 「それはどうでしょう。
ここにこの人を置いていったら、僕達が置いていったと思われるんじゃないでしょうか?
 下手をすれば、リンチかなにかをしてこんな酷い怪我を負わせたと思われるかもしれない。」

アニエスが返答に迷っているうちに、医師がエリックの考えてもいなかったことを話した。



 「馬、馬鹿な……!
 俺達はなにもしちゃいねぇ!
しかも、アニエスはこいつを助けようと思ってこいつを連れて来たんだぜ。」

 「その話をどこまで信じてもらえるか…ですよ。」

エリックは、小さく舌打ちをすると、自分の額を平手で何度か叩いた。



 「アニエス…ずいぶんと厄介なものを連れて来てくれたな……」

 「ご、ごめんなさい!本当にごめんなさい!」

いつもよりずいぶんと低いエリックの声に、アニエスは目を伏せ、何度も謝った。
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