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事の発端は、私がまだ18の時のことでした。
 父さんに頼まれた用事のため、隣町に向かっていた時、街道のはずれで、私は道にうずくまるおばあさんをみつけました。
しきりに足をさすってらっしゃったので、きっと足を痛められたのだろうと思いました。



 「おばあさん、大丈夫ですか?」

 「なんともないよ!」

おばあさんはそうおっしゃいましたが、やはり足が腫れていました。



 「くじかれたのですね?」

私は水筒の水でハンカチを濡らし、おばあさんの腫れた足を冷やしてあげました。




 「余計なことを…」

 口ではそう言われましたが、おばあさんはハンカチをはねのけられるようなことはありませんでした。



 「おばあさん、もし良ければお宅までお送りしましょうか?」

 私がそう言うと、おばあさんは訝しげに私をみつめられました。



 「おまえさんは優しいし、親切だし、見た目もとても可愛らしい。
きっと誰からも愛されているのだろうね。」

「そんなことありませんわ。」

おばあさんは口は悪いけど、本当はきっと良い人なのだと思いました。




 「おまえさんには世話になったから良いものをあげよう。」

そう言うと、おばあさんはにやりと微笑み、気味の悪い低い声で何事かを呟き始めました。




 「お、おばあさん…何を…」

 私は急に不安になっておばあさんに訊ねたのですが、呪文のような言葉は止まりません。



 「この天使のごとく優しき娘に呪いを…
この娘の愛のこもった言葉を受けた相手は銅像に変わる。
 血も通わず、心も持たぬ冷たい銅像に…」

そう言うと、おばあさんの呪文は唐突に終わり、おばあさんは狂気染みた甲高い声で笑ったのです。


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