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003太陽と月と

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不快な程暑いというわけではなかった。
目を開けていられない程眩しいというわけでもない。

私は空に居座る太陽を疎ましげな眼差しで見上げた。



空に太陽が昇っていても、時が経てばやがてそれは月や星にとって変わる。
きっと、それを当然のことだと思いこんでいた私が悪いのだ。
太陽は沈まない。
月と同様に定位置から動く事なく、ずっとずっと居座っている。
切り替わり方はどうだって構わない。
ゆっくりと沈んでゆっくりと昇らなくたってそんなことはどうだって構わない。
せめて一定期間に月と太陽が入れ替わってくれれば良いのに…

ふと、そんなことを考えた時のことだった。



『全く注文が多いんだから…』



私は、不意に聞こえたその声に心臓の止まる思いがした。
声の主を探してあたりを見回す…
しかし、あたりには誰もいない…



(ついに、頭がどうかしてしまったか…)

しかし、それも無理からぬこと。
こんな世界にいたら、どうにかなってしまう方が普通だ。
いや、もしかしたら、今見ていると思ってる世界自体が、私の妄想の産物なのかもしれない。
それが一番重症だが、一番説明の付きやすい考えだ。



『君はおかしくなってなんかいないよ。
今、話したのは僕だ。』

「だ、誰だ!
どこにいる!」



その声はまるで私の思考に答えるようなタイミングと内容を返してきた。
私は反射的にその声に問い返す。



『僕なら、ここだよ。』

「ここじゃあわからない!
本当にいるのなら、具体的に場所を言ってくれ!」

『君の真下…』

「真下?」

しかし、私の下には地面以外のものはない。



「どういうことなんだ?
ここを掘れとでもいうことか?」

『そうじゃない。
その世界にはなにもないからね。
とりあえず、君の影になってみたんだ。
影なら君を驚かせることもないと思ってね。』

「影?」

『そうだよ。
影なら君の一部分みたいなもんだし、怖くはないだろ?』

「……あいにく、私は、今の今まで影と話したことはないんだ。」



影にはどこにもおかしな部分はなかった。
影が話してる間に、影の口の部分が動くようなこともなかった。
そもそも、真上の太陽によって作られた私の影は、黒い固まりでしかないのだから。

影と会話をしている…その馬鹿げた現状を自覚すると、私の気持ちは急速に萎えていった。
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