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 「ヒデくーん!」

 「美里!」



ヒデくんと会うのは何ヶ月ぶりだろう?
 手を振り返しながらいつもと変わらない優しい笑顔を浮かべるヒデくんに、私も思わず頬が緩む。



 「あ、あのね…この前停電かなんかあったらしくって、その日の分のパン教室が今日入ったんだって。」

 「そうなんだ。
おふくろに電話しても繋がらないし、どうしたのかと思ったよ。」

 「きっと、調理中だったから気が付かなかったんだろうね。
もうすぐ帰って来るみたいよ。
……あ、帰って来るまで、うちにいたら?」

 「そっか、ありがとう。
じゃあ、そうさせてもら……あ……」

そこへちょうどタイミングの悪いことに、ヒデくんのお父さんが帰って来るのが見えた。



 「美里ちゃん、こんばんは。
 英明……早かったじゃないか。」

 「うん、まぁな。」

 「じゃあ、私はこれで……」

 「良いじゃないか。
 久しぶりに会ったんだし、ちょっと寄っていけよ。」

 「そ、そう…?」



 *



 「お邪魔します。」

 久しぶりのヒデ君の家。
 以前とは家具とか壁紙とか、ずいぶん変わってる。
ママはおばさんと仲良しだから来てるかもしれないけど、私はここに入るのは、もしかしたら高校生くらいの時が最後だったかもしれない。
 子供の頃はしゅっちゅう来てたし、平気でずかずか上がり込んでたけど、久しぶりだからなんだかえらく緊張する。
 今までは親戚の家だったのが、今はすっかり他人の家になったような感じ。
このソファも昔のとは違うね。



 「どうかした?」

 「昔とずいぶん雰囲気変わったなぁって思って……」

 「あれ?あ…そっか。
 会うのは会ってるけど、家にはあがらなかったんだっけ?」



なんでもヒデくんは高校のサッカー同好会の友達の結婚式に出るために帰って来たそうで……



「それじゃあ、佑樹も帰って来るの?」

 「うん、佑樹っていえば……」



ヒデくんが何かを話しかけた時、玄関のチャイムが鳴った。
 思った通り、帰って来たのはおばさんだった。
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