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鏡の中と外

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 「まだ諦めきれんか……」



 床に座り込み、ぼんやりと鏡の向こう側をみつめるアラステアは、レオナールの声に何も反応を示さなかった。



 「まぁ、私も諦めるには相当の年月がかかったものだがな…
お前は、私に比べればまだずっとマシだ。
 鏡に立ち向かおうとも、どうにもならんことを理解してるだけ、ずっと利口だな。」

アラステアは俯き失笑する。



 「君があれほど全力でぶつかってもどうにもならないんだからね。
 僕みたいのが、どうにかできるはずがない。
いくら愚かな僕にだって、そのくらいのことはわかるさ。」

 「……後悔してるか?
ここに来たことを……」

 「……さぁ、どうだろう。
 確かにショックだったよ。
ここにはフィリスがいると思っていたのに、いたのはフィリスとはまるで違う、君だったんだから。」

その言葉に、レオナールが肩を揺らした。




 「……ねぇ、君はどうしてこんな所にいるの?
……君は一体何者なの?」

 「……それは私の問題だ。
おまえには関係ない。」

 「そっか…話したくないんだね。」

 「話す必要がないからな。」

 不意にくすくすと笑い始めたアラステアに、レオナールの顔は固くなった。




 「何がおかしい?」

 「君は確かにフィリスだね。
 見た目は全く違うけど、話してるとそれを感じるよ。」

その言葉を聞いたレオナールの頬がにわかに綻ぶ。



 「……おかしなものだな。
 私はごく普通に話してるだけだったのに…そりゃあまぁ多少女性的な話口調にはしていたが、声を変えたわけでもない。
なのに、おまえは目をきらきらさせて…そう…こんな私に恋していた。
いつもひねたようなことばかりしているくせに、私の前では小さな子供のように素直で正直だった。」

 「君がそんなに逞しい男性だと知ってたら、とてもじゃないけどあんな恥ずかしい話は出来なかっただろうね。」

 「噴き出さないように堪えるのは大変だったぞ。」

 「……全く、悪趣味だね。」


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