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 彼が、あれほど感情を顕わにすることは今までになかった。
 事は僕が考えているよりもずっと深刻だ。



まずは、何とかして彼の好きな人のことを探らなければ……
けれど、アラステアは話さないだろうし、使用人達は彼が誰かに恋してることさえ知らない。



(どうすれば良いんだ…!?)



 僕は、その晩はまるで眠れなかった。
 何か良い手立てはないかと、部屋の中で一人、頭を悩ませている時、僕は扉が開く音を耳にした。
少し引きずるような静かな足音……それが、アラステアのものだということはすぐにわかった。
普段ならさして気にもならないことだが、その日は何かカンのようなものが働いて、僕は扉を小さく開いて彼の後ろ姿を見守った。




僕のカンは当たっていた。
彼が歩いて行くのは、トイレとは別の方向だ。
僕は扉から身を滑らせて、気付かれないよう彼の後をつけた。



彼は、納戸からランタンを持ち出し、普段は滅多に行かない方向へ歩き始めた。
どこに行くのだろうと考えているうちに、それはおそらく地下だということに気が付いた。
子供の頃は怖いもの見たさにけっこう降りたものだけど、最近では用がないので降りることなんてなくなっていた。
この屋敷の地下には、広いワイン庫と食料庫、そして、使っていない部屋がいくつかあるだけだったと思うのだけど、彼は一体どこへ行くつもりなのか……
音が響かないように、僕は靴を脱ぎ、足元に気をつけながら暗い階段を下りて行った。
アラステアのランタンの明かりが見えるとはいえ、ひんやりとした冷たい感触が足から伝わり、酷く心細い想いがする。

彼の曖昧な靴音が静か過ぎる地下に響き渡る……
ランタンの明かりしかないこの空間は、まるで魔界のように思えた。
冷え冷えとして、生き物の気配が全くなくて……
闇の中から何者かがぬっと現れ、僕の首に手をかける……そんな怯えた子供のような妄想にかられる程、不気味な空間だ。
廊下に明かりをともさないのは、使用人のことを考えてのことなのかもしれないが、僕だったらこんな夜中に一人でなんてとても来られないような気がした。



(君はここが怖くはないの?
まとわりつくようなこの漆黒の闇が、なんともないのかい?)


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