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「この町は本当にいつ来ても賑やかね。」

どこか呆れたように呟いたマリオンに、アベルは苦笑しながら頷きました。
 滅多に見ることのない溢れんばかりの人の波に、すっかり疲れてしまった二人は広場のベンチに腰掛け、行き交う人々をぼんやりと眺めます。

マリオンとアベルの住む家は小さな町と町の間にありました。
 普段のちょっとした買い物は、どちらかの町に行くのですが、何ヶ月かに一度は気晴らしも兼ねて、大きな町まで足を伸ばします。
 小さな町には売ってないような珍しいものが店先にはたくさん並び、そういうのを見て歩くことは楽しいのは楽しいのですが、なにせ二人は普段とても静かな生活をしているので、人の多さや活気のある雰囲気に疲れてしまうのです。



「そろそろ帰ろうか。」

「そうね。」

二人はゆっくりと立ち上がりました。
 空は明るく、家路に着く人はまだ少ない時間でしたが、二人の家は遠く、のんびりとしていると帰りは真っ暗になってしまうのです。
大通りを抜けると、人の数はめっきり少なくなりました。
ほっとしつつもどこか少し寂しいような気持ちを胸に、二人は他愛ないおしゃべりをしながら歩いていました。
二人の家へは、大きな街道ではなく細い脇道を進んだ方が近道です。
そちらへ続く道は、ますます人通りが少なく、民家もまばらです。



「あらっ?あんな所に……」

「なんだろう?店みたいだけど、あんな所におかしいよね。」

二人の目の先には、小さな露店のようなものがありました。
しかし、そこは通る人さえ少ない場所です。
そんな所に店を出す者がいるだろうか?と話すうち、二人はなんとなく興味をひかれ、その店に向かって行きました。
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