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お母さんの秘密

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「ねぇ、お母さん…お母さんは今でも私のお父さんのことを愛してるの?」

いないのに…
野田充彦さんなんて、お母さんの想像の産物にすぎないのに…それがわかっていながら、私はそんなことを口にしていた。



 「ずいぶんストレートに聞くのね。
……ええ、愛してるわ。
 一日たりともあなたのお父さんのことを忘れたことはない。」

 「だから今まで再婚しなかったの?」

 「ええ、そうよ。
 私は充彦さん以外、誰も愛せないもの…
これまでも、そして、これから先もずっと…」

 「そんな…もったいないわ。
お母さんはまだ若いし、綺麗なのに…」

 「ありがとう…でも、私は充彦さん以外、関心がないの。」

 「だったら……お父さんに会いに行けば良いのに…」

なぜ、そんなことを言ってしまったのかわからない。
もしかしたら、ありもしない妄想に浸りきって幸せそうな顔をしているお母さんになにか苛立ちのようなものを感じてしまったのかもしれない。



 「私には、あなたを立派に育てる義務があるもの…
充彦さんとの間に出来たあなたは、私の宝物だったけど、それは充彦さんにとっても同じこと。
 充彦さんから託されたあなたを立派に育て上げる義務があるのよ。」

 義務という言葉に、私は反発を覚えた。
まるで、私のせいで再婚もしなかったと言われてるみたいに、私には聞こえた。



 「だったら、これから会いに行けば良いじゃない。
 私ももう22歳…この春からは社会人よ。
 自分のことはもう何だって出来る。
お母さんの義務は、もう終わったのよ。」

なんて意地が悪いんだろう…
会いになんて行けるはずがないことをわかっていながら、私はそんな言葉をお母さんにぶつけていた。
お母さんは、どこか驚いたような顔をして、黙って私をじっとみつめた。



 「……いいの?」

 「え?」

 「……本当に充彦さんに会いに行って良いの?」

 「…………え、ええ。」



お母さんは、子供みたいな無邪気な顔をして、私にそう問いかけた。
それは今までに見たことのないような無垢な表情で…



(どうして?お母さん…どうしてそんな顔するの?)



 私は答えに迷いながら、何とか頷いた。
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