桜の里で

回想

２８

＊



 「おめでとう！充彦さん。」

 「おめでとう！」




やがて、私達は村の人達に祝福され、結婚した。
 私のしつこさについに充彦さんも折れた形だ。
 小さな公民館に村人達が集まって、手作りの結婚式をしてくれた。



 村のおばさんが白いドレスを縫ってくれた。
ウェディングドレスと呼ぶにはあまりにも粗末なものだったけど、私はとても嬉しかった。
きっと、これを作るには、生地の調達からしていろいろと大変だっただろうってわかるから。
 窓から見える桜並木も、私達を祝福してくれているように思えた。



みんなで持ち寄ったもので食事をして…それだけで、あっけなく結婚式は終わった。
 私達に新婚旅行なんてものはない。
 新居だって、勝手知ったる充彦さんの家だ。
 何も特別なことはない。
だけど、人目をはばかることなく、一緒に暮らせることはやはりうれしいことだった。



 村には役場もないから、戸籍だってそのままだけど、野田という表札を見ると、なんとなく照れくさい気がした。
 私は、藤堂春香から野田春香になったんだ。
ただそれだけのことが、とても新鮮で幸せに感じられた。



 私達は、何の問題もなく穏やかな日々を過ごした。
 充彦さんの予想していた通り、子供は出来なかった。
お年寄りには子供のことを言われたこともあったけど、さしてそのことを辛いとは思わなかった。
 充彦さんと暮らせるだけで、私は幸せだったのだ。



 何も変わらない村での、何も変わらない日々は、退屈だろうと思われそうだけど、同じようでもやはり毎日何かしら変わったことはあるもので…
取るに足りない小さな変化に愛しさを感じながら、私は満ち足りた生活を過ごしていた。



そんなある日のこと……