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「……おいら……靴をはいてみたい。」

 「え?く、靴?」

そういえば、雨男は年季の入った下駄をはいてる。
それが好きなのかと思ってたけど、靴を持ってなかっただけのか…



「靴くらいなら大丈夫だ。
 何センチなんだ?」

 「何が?」

 「だから、足のサイズだ。」

 「サイズ……?」

 雨男はふざけているわけでもなんでもなく、本当に俺の言ってることがわからないようだった。



そうだ…
そういえば、こいつはさっき「靴がほしい」じゃなくて「靴をはいてみたい」って言ったんだ。



ってことは、こいつは今まで靴を履いたことがないってことなのか!?
 現代の日本に本当にそんな奴がいるのか??
そういえば、こいつが初めてうちに来た時は、半袖のTシャツみたいなものと裾をだいぶ折り曲げたぶかぶかのズボンをはいてた。
しかも、それしか持ってないみたいだったから、俺がお古のジャージをあげて…それ以来、雨男はずっとそれを着てる。



ってことは、服もそれしかないってことなのか!?



 考えれば考える程、事は深刻に思えて来た。
 雨男達が暮らしてたあの森のことを大家さんに聞いた時は、どう受け止めれば良いのかわからなくて混乱しかけたこともあったけど、あのあと、なんとなくわかったんだ。
あの森には昔から自分を河童だと思ってる者が住んでいて、そいつらを見た誰かが本物の河童だって思ったんじゃないだろうか?
だって、やっぱりどう考えても、この世にそんな者が住んでる道理はない。
 幽霊くらいはいるかもしれないが、河童なんてものは想像の産物としか思えないからな。
 河童男はあれから二度程うちに来たけど、その時もやっぱり精巧なコスとメイクを施していた。
あいつはハロウィンの時に仮装するだけじゃなく、いつもそうしてるみたいだ。
きっと心の底から、自分のことを河童だと思い込んでるんだろう。
でも、もし、あんなのを誰かが見かけたら、本物だって信じてしまうのも仕方がない。



 (あ……!)



その時、俺の頭にある仮説が浮かんだ。
それはとても残酷で悲しいものだ……

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