上 下
5 / 10

しおりを挟む
苦めのコーヒーを飲み、僕は気持ちを落ち着けた。



人を殺したなんてことを自叙伝に書くはずがない。
だとすれば…




思わず、僕は噴き出していた。
そう…きっとこれは、小説のネタなんだ。
あの男は、小説家…いや、きっと小説家を夢見ているのか、趣味で小説を書いているのだろう。
そう思うとさっきの動揺が馬鹿馬鹿しく思えた。




つまらないものだとはいえ、このまま持っているのも気が重い。
きっと彼にとっては大切なものだろうから。
こういうものなら交番に届けることもないだろう。
面倒だけど、今度の土曜日にでも僕はもう一度あの喫茶店に行って、この封筒を預かってもらおうと思った。
あの男の身なりからしても、そう遠くから来た感じはしなかった。
きっと、あの付近に住んでいるのだろうと思えたからだ。









(おかしいなぁ…確かこのあたりだと思ったのに…)




僕は、そんなに方向感覚が悪いという方ではない。
営業であちこち回っていることもあり、道を覚えることもそう苦手ではなかったはずだ。
なのに、あの喫茶店がどうしてもみつからない。
あの日の記憶を頼りに、営業先から喫茶店があったと思われる道を辿ったが、どうしてもあの店がみつからない。
僕は、スマホを取り出し、付近の地図を表示した。




(今いるのがここだから…)



地図と照らし合わせてみるものの、やはり付近に喫茶店はない。




(どうなってるんだ?)




どうにも納得がいかず、僕は何人もの人に話を聞き、そこら中を隈なく探したが、結局、あの喫茶店をみつけることは出来なかった。









狐につままれたような気分を感じながらも、いつしか月日は流れ、僕は、あの封筒のこと等すっかり忘れてしまっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

報酬を踏み倒されたので、この国に用はありません。

白水緑
ファンタジー
魔王を倒して報酬をもらって冒険者を引退しようとしたところ、支払いを踏み倒されたリラたち。 国に見切りを付けて、当てつけのように今度は魔族の味方につくことにする。 そこで出会った魔王の右腕、シルヴェストロと交友を深めて、互いの価値観を知っていくうちに、惹かれ合っていく。 そんな中、追っ手が迫り、本当に魔族の味方につくのかの判断を迫られる。

少年と白蛇

らる鳥
ファンタジー
生きる為に冒険者の道を選んだ少年は、ある日森で運命と出会う。 白蛇を身に宿した少年の冒険の物語です。 お気が向かれましたらどうぞ。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

持参金が用意できない貧乏士族令嬢は、幼馴染に婚約解消を申し込み、家族のために冒険者になる。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 セントフェアファクス皇国徒士家、レイ家の長女ラナはどうしても持参金を用意できなかった。だから幼馴染のニコラに自分から婚約破棄を申し出た。しかし自分はともかく妹たちは幸せにしたたい。だから得意の槍術を生かして冒険者として生きていく決断をした。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

処理中です...