同じ日に生まれて

２７

「そう。あの子は何も覚えていなかった。
だが、それは私達にとっては、却って都合の良いことだった。
 私達は故郷を離れ、アリエラに引っ越した。
 私達の事情を、あの子がどこかから聞かないように……
その時に、名前もオリヴィエと変えたんだ。」

 「……そ…んな……」

ローランドさんの話が進むうちに、僕は自分の考え間違いに気付き、ざわざわと心がざわめき始めた。



 「お医者様は、あの子の記憶はいつか戻るかもしれないし、一生もどらないかもしれない。
 今の医学でははっきりしたことは言えないと仰った。
 私達は、どうか一生戻らないでほしいと思ってました。
その想いが通じたのか、あの子はうちに来る前の記憶は今も忘れたままです。」

 「だから、君が現れた時、私は慌てた。
 本当ならすぐにでもアリエラに帰りたいところだったが、今回はオリヴィエの友人達も招いている。
だから、君をここへ寄越さないように酒屋に念を押した……」

 「な、なんだって……」

 僕は、身体が震えだすのを感じた。
ダニエルは僕を迷惑がっていたわけでも、自分の過去を隠そうとしていたでわけでもなかった。
それどころか、彼は何も関わってはいない……



ただ、僕のことを忘れていただけなんだ……