同じ日に生まれて

１１

「ダ、ダニエル！」

 庭にいた人々が話をやめ、僕の発した大きな声に皆一様に驚いた顔をして、僕の方をみつめた。
だけど、そんなこと構っちゃいられない。
なんせ、そこには、ダニエルがいたんだから。



 「こ、こら。皆さんの邪魔をするんじゃない。」

ミッシェルさんは今にも駆け出そうとしていた僕の腕を掴んだ。



 庭にいた人々がざわめいて、一人の男性が声をあげた。



 「ここにはダニエルなんて人はいないよ。」


 当のダニエルも、一瞬、僕の方を見たには見たが、もう今の出来事は気にも止めていないように、仲間と話をしていた。



 「カミーユ、帰るぞ。」

ダニエルは、仲間と笑い、僕の方を一度も見なかった。



 （なぜ……僕はすぐにわかったのに、なぜダニエルは……）



 「ほら、とっとけよ。」

ミッシェルさんが僕の手の中に銀貨をねじりこんだ。



 「……これは？」

 「チップだ。
 別荘の配達はこれがあるから、きついが、皆、行きたがるんだ。
……それはそうと、さっきはどうしたんだ？
 知り合いに似た人でもみつけたか？」

 「え……ま、まぁ……」

 「おまえの知り合いにそんなお金持ちがいるのか？」

 「い、いえ……見間違いだったようです。」

 「……そうだろうな。」

ミッシェルさんはそう言って、くすりと笑った。



やはりあれは見間違いだったのか……
僕がダニエルと呼んだ時、彼は、確かに僕を見たけれど、顔色ひとつ変えなかった。
 長い間会っていないからわからなかったのか？
でも、僕は、彼を見た瞬間にダニエルだと感じた……



（あれは、僕の間違いだったのか？）



 「それにしても、不公平なもんだよな。
 別荘の奴らは、うまいもの食べて、高い酒飲んで、上等な身なりをして、面白おかしく暮らしてるってぇのに、俺達と来たら、こんな薄汚れた服を着て、汗だくになって荷車を引いて……
住む世界が違うっていうのは、まさにこういうことだな。」