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#side ルークフォン ~初恋の人を求めて~

初恋の人は真実を知る・・・2

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「ーコンコンッ」

(何とか時間に間に合った様だな・・・?)

想像以上に早い客人の到着に、菓子を頬張っていたフローラは焦ってクッキーを詰め込んで居た。
そんな姿がまた微笑ましいのだが・・・急ぎで呼びつけた故、待たせる事も出来ず俺は入室の許可を出した。

「入れ。」

「失礼致します。・・・・・・、お呼びでしょうか、ルークフォン様」

入ってきたのは、数少ない俺の理解者であり・・・幼い頃より俺の専属従者として王宮に仕えている・・・サイラス・クリプトンだ。

年功序列が当たり前の使用人の世界で、彼は26歳という若さで王宮執事に就いた・・・底が知れない腹黒野郎だ。

「こちら、本日の茶会で公表したの婚約者だ。」

「勿論、存じ上げております。フローラ・アナスタシア公爵令嬢・・・申し遅れました。私はこの王宮で執事を任されております、サイラス・クリプトンと申します。以後、お見知り置きを・・・」

サイラスに丁寧に頭を下げられ、慌ててフローラも淑女の礼を取っていた。

「こちらこそ・・・サイラス様のお噂は予予、耳にしておりましたわ。今日はお初にお目にかかれて光栄で御座います。フローラ・アナスタシアと申します。」

「勿体無いお言葉で恐縮です。私の事はサイラスと、どうぞお呼び下さい。」

サイラスの愛らしい見た目と醸し出すオーラ、そしてこの笑顔に、フローラは眩し過ぎて直視出来ないのか・・・掌をサイラスに向け広げると片目を瞑っていた。

(フローラ・・・騙されるな!こいつのお腹は真っ黒なんてもんじゃない・・・ブラックホールなんだ!)

このサイラスという男は、この見た目からは想像出来ないだろうが・・・とにかくドSなのだ。
そもそも、この王宮内で若くして執事に就くには、人心掌握術に長けていないと難しい・・・。

この天使の様に毒気のない見た目で相手を油断させて懐に入り込み、口八丁手八丁で意のままに操る・・・それがサイラスのやり口だ。

(俺には分かるぞ・・・サイラス・・・!お前、今、フローラの行動が理解出来ずに焦っているな?!)

長い付き合いになる俺は、サイラスの異変に敏感だ。こんな行動や態度をする令嬢など見た事ないであろう・・・いや俺も無いが・・・サイラスは、フローラの一挙手一投足に悩ましげな様子だ。

『そろそろ本題へ・・・』と急かす様なフローラの視線に気付いた俺は、ニヤリと口角を上げてソファーにジャケットを脱ぎ捨てた。

「ーーーっ?!!でっ、殿下・・・何を?」

かなり焦った様子のフローラは、男性の体を見る事に抵抗が無いのか・・・乙女らしく恥じらう様子など微塵もなく、食い入るように俺が脱いでいく様を見ていた・・・。
そんなフローラにとうとう笑いが我慢出来なくなったサイラスの姿が、フローラ越しに視界に入ったので目で『笑うな』と注意しておいた。

「サイラス、信じ難い事だが・・・俺は今、影武者の容疑を婚約者殿から掛けられていてな。お前に確かめて貰おうと呼んだのだ。」

「なるほど。そうでしたか!では・・・失礼致します。」

声こそ出ていなかったが・・・全身で驚きを表現しているフローラに俺もサイラスも笑いを堪えるのに必死だった。

サイラスの野郎は俺の体で自分の顔を隠すと『ククククッ』と小さく笑えるが・・・俺は笑う訳にはいかず・・・フローラを見ない様に視線を動かした。

俺の腰の辺りにある〝王族の刺青しるし〟など場所を知っているのだから・・・すぐに見付けられる癖に俺に隠れて笑いたいサイラスの野郎は、手間取っているフリをしていた。

思わず踵でサイラスの膝を蹴ってやると、スイッチを執事モードに切り替えたサイラスが立ち上がった。

「フローラ様、ご安心下さいませ。このお方は、影武者などでは無く・・・



本物のルークフォン・ヴェストリア第二王子ですよ?」



「な、何故・・・そんな簡単にお分かりに?」

信じたくないと言わんばかりにフローラは、狼狽えていた。

「うーん・・・。フローラ様は騎士団長様の娘ですし、行く行くは王族になられるお方ですからね・・・特別にお教えしても宜しいですか?ルークフォン様。」

俺の意向など手に取る様に分かっているサイラスは、俺が望む展開へと着実に駒を進めてくれる。
俺は勿論良いので、コクリと頷いた。

「あのですね~!これは絶対に他言無用でお願い致しますよ?実は・・・王族の方々の体にはそれぞれ、王家の紋章が特別なインクで彫られているのですよ~!フローラ様がお疑いになられる様に、成り済ましとか結構有るので、本物かどうかを王族がきちんと判断出来るように、隣国との戦争が始まって3年目位に当時王子だった陛下が決められたのです!」

サイラスの説明を聞きながら、何故か天を仰ぎ十字架を胸に作ったフローラは手を組んで祈る様に俺に向かって問い掛けてきた。

「まっまさか・・・殿下なのですか・・・?!」



「フローラ・・・帰る前に気付いて貰えて良かった。そう、俺は影武者などでは無い・・・本 物 だ!」



「もももも申し訳ございませんでした!!!殿下っ!!!」

公爵令嬢である彼女のまさかの土下座に、流石のサイラスも焦っていた。勿論俺も・・・まさかジャンプしてそのまま土下座するとは思わなかった・・・。

「フローラ様っ?!わわ、そんな事なさらないで下さい~!」

まるで戦地から命からがら逃げて来たかの如く、一瞬でヨロヨロになってしまったフローラは、サイラスに支えられながら立っていた。

そして俺は自分の企みが成功へと向かっている高揚感から、思わず黒い笑みを浮かべてしまっていた。

「フローラ・・・俺はデートがしたいんだ。」

「・・・・・へ?」

恐らく断罪されるとでも思っていたフローラは、デートの意味が理解出来ない様子で、ブツブツと顎に手を当てながら零し始めた。

「デートがしたいんだよ、フローラ。そうだなぁ・・・5日後なんてどうだろうか?」

「・・・・・・えと、殿下・・・私、」

(この状況で・・・まさか断るのか?!・・・嘘だろ、おい?!)

ここまでお膳立てしたにも関わらず、断りそうな雰囲気を出すフローラの強心臓に焦った俺は、慌てて追加攻撃を仕掛けた。

「駄目だよ?フローラ、断っては・・・俺の理性がある内に返事をした方が身の為だ。」

「・・・・・・・・・ヨロコンデお受け致します。」

嫌味なくらい棒読みな返事では有ったが、デートの約束を取り付けた俺は心の中でガッツポーズを決めた。

「それは素晴らしいですね!その様に手筈を整えておきますね!ルークフォン様、フローラ様!」

サイラスと視線だけで作戦の成功を分かち合っていると・・・フローラがサイラスの片鱗に気付いてしまったのか、凄い顔でサイラスを睨んでいた。



(これで、フローラがサイラスの毒牙にかかる事は無いな・・・)

と一安心していた俺は完全に忘れてしまっていたーーー。



サイラスがほど愛でる性格であった事をーーー。
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