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#side ルークフォン ~初恋の人を求めて~

初恋の人は、もう何処にも居ない

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「ルークフォン、お前の婚約者は・・・此度の戦争の功労者である、アナスタシア公爵の娘に決めた。齢もお前の二つ下らしいからな・・・丁度良かろう?」

「・・・・・・え?」

父上に謁見の間に呼ばれた俺は、きっと碌でもない話だろうなと予想していたが・・・放たれた言葉は意外なものだった。

(てっきり、兄上が婚約するものだと思っていたのに・・・何故だ?)

我が国では、王位継承権を持つ者は16歳迄に婚約者を持たなくてはいけない。兄上は、もう17歳目前のギリギリ16歳で婚約者が居ない。方や僕は、16歳目前のギリギリ15歳だ。
てっきり、国民からの支持も王城からの支持も厚い、公爵位を与えた英雄の娘を口説いている最中だと思っていたのだが・・・

すると・・・俺の心を読み取ったのか?と錯覚を覚える程のタイミングで、父上が更に言葉を続けた。

「アンドレイには本当に好いている者と婚約させたいのだ・・・。だが、王族として地位や権力の有る者との婚約、そして後継者が必要な事もお前なら分かるな?」

(父上は・・・俺を人間だと思っていないらしい・・・少なくとも心の有る人間だとは・・・な。)

俺は最早、怒りとか悲しいとかそういう感情を父上相手に持ち合わせておらず、頭を垂れながら小さく嘲笑してしまった。

「勿論です。」

(嫌という程分かっているさ・・・自分こそが、その忌々しい慣例の一番の被害者なのだからな。)

思わず拳に力が入ってしまう・・・。頭に血が上がってしまわないように、必死で自分を律し続けた。

「顔合わせは、三日後にアナスタシア公爵の屋敷で執り行う事となった。準備をしておきなさい。」

「かしこまりました。」




謁見の間の扉を閉じた俺は・・・思わず本音が零れ出してしまった。

「下らない。愛の無い結婚などしてたまるか・・・」

俺の様な人間は必ず俺で最後にすると、孤独に押しつぶされそうな夜の度に自分に誓ったのだ。
俺は絶対に結婚などしない・・・。跡継ぎは、兄上が好いた女性との間に作れば良い。他に後継者が居ないとあれば、うるさいお貴族様方も従うであろう・・・。

アナスタシア公爵令嬢には申し訳ないが・・・俺の野望の為、何れ婚約破棄を受け入れて貰う事になるだろうな・・・。














「お初にお目にかかりますわ、殿下。フローラ・アナスタシアと申します。本日はお越し頂きまして、有難うございます。」

俺は元々無表情な方で、歳と共に面の皮だけは厚くなっていった為、驚いた表情をする事も、声を上げる事もしなかったが・・・時間が止まってしまったかの様な錯覚を覚える程に・・・驚き固まってしまった。

(フローラ・・・!本当に・・・?本当に、彼女なのか・・・?)

「こちらこそ・・・私はルークフォン・ヴェストリアです。これから宜しく頼みますね、フローラ嬢。」

平然を装い、いつもの様に笑みを浮かべて咄嗟に対応する。俺が手を差し出すと、彼女はおずおずと優しく握り、慎ましく笑った。

あんなに短かった髪は、腰あたりまで伸ばされており、毎日手入をしているのかサラサラだった。
赤茶色の瞳にミルクティブラウンの髪・・・輪郭や面影は追い求め続けた彼女そのものなのに、何故か素直に受け入れる事が出来ない・・・。
何より・・・この態度に、言葉遣いに、違和感しか無い。彼女が笑いかけてくれていると言うのに、全くときめかなかった・・・。何故だ・・・?

「殿下と婚約を結べるなど・・・身に余る光栄で・・・私、昨晩は緊張して眠れませんでしたわ。」

フローラが俯きながら上目遣いで頬をピンク色に染めて俺を見ると、恥ずかしげに呟いた・・・普通ならば、可愛いと庇護欲を掻き立てられるであろうその仕草を見た途端、ゾワゾワゾワッと背中に悪寒が走った。

そして、握ったままの手に視線を落とすと、少し手の皮は厚いが以前の様なマメは無くなっており、そこら辺に転がっている令嬢と同じ手になってしまっていた。

その事実が・・・とにかく悲しくて、苦しかった。
本当は泣き出してしまいそうな程に、心は悲鳴をあげていたが、俺はそれを表に出せる程・・・もう彼女を信頼する事が出来なかった。

「殿下、どうぞ屋敷へお入り下さいませ。フローラが殿下の為にと、特製ハーブティーを用意しておりますので・・・」

「もぅ、お父様ったら!そんな事、わざわざ殿下に仰らないで下さいませっ!恥ずかしいですわ~」

(やめろ・・・やめてくれ・・・)

「それは、とても楽しみですね。是非、頂きましょう。」

(これ以上、俺の思い出を壊さないでくれ・・・)

「殿下は・・・その、ハーブティーはお好きですか?」

(大切な・・・特別な・・・俺を支えて来てくれた・・・)

「飲んだ事無いのですが・・・きっと、好きになると思いますよ?」

(温かい・・・フローラとの思い出が・・・)

「殿下のお口に合うと宜しいのですが・・・」

(言いたくない・・・!言うな!言うな!言うな!)

「とてもーーー。美味しいですよ、・・・・・・フローラ嬢。」




その言葉はーーー、
君と当たり前の様に過ごしていたあの時・・・俺が言いたかった言葉だったんだ。

『フローラ、これ美味しいよ。ありがとう。』

そしてーーー、
君と再会出来たら・・・俺は迷わずこう言おうと決めていたんだ。

『フローラ、ずっと前から好きだった』

でも、もうこの世界の何処にも・・・俺が好きだったフローラは存在しない。

もう・・・探す事すら・・・出来なくなってしまった。



ただ・・・このハーブティーだけは、凄く懐かしい味がしたーーー。
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