上 下
40 / 48
番外編〜二人のその後〜

婚約者の務め 3

しおりを挟む
「ではフレイヤ様、本日より暫しお暇を頂きます。3日後には必ず戻りますので・・・!」

「折角のお休みですもの!こちらの事は気にせずゆっくりと羽を伸ばして来てね!」



そうエマさんを見送ったのが早朝の出来事である。

どうやらエマさんは侍女長という立場から、屋敷務めをしている間はお休みをきちんと取れないほどの激務だったらしく・・・
今回、学園へと来ている間に休みを取れば良いとエドマンドが配慮してくれたようで、
エマさんは今日から3日間お休みで、ここから馬車で半日ほどの所にある故郷へ帰るとの事だった。





「フレイ、またステップ間違えてるよ?」

「うぅぅ・・・ごめんなさい・・・。」

エマさんのお休みに伴い、私のレッスンも休みになると少し・・・ほんの少しだけ・・・期待していたが・・・

  そんな訳は無かったーーー。

いや、厳密に言えばレッスンはお休みになったのだ。

だけれどもーーー私は社交ダンスがとにかく苦手・・・というか壊滅的で、
学園が開いている練習会や補習には必ず参加して精進しようと努力はしているんだけど・・・一向に良くならず、あまりの下手さに講師の先生にまで匙を投げられてしまったのだ。

差し迫る婚約お披露目会に向けて何とかしなくてはいけない・・・!
という事でエドマンド講師に2泊3日の合宿指導をお願いした訳である。

だけど、私の壊滅的なダンス能力は講師がエドマンドになったからと言って良くなるものでも無く・・・



  ご覧の有り様である。



「ーーーフレイ、そんなに落ち込まないで?」

「何だか申し訳なくなって来ちゃって・・・全然上達しないし、こんなんじゃエドに恥を欠かせちゃうわよねーーー」

練習を始めてもう何時間も経っている・・・。
窓から見える夕日はもうすぐ夜が来る事を教えていた。

それにも関わらず全く上達していない・・・ワルツ以外の曲は一曲踊る事もままならない状態だ。

婚約お披露目会の準備や招待客の管理は、全部エドマンドに任せっきりだ。
代わりに私は、レッスンを頑張って婚約お披露目の日までに・・・最低限、公爵夫人に相応しいレディーになると約束したのだが・・・

(社交ダンスもまともに踊れないんじゃ・・・レディーには程遠いわよね・・・。)

私が落ち込むのはお門違いだと分かっていても・・・落ち込まずにはいられなかった。
忙しいエドマンドを付き合わせて練習した結果がこれだと思うと・・・情けなくなってしまったのだ。

そんな私を優しく包み込む様に抱き締めてくれたのは、エドマンドだ。

「ごめん・・・エドは準備でただでさえ忙しいのにーーーこんな事に付き合わせちゃって、」

「謝らないで?僕はフレイに頼って貰えて凄く嬉しいんだから・・・。」

そう優しく返してくれたエドマンドの顔を見上げれば・・・視線がまるで求め合っているかの様に絡まった。
背中に回されたエドマンドの手はダンスの練習をしていた時と同じ手、同じ位置の筈なのに・・・確かにキスを強請られていると分かった。
そのまま瞳をゆっくり閉じると・・・私はエドマンドに身を委ねた。

学園だったり・・・エマさんが居たら・・・恥ずかしくてきっとすぐに目線を離してしまっていたと思うけど、
ここはエドマンドの部屋で他には誰も居ないーーー。

2人きりなのだーーー。





(・・・え。2人きりーーー?!!!)





途端、脳裏にエマさんの言葉が浮かんだ。

『ですから・・・寝屋のお相手ではないですか?エドマンド様が望まれている事は・・・』


「ストーーーーーップ!!!」


キスを寸前で止めた私は咄嗟にそう叫んでしまっていた。
止められたエドマンドは・・・訳が分からないという様子で首を傾げている。
とにかくこの状態が非常に不味いという事だけは流石の私でも分かったので、エドマンドが首を傾げている間に腕から逃げ出した。

(どうしよう・・・!どうしよう・・・!忘れていたわ・・・っ!!!)



  婚約者の務め!!!



いや、エマさんとその話をして数日間位は覚えていたのだーーー。
と言うか・・・意識し過ぎるあまり、エドマンドの一挙手一投足に過剰反応してしまっていた位だ。

だけど、今日に限っては忘れてしまっていた・・・!
もう、とにかくダンスを何とかしなくちゃいけないってそれしか考えていなくって・・・。



(あれ?でも冷静に考えてみて・・・おかしいわよね?)



私がエドマンドにダンスの練習をお願いしたのって・・・昨日の事なのに、何で泊まれたんだろう?

いや・・・!婚約者が事前申請すれば宿泊可能なのは知ってるけれどーーー
事前申請って前日とかで出来るものなの?


あれーーー?


あれれーーー?


もしかして・・・?!!


「え、エド・・・?ちなみに・・・私の寝床って・・・?」

「嫌だなぁ、フレイったら・・・!この部屋にはクイーンサイズのベッド1つしか無いよ?」

「私、別にソファとかで全然構わないけど・・・ね。」

「じゃあフレイに問題です。ーーー公爵夫人はソファで寝ますか?夫と一緒にクイーンサイズのベッドで寝ますか?」



「・・・・・・・・・一緒にクイーンサイズのベッド、」



私の返答に「正解」と満面の笑みを向けるエドマンドに・・・それ以上何も言えなくなってしまった。
だってエドマンドのクイーンサイズのベッドには・・・確かに今朝まで私の部屋にあった筈の枕がエドマンドの枕と仲良しそうに並んで居たからーーー。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

死ぬまでにやりたいこと~浮気夫とすれ違う愛~

ともどーも
恋愛
結婚して10年。愛し愛されて夫と一緒になった。 だけど今は部屋で一人、惨めにワインを煽る。 私はアニータ(25)。町の診療所で働く一介の治療師。 夫は王都を魔物から救った英雄だ。 結婚当初は幸せだったが、彼が英雄と呼ばれるようになってから二人の歯車は合わなくなった。 彼を愛している。 どこかで誰かに愛を囁いていたとしても、最後に私のもとに帰ってきてくれるならと、ずっと許してきた。 しかし、人には平等に命の期限がある。 自分に残された期限が短いと知ったとき、私はーー 若干ですが、BL要素がありますので、苦手な方はご注意下さい。 設定は緩めです💦 楽しんでいただければ幸いです。 皆様のご声援により、HOTランキング1位に掲載されました! 本当にありがとうございます! m(。≧Д≦。)m

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

処理中です...