上 下
1 / 48
本編

豚では無く・・・エドマンドです!

しおりを挟む
「絶っっっ対に嫌ですわ!あんな〝豚公爵〟にエスコートされるだなんて!!!」

食後のティータイムで怒り狂っているのは、私の姉でハンメルン家長女のマチルダ・ハンメルン、13歳だ。



私の名はフレイヤ・ハンメルンーーー歳は10歳になる。

貿易商を営んでいるお父様が、その功績を認められて子爵位を賜ったのは・・・私が産まれる少し前の事だと母から聞いた。

お父様のお店では国外から取り寄せた物を多く取り扱っており、新しい物好きの貴族界では一目置かれているお店だ。

経営は順調らしく・・・私達ハンメルン家は本来、子爵位では持てない様な王都の一等地にある屋敷で、贅沢な暮らしをしている。



「口を慎みなさい・・・マチルダ。ハイネス公爵家と言えば・・・長年、外交を任されていらっしゃる由緒正しきお家なのですよ。」

お父様の雷が落ちる前にと・・・焦って姉を窘めているのは、お母様だ。
 
「でもお母様・・・!あんまりですわ!よりにもよって・・・何故、〝豚公爵〟なのですか?!」

ちなみに姉が先程から連呼している〝豚公爵〟とは・・・向かいの屋敷に長年住まわれている、ハイネス公爵家の一人息子であるエドマンド・ハイネスの事である。

今やこの王国において最も重要な〝外交〟を任されている・・・筆頭公爵家の嫡男だ。

「お姉様・・・エドマンドにいくら何でも失礼です。見た目が少し大きめというだけで・・・彼はとても素晴らしい殿方ですよ?」

黙って聞いていたら好き放題言うお姉様に思わず、苦言を呈してしまう。

だってエドマンドは私と同い年で・・・私達2人は幼なじみなのだ。

今振り返って見れば・・・ハイネス公爵家と何とかお近付きになりたい両親の策略だったのだろうが、私とエドマンドは物心ついた頃には、もう既に一緒に居るのが当たり前の存在だった。

確かに彼は、見た目は幼い頃より大きめで有ったが・・・・・・公爵家の嫡男という事を振り翳す訳でも無ければ、私が女だからと言って見下す様な事もしない。
人の本質をきちんと見て、思いやれる・・・とても良い奴なのだ。

そんな幼なじみを悪く言うお姉様に、姉妹とはいえ嫌悪感を向けずには居られまい。

「フレイヤ・・・、貴方はと仲良しだものね?」

「豚では無くエドマンドです!まぁ・・・幼なじみですから、仲は良い方だと思いますが・・・」

「なら、エドマンド様のエスコートはフレイヤにお譲りするわ?きっとエドマンド様もその方が喜びますでしょうし?ーーー良いでしょう?お父様・・・!」

お姉様はこの状況を打破出来るとっておきの思い付きに瞳を輝かせながら、お父様の方へと擦り寄って行く。

「うむ・・・まぁ、ハイネス公爵も恐らくフレイヤの方を誘いたかった所を、礼節を重んじてマチルダにしただけだろうしな・・・。で無ければ、こんなギリギリに申し出する意味が無い。」

お父様言う所の〝礼節〟とは・・・我が家の様に決まった相手のいない姉妹が居た場合は、年功序列に則ってお誘いをしなくてはいけないという、貴族界での暗黙の了解みたいなものの事だ。

つまり我が家の場合、私達二人共に3日後に控えている舞踏会のエスコートのお相手が決まっていないので、お姉様から順番にお誘いしなくては失礼に当たるという訳である。

ちなみに私の国では、パーティーや舞踏会の招待状を受け取れるのは男性のみだ。
女性は招待された男性からエスコートの申し出を受けて、初めて社交界へと繰り出せるのだ。

但、茶会等のお昼間に開催されるものについては、女性でも招待を受ける事が出来る為、私達姉妹は多く招待を受けており、比較的顔も広い。

ちなみに、
エドマンドも筆頭公爵家と言う事も有り、今まで沢山の招待を受けていた様だけど・・・人が多い所が苦手らしく全て断っていたのだが・・・今回は王族主催のもので断る訳には行かず、憂鬱だと数日前に漏らしていた。

「でも旦那様・・・、お相手は公爵様ですよ?お断りするので有れば、それ相応の理由が必要ですわ?」

焦るお母様の意見はご最もだ。
いくら公爵が望んでいたとしても、子爵位の我が家が公爵の申し出を断るなんて選択肢は無い。

「知り合いに頼んで何とかマチルダもパーティーに行ける様に算段を付けよう。僅差でそちらの方の誘いを先に受けてしまったという体にすれば・・・角も立たんだろう。」

「お父様、私の隣に相応しい殿方でお願い致しますわよ?!」

「こら、マチルダ!旦那様を困らせるんじゃありません!」

とうとうお母様からのチョップを受けたお姉様は、ようやく萎らしく自分の席へと戻った。
私はと言うと、我存ぜぬを貫いてひたすら紅茶を優雅に啜っている。

「フレイヤ・・・そういう事だ。良いな?3日後のパーティーは、エドマンド様と行きなさい。」

「ええ、喜んで。」

満面の笑みで答えて見せると、お父様は少し安心したのか小さく溜め息をついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

処理中です...