72 / 80
5章 表舞台へ、静かに階段を上る
68話 男は尊いと遠い目をした
しおりを挟む
キャンベラのシズクの巫女についての説明で大慌てしそうになったが、当の本人であるシズクの慌て様を見て冷静になった。
話ではよく自分より慌ててる人を見たら逆に落ち着いたみたいなのは聞くが実際に体験して今日初めて納得する俺。
だったらキャンベラの情報が嘘なのかといえば、嘘探知は発動せず。
うーん、シズクが遣わせたとかはないぽいけど、何か心当たりがないか、後で聞く必要があるかもな。
もうちょっと詳しく聞くしかないな……その奇跡とか如何にも胡散臭いし。
「奇跡とか言ってるけど、どんな事したん?」
「日照りで作物が全滅しそうになってる土地で雨乞いをしたり、越境してきた隣国の軍を竜巻で撃退、巫女が来るまでに傷を負ったものを一度に何人も回復して見せたりなどをして感謝されると『シズク様の奇跡のよるもの』などと言って、今じゃ王都ではその巫女がシズク様に遣わされたと疑う者がいないほどです」
キャンベラの説明の途中からその背後で『知らない、知らない、私、何もしてない』などと一生懸命に俺に訴える光文字が書き込まれていた。
多分、色々と干渉出来なくてごめんね? な事を言ってたのに隠れてやってたの? と俺に思われるのを恐れたんだろうけど、俺はシズクが嘘を吐いているとはこれぽっちも疑ってない。
俺が心の中でシズクに訴える。
シズクがそんなことをしてるとはまったく疑ってない。だけど、色々と問題はあると思うので後で相談する時間を取るから今は落ち着いて、その時までに考えられる可能性を探ってみてくれないか?
と心で強く思ったら、必死に書いていた光文字は消え、何も書かなくなった。
とりあえず、シズクが落ち着いてくれたので俺なりに整理すると、その巫女は十中八九、偽者だろうな、と俺は思っている。
勿論、シズクを信じているからというのもあるが、シズクの奇跡をわざわざ借りなくても、今の俺だけでもやれる事ばかりだからだ。
雨乞いなんて水魔法を広範囲に上空で発動させれば出来るし、沢山の怪我人を治療するのも同じ要領で出来る。竜巻なんて、もっと簡単だ。
本当にシズクが噛んでいるなら、その巫女と協力関係を依頼したほうが明らかにいいに決まってる。
だから正直、胡散臭さ満載だから関わり合わないで済むなら避けたいところだと思っているとキャンベラが
「でもこれって『名もなき英雄』様の貴方も出来る事ですよね?」
俺にそう言ってくるキャンベラがどういう答えを求めているかは分かっていたが「さあ? どうだろう?」と濁して返す。
つまり、キャンベラも奇跡というのは胡散臭いと思っている事がはっきりと分かる。
だが、先程、孫娘のキャンベラにカーペットにキスさせられてから黙っていたゾロさんが口にした言葉で関わりを避けるのは無理と思わされた。
「受けてた報告と今日のやり取りを見ても分かるが、お主は表舞台に出たいとまったく思っておらんのは分かる。そういう性分なんじゃろうな、じゃが、王国がお主を捜し始めたのがその巫女の一言からと言っても同じ態度でいられるかの?」
その言葉に自分の顔が強張った事に気付いてすぐに何でもないように振る舞いはしたが、間違いなくゾロさんだけでなく、キャンベラにもばれているだろう。
一瞬、俺に対するカマかけかと疑ったが、カマかけかどうかはともかく少なくとも嘘探知は反応しないところから本当の情報だと下唇を噛み締めた。
そんな2人からすれば分かり易い反応をする俺に突っ込みもしないキャンベラは俺の存在を知った当初は巫女との関係を疑った事をあると素直に吐露した。
「巫女と貴方、『名もなき英雄』様が現れた時期が近しい上に神の代行者と言われて納得してしまいたくなるような力を行使出来た」
「じゃが、巫女は王、第二王子を使って自分の存在を王都で喧伝し、シズク様の代行者としての立場を確立。対してお主は喧伝するところか、証拠を揉み消してまで名誉も何も求めず、そして生まれたのが『名もなき英雄』じゃ」
関連があるように思えるのに、まさに対極を行く2人ではあるが繋がりを疑い、調べ続けていた。だが、俺の存在を知った巫女が捜索を指示した段階で違う事に気付き、繋がりがないことを確信したらしい。
しかし、俺はその巫女の噂話すら聞いた事もなかったので、いつ頃から表舞台に出たか聞いてみると俺がゴブリン神と戦って一カ月ぐらい後と教えてくれた。
1カ月後ぐらいか……ロッカクに行った辺りか、農場を作り始めた頃か。
あの頃は忙しかったから、気にしてなかっただけかな、と思っているとどうやらプリットは王都の繋がりが薄いらしく、商人の行き来も少なく王都の噂の伝達は他と比べても遅いらしい。
普段の伝達速度だとワイバーンに襲われた時期ぐらいに伝わるぐらいだったが、あの騒動でうやむやになったんじゃないかとキャンベラが教えてくれた。
俺はワイバーン騒動の時の王国軍とかの無様ぷりを思い出しげんなりしつつ、先程、ゾロさん達が言った捜索という言葉がひっかり一瞬考えたのち弾けるように顔を上げた俺が質問する。
「捜索っていえば、俺の前にやってきたトリルヴィは……!」
「違うわ、彼女は敵じゃないわ。彼女は捜索指示をする巫女のどさくさに紛れさせてバルスがねじ込んだの!」
トリルヴィは第一王子派で、この王国に憂いを感じてる側。だが、キャンベラ達とは敵の敵は味方という薄い繋がりではあるが間に第一王子のバルスが入っている事でかろうじて協力体制を取っているらしい。
巫女は軍に捜索を依頼しているがまったく見当違いな捜索をしているらしい。何せ、裏の情報を押さえているのはキャンベラ達で、しかも、そのキャンベラ達にすらプリットにいる情報屋達は『名もなき英雄』については口が重かったらしいので王国軍に正しい情報が伝わる訳がなかった。
むしろ、誤情報を王国軍に流してるようだ。
うわぁ、情報屋が俺に感謝してるって言ってたけど、元締め相手に反逆と取られかねない危ない橋を渡ってまでやってるとは思ってもなかったな……
あのアヤしさ爆発の情報屋に感謝されるって俺、何したんだろう……
きっといくら聞いても教えてくれなさそうだし、変に突いて今の協力体制を壊すのは馬鹿らしいから諦めよう。
「だから、トリルヴィは初めから俺がそうだと確信を抱いていたのか」
そう呟く俺に頷くキャンベラを見つめながら、トリルヴィと話した内容、そして今、キャンベラ達と話した事を並べて繋ぎ合せていく。
そこから弾き出された答えに俺は頭痛を覚え、額に掌を当てる。
トリルヴィが言った事、そして、ワイバーン騒動の一件をある事が事実だあれば全て繋がると気付いたからだ。
「もしかして巫女が求めているのか……宝玉を?」
「ご明察です。しかも今回のワイバーンの一件で巫女に敵認定を受けました。それは巫女に対抗できる力の持ち主だからでしょう」
なるほど……確かに色々と繋がってきた。情報屋が宝玉の扱いを口が酸っぱくなる程に言ってくる訳だ。
しかし、当初は捜してどうするつもりだったんだろうと思ったので素直に聞いてみた。
「当初はゴブリン神を単独撃破をした英雄として向かい入れ、巫女と協力体制を取り、盤石の態勢にしたかったようです。ゴブリン神の話は冒険者ギルドの横の繋がりで他都市などに電撃的に伝わりましたので王都でも『名もなき英雄』の存在は一人歩きしてましたからね」
だが、今回も名誉も何も求めず、行方を晦ますような存在は金でも地位でも釣れない。しかも、王国軍とのやり取りから味方にするのは無理だろうと判断されたのもあるらしい。
邪魔になるなら始末しよう、てことか……物騒だ。
本気でヤレヤレと思っている俺を見て申し訳なさそうにするキャンベラが言ってくる。
「巫女が現れる前までは私達、第一王子派が優勢でした。もう少しでこの王国を良くするテコ入れが出来るというとこまで来てましたが、巫女が現れ、シズク様の代行者という立場を得て、一気に第二王子派の現状維持を望む者達が盛り返してきて私達は勢力は風前の灯に……」
王国の民のほとんどが第一王子の国を良くする未来を応援してくれていたが、しかし、この国の民は敬虔な創造神の信者が多数で、巫女側へと流れて行って引っ繰り返されたようだ。
宗教ってこえぇ……国を良くしようと頑張ってる人より、神の代弁者と名乗るあやしい存在を信じる、か……
「成果、結果のあるなしの差もあるんだろうな」
「その通りです。バルスは現状、成果もありませんので理想を謳ってるだけと取られていますが、巫女は奇跡という形で結果を示していますので……ですが、巫女に匹敵する結果を出した人がもう1人います」
ジッと真っ直ぐに俺を見つめるキャンベラ、嘆息して横目で見るゾロさんは「わかっとるよな?」と言いたげな様子から、はっきりしない俺に苛立ちもあるんだろうな。
はぁ、溜息を零す俺は頭をガリガリと掻く。
「俺って言いたいの?」
「はい、先程も言いましたが王都で『名もなき英雄』様は巫女に匹敵するほど有名です。巫女はシズク様の指示というオブラートはありますがあれこれと要求してるのに、『名もなき英雄』様は何も求めない。シズク様の存在が大きくはあるが無欲、いえ、王都の者に言わせれば正義の使者とも持て囃される存在が第一王子についたと知れ渡ると、きっと王都の民は混乱してどうしていいか分からなくなって足を止める。その時間が欲しいのです」
王国の民を巻き込みたくない、と告げるキャンベラであるが裏稼業の元締めらしくないセリフだなとは思うが相も変わらず嘘探知に引っかからない。
キャンベラの真意は色々気になるところだが、つまるところ、『名もなき英雄』の後ろ盾が欲しい。そして、巫女を押さえて欲しいという事だろう。
考え過ぎて首を捻るが一気に情報が入ってきたから正直、どう答えるのが正解が迷う。
なので素直に現状の想いを伝える事にした。
「言いたい事は分かった。確かに王国軍の様子からあちら側の水は俺には合わないだろう。だが、協力の事は少し考えさせて欲しい。俺には守らなければ……いや、守りたいモノがある」
「……はい、少し残念ですが、色良いご返事をお待ちしております」
キャンベラは口を真一文字に結んで俯くが、すぐに顔を上げて笑みを浮かべる。
色々と思う事はあるんだろうけど強権を発動しないキャンベラ達には好感も抱いたし、俺の人となりを知りたかった理由も分かった。
巫女側に靡くような人物なら致命傷だし、そうだったらワイバーンの素材だけ買って帰してたんだろう。
しかし、最後までキャンベラは嘘を言わなかったな……ゾロさんは孫馬鹿から嘘を混ぜただけでそれ以外ではなかった。
もしかして、キャンベラには詐称スキルはないのか? と疑問に思った俺は確認するとゾロさんのようなスキル値はないがちゃんと詐称スキルなどはあった。
だが、ゾロさんにはなくてキャンベラにある二度見してしまったスキルに気付いた時、俺は元締めらしくない行動をしているキャンベラにちょっと聞いてみたいと思ってた事を思い切って聞いてみた。
「正直、裏稼業の元締めが王子にする協力する領域をオーバーしてると思うんだけど……惚れた弱み?」
そう何でもないんだよ? というスタンスでサラッと聞くと一瞬でキャンベラの顔が真っ赤になる。
「ちちちち、違うだから、アレとはそういう感じじゃない!」
だとか
「そ、そう、これは頼りない弟を心配する姉な感じのねぇ!」
などと色々と捲し立ててくる。
俺はウンウン、優しい視線を向けながら頷きながら聞く。
そして、俺はソッと嘘探知をOFFする。
だって、惚れてるの? って質問してからティーン、ティンって鳴りやまなくて頭が痛くなってきたから。
ちなみにキャンベラのスキルは
キャンベラ Lv19
詐称Lv4 交渉術Lv4 威圧Lv2
ちゃんと詐称スキルあった。だが、俺が注目したのはそんなものではなかった。
ツンデレLv10
ツンデレってスキルなんだ、と初めて知った俺だった。
しかもカンストしているのがツボ。
目をグルグルさせながらも必死に第一王子バルスの事を否定し続けているキャンベラを直視出来ない。
今、見たら噴き出しちゃう!!
まあ、孫馬鹿のゾロさんは面白くないわけだ。
暴走するキャンベラをもう少し眺めていたい気持ちもあったが俺はポンコツになっているキャンベラを放置してゾロさんに別れを告げる。
「ワイバーンの素材は部下に受け取るように指示してある。金は査定後、届ける」
「有難うございます。では、失礼します」
そう言って退出してドアを閉めるが、俺がいなくなってる事に気付いてないらしいキャンベラが必死に言い訳する声がまだ響いていた。
尊い。
俺は先程よりも前向きにキャンベラの願いを聞いてあげたいと思いながら外へと出る道を歩き始めた。
話ではよく自分より慌ててる人を見たら逆に落ち着いたみたいなのは聞くが実際に体験して今日初めて納得する俺。
だったらキャンベラの情報が嘘なのかといえば、嘘探知は発動せず。
うーん、シズクが遣わせたとかはないぽいけど、何か心当たりがないか、後で聞く必要があるかもな。
もうちょっと詳しく聞くしかないな……その奇跡とか如何にも胡散臭いし。
「奇跡とか言ってるけど、どんな事したん?」
「日照りで作物が全滅しそうになってる土地で雨乞いをしたり、越境してきた隣国の軍を竜巻で撃退、巫女が来るまでに傷を負ったものを一度に何人も回復して見せたりなどをして感謝されると『シズク様の奇跡のよるもの』などと言って、今じゃ王都ではその巫女がシズク様に遣わされたと疑う者がいないほどです」
キャンベラの説明の途中からその背後で『知らない、知らない、私、何もしてない』などと一生懸命に俺に訴える光文字が書き込まれていた。
多分、色々と干渉出来なくてごめんね? な事を言ってたのに隠れてやってたの? と俺に思われるのを恐れたんだろうけど、俺はシズクが嘘を吐いているとはこれぽっちも疑ってない。
俺が心の中でシズクに訴える。
シズクがそんなことをしてるとはまったく疑ってない。だけど、色々と問題はあると思うので後で相談する時間を取るから今は落ち着いて、その時までに考えられる可能性を探ってみてくれないか?
と心で強く思ったら、必死に書いていた光文字は消え、何も書かなくなった。
とりあえず、シズクが落ち着いてくれたので俺なりに整理すると、その巫女は十中八九、偽者だろうな、と俺は思っている。
勿論、シズクを信じているからというのもあるが、シズクの奇跡をわざわざ借りなくても、今の俺だけでもやれる事ばかりだからだ。
雨乞いなんて水魔法を広範囲に上空で発動させれば出来るし、沢山の怪我人を治療するのも同じ要領で出来る。竜巻なんて、もっと簡単だ。
本当にシズクが噛んでいるなら、その巫女と協力関係を依頼したほうが明らかにいいに決まってる。
だから正直、胡散臭さ満載だから関わり合わないで済むなら避けたいところだと思っているとキャンベラが
「でもこれって『名もなき英雄』様の貴方も出来る事ですよね?」
俺にそう言ってくるキャンベラがどういう答えを求めているかは分かっていたが「さあ? どうだろう?」と濁して返す。
つまり、キャンベラも奇跡というのは胡散臭いと思っている事がはっきりと分かる。
だが、先程、孫娘のキャンベラにカーペットにキスさせられてから黙っていたゾロさんが口にした言葉で関わりを避けるのは無理と思わされた。
「受けてた報告と今日のやり取りを見ても分かるが、お主は表舞台に出たいとまったく思っておらんのは分かる。そういう性分なんじゃろうな、じゃが、王国がお主を捜し始めたのがその巫女の一言からと言っても同じ態度でいられるかの?」
その言葉に自分の顔が強張った事に気付いてすぐに何でもないように振る舞いはしたが、間違いなくゾロさんだけでなく、キャンベラにもばれているだろう。
一瞬、俺に対するカマかけかと疑ったが、カマかけかどうかはともかく少なくとも嘘探知は反応しないところから本当の情報だと下唇を噛み締めた。
そんな2人からすれば分かり易い反応をする俺に突っ込みもしないキャンベラは俺の存在を知った当初は巫女との関係を疑った事をあると素直に吐露した。
「巫女と貴方、『名もなき英雄』様が現れた時期が近しい上に神の代行者と言われて納得してしまいたくなるような力を行使出来た」
「じゃが、巫女は王、第二王子を使って自分の存在を王都で喧伝し、シズク様の代行者としての立場を確立。対してお主は喧伝するところか、証拠を揉み消してまで名誉も何も求めず、そして生まれたのが『名もなき英雄』じゃ」
関連があるように思えるのに、まさに対極を行く2人ではあるが繋がりを疑い、調べ続けていた。だが、俺の存在を知った巫女が捜索を指示した段階で違う事に気付き、繋がりがないことを確信したらしい。
しかし、俺はその巫女の噂話すら聞いた事もなかったので、いつ頃から表舞台に出たか聞いてみると俺がゴブリン神と戦って一カ月ぐらい後と教えてくれた。
1カ月後ぐらいか……ロッカクに行った辺りか、農場を作り始めた頃か。
あの頃は忙しかったから、気にしてなかっただけかな、と思っているとどうやらプリットは王都の繋がりが薄いらしく、商人の行き来も少なく王都の噂の伝達は他と比べても遅いらしい。
普段の伝達速度だとワイバーンに襲われた時期ぐらいに伝わるぐらいだったが、あの騒動でうやむやになったんじゃないかとキャンベラが教えてくれた。
俺はワイバーン騒動の時の王国軍とかの無様ぷりを思い出しげんなりしつつ、先程、ゾロさん達が言った捜索という言葉がひっかり一瞬考えたのち弾けるように顔を上げた俺が質問する。
「捜索っていえば、俺の前にやってきたトリルヴィは……!」
「違うわ、彼女は敵じゃないわ。彼女は捜索指示をする巫女のどさくさに紛れさせてバルスがねじ込んだの!」
トリルヴィは第一王子派で、この王国に憂いを感じてる側。だが、キャンベラ達とは敵の敵は味方という薄い繋がりではあるが間に第一王子のバルスが入っている事でかろうじて協力体制を取っているらしい。
巫女は軍に捜索を依頼しているがまったく見当違いな捜索をしているらしい。何せ、裏の情報を押さえているのはキャンベラ達で、しかも、そのキャンベラ達にすらプリットにいる情報屋達は『名もなき英雄』については口が重かったらしいので王国軍に正しい情報が伝わる訳がなかった。
むしろ、誤情報を王国軍に流してるようだ。
うわぁ、情報屋が俺に感謝してるって言ってたけど、元締め相手に反逆と取られかねない危ない橋を渡ってまでやってるとは思ってもなかったな……
あのアヤしさ爆発の情報屋に感謝されるって俺、何したんだろう……
きっといくら聞いても教えてくれなさそうだし、変に突いて今の協力体制を壊すのは馬鹿らしいから諦めよう。
「だから、トリルヴィは初めから俺がそうだと確信を抱いていたのか」
そう呟く俺に頷くキャンベラを見つめながら、トリルヴィと話した内容、そして今、キャンベラ達と話した事を並べて繋ぎ合せていく。
そこから弾き出された答えに俺は頭痛を覚え、額に掌を当てる。
トリルヴィが言った事、そして、ワイバーン騒動の一件をある事が事実だあれば全て繋がると気付いたからだ。
「もしかして巫女が求めているのか……宝玉を?」
「ご明察です。しかも今回のワイバーンの一件で巫女に敵認定を受けました。それは巫女に対抗できる力の持ち主だからでしょう」
なるほど……確かに色々と繋がってきた。情報屋が宝玉の扱いを口が酸っぱくなる程に言ってくる訳だ。
しかし、当初は捜してどうするつもりだったんだろうと思ったので素直に聞いてみた。
「当初はゴブリン神を単独撃破をした英雄として向かい入れ、巫女と協力体制を取り、盤石の態勢にしたかったようです。ゴブリン神の話は冒険者ギルドの横の繋がりで他都市などに電撃的に伝わりましたので王都でも『名もなき英雄』の存在は一人歩きしてましたからね」
だが、今回も名誉も何も求めず、行方を晦ますような存在は金でも地位でも釣れない。しかも、王国軍とのやり取りから味方にするのは無理だろうと判断されたのもあるらしい。
邪魔になるなら始末しよう、てことか……物騒だ。
本気でヤレヤレと思っている俺を見て申し訳なさそうにするキャンベラが言ってくる。
「巫女が現れる前までは私達、第一王子派が優勢でした。もう少しでこの王国を良くするテコ入れが出来るというとこまで来てましたが、巫女が現れ、シズク様の代行者という立場を得て、一気に第二王子派の現状維持を望む者達が盛り返してきて私達は勢力は風前の灯に……」
王国の民のほとんどが第一王子の国を良くする未来を応援してくれていたが、しかし、この国の民は敬虔な創造神の信者が多数で、巫女側へと流れて行って引っ繰り返されたようだ。
宗教ってこえぇ……国を良くしようと頑張ってる人より、神の代弁者と名乗るあやしい存在を信じる、か……
「成果、結果のあるなしの差もあるんだろうな」
「その通りです。バルスは現状、成果もありませんので理想を謳ってるだけと取られていますが、巫女は奇跡という形で結果を示していますので……ですが、巫女に匹敵する結果を出した人がもう1人います」
ジッと真っ直ぐに俺を見つめるキャンベラ、嘆息して横目で見るゾロさんは「わかっとるよな?」と言いたげな様子から、はっきりしない俺に苛立ちもあるんだろうな。
はぁ、溜息を零す俺は頭をガリガリと掻く。
「俺って言いたいの?」
「はい、先程も言いましたが王都で『名もなき英雄』様は巫女に匹敵するほど有名です。巫女はシズク様の指示というオブラートはありますがあれこれと要求してるのに、『名もなき英雄』様は何も求めない。シズク様の存在が大きくはあるが無欲、いえ、王都の者に言わせれば正義の使者とも持て囃される存在が第一王子についたと知れ渡ると、きっと王都の民は混乱してどうしていいか分からなくなって足を止める。その時間が欲しいのです」
王国の民を巻き込みたくない、と告げるキャンベラであるが裏稼業の元締めらしくないセリフだなとは思うが相も変わらず嘘探知に引っかからない。
キャンベラの真意は色々気になるところだが、つまるところ、『名もなき英雄』の後ろ盾が欲しい。そして、巫女を押さえて欲しいという事だろう。
考え過ぎて首を捻るが一気に情報が入ってきたから正直、どう答えるのが正解が迷う。
なので素直に現状の想いを伝える事にした。
「言いたい事は分かった。確かに王国軍の様子からあちら側の水は俺には合わないだろう。だが、協力の事は少し考えさせて欲しい。俺には守らなければ……いや、守りたいモノがある」
「……はい、少し残念ですが、色良いご返事をお待ちしております」
キャンベラは口を真一文字に結んで俯くが、すぐに顔を上げて笑みを浮かべる。
色々と思う事はあるんだろうけど強権を発動しないキャンベラ達には好感も抱いたし、俺の人となりを知りたかった理由も分かった。
巫女側に靡くような人物なら致命傷だし、そうだったらワイバーンの素材だけ買って帰してたんだろう。
しかし、最後までキャンベラは嘘を言わなかったな……ゾロさんは孫馬鹿から嘘を混ぜただけでそれ以外ではなかった。
もしかして、キャンベラには詐称スキルはないのか? と疑問に思った俺は確認するとゾロさんのようなスキル値はないがちゃんと詐称スキルなどはあった。
だが、ゾロさんにはなくてキャンベラにある二度見してしまったスキルに気付いた時、俺は元締めらしくない行動をしているキャンベラにちょっと聞いてみたいと思ってた事を思い切って聞いてみた。
「正直、裏稼業の元締めが王子にする協力する領域をオーバーしてると思うんだけど……惚れた弱み?」
そう何でもないんだよ? というスタンスでサラッと聞くと一瞬でキャンベラの顔が真っ赤になる。
「ちちちち、違うだから、アレとはそういう感じじゃない!」
だとか
「そ、そう、これは頼りない弟を心配する姉な感じのねぇ!」
などと色々と捲し立ててくる。
俺はウンウン、優しい視線を向けながら頷きながら聞く。
そして、俺はソッと嘘探知をOFFする。
だって、惚れてるの? って質問してからティーン、ティンって鳴りやまなくて頭が痛くなってきたから。
ちなみにキャンベラのスキルは
キャンベラ Lv19
詐称Lv4 交渉術Lv4 威圧Lv2
ちゃんと詐称スキルあった。だが、俺が注目したのはそんなものではなかった。
ツンデレLv10
ツンデレってスキルなんだ、と初めて知った俺だった。
しかもカンストしているのがツボ。
目をグルグルさせながらも必死に第一王子バルスの事を否定し続けているキャンベラを直視出来ない。
今、見たら噴き出しちゃう!!
まあ、孫馬鹿のゾロさんは面白くないわけだ。
暴走するキャンベラをもう少し眺めていたい気持ちもあったが俺はポンコツになっているキャンベラを放置してゾロさんに別れを告げる。
「ワイバーンの素材は部下に受け取るように指示してある。金は査定後、届ける」
「有難うございます。では、失礼します」
そう言って退出してドアを閉めるが、俺がいなくなってる事に気付いてないらしいキャンベラが必死に言い訳する声がまだ響いていた。
尊い。
俺は先程よりも前向きにキャンベラの願いを聞いてあげたいと思いながら外へと出る道を歩き始めた。
43
お気に入りに追加
2,739
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした
宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。
聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。
「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」
イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。
「……どうしたんだ、イリス?」
アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。
だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。
そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。
「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」
女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜
猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。
ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。
そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。
それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。
ただし、スキルは選べず運のみが頼り。
しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。
それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・
そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる