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4章 求められる英雄、欲しない英雄

53話 時間との勝負だと男は眉を顰める

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 ターニャとパメラを小脇に抱えて飛ぶ俺はワイバーンの住処から外れたルートを進んでいた。

「ん? シーナ、行き先間違ってない? こっちは逃走中の王国軍……助けてあげるの?」
「まあ、結果的にそうなるのかな? でも同時に人を殺める事にもなるかもしれない」
「そういう事か……シーナが気に病む事はない。職業軍人は命を奪う覚悟も奪われる覚悟も持ち合わせている者だからな」

 俺の心を労わるような視線を向けるパメラに苦笑いを浮かべる。

 どうやらターニャは理解出来なかったようだが、別におかしくはない。あれだけの情報でパメラが理解した方が凄く、それは警備隊仕込みからくるものだろう。

 聞いてる情報とした行動結果から考えて、口で言って分かる相手だとは思えないんだよな……

 そうじゃなければ穏便な手も使えるんだが……

 ないものねだりをしてもしょうがない、と言い聞かせていると王国軍を追いかけているワイバーン3匹を発見した。

 俺は更に加速してワイバーンの頭上を取る位置に来るとターニャとパメラを交互に見つめ、仮面を被ってるのを確認する。

「いくぞ」
「ウチの準備は万端だよ!」
「いつでもいいぞ」

 頷く2人を空中で手放す。

 ターニャは空中を跳ねるようにして1匹のワイバーンの背に飛び乗り、右拳を振り上げて叩きつける。

 叩きつけられたワイバーンは悲鳴を上げながら地面に叩き付けれて土煙が上がった。

 パメラは腰にある剣を抜くとターニャとは別のワイバーンの両翼に斬りつけ、羽ばたけなくさせて地面に叩き落とす。

 落ちたワイバーンを睨み、パメラは剣から槍に持ちかえて身構えながら睨みつけていた。

 残る一匹は王国軍に迫り、ワイバーンの餌食かと思われたところで俺が蹴り飛ばして難を逃れさせる。

 命拾いした事に気付いた王国軍は信じられないと言いたげに呆けながら見つめた。

 ターニャが相手にしているワイバーンはサンドバック状態で反撃も防御も出来ない状態で殴る蹴るされ、下顎を蹴り上げて上空に飛ばすと空を駆けながら追撃されていた。

 もう一方のパメラは空が飛べなくなったワイバーンに一切の油断を見せずに、槍での連続突きで確実に削っていく。
 反撃の間を与えずに攻撃をして身を固めているワイバーンの守りの城壁にヒビを入れていく。

 2人の活躍を見ていた王国軍のテンションが一気に上がる。

「誰だ、あの3人は?」
「誰だろうが構わん! ワイバーンは弱ってきている、今が好機だ。ワイバーンの素材を持って帰れば面目も立つ!」

 うおおおぉぉぉ!!!

 何が、うおおおぉぉぉ!!! なんだ?

 さっきまで死ぬぅ、って逃げ惑ってたのに好機とか片腹痛しだよな。しかも、倒そうとしてるのターニャ達なのに、素材をお持ち帰りを当然の権利だと思い込んでる……アホか。

 呆れる俺だが「突撃ぃ!!」と叫ぶ指揮官が言うのに合わせて、王国軍の先頭の目の前5m程のところに土魔法で地割れを起こす。

「うわぁぁ、止まれ止まれ!!」

 突然、生まれた20mはありそうな地面の裂け目に気付いて先頭で指揮官が命令を飛ばすが、後ろから押してくる力が止まり切らず、その指揮官だけが弾かれるようにして地割れに吸い込まれるように消えた。

 むぅ、交渉の為に指揮官を始末するつもりはあったんだが……必要なかったな

 千単位いそうな王国軍であったが、今の出来事で不運にも落ちていったのは指揮官だけだったようだ。

 王国軍は指揮官を失ってどうしたらいいか分からなくなったようで、ざわざわと騒ぎ始める。

「ええぃぃい! し、しっかりせんか、我等は王命で動いている、やるべき事は変わらん……ひっ!」

 おそらく、さっき落ちた指揮官の次に偉いオッサンが叫んで叱咤するが、俺の背後を見て短く悲鳴を上げる。

 情けないオッサンだな……空飛ぶトカゲが俺の背後にやってきてるだけだろ?

 俺の背後にやってきているワイバーンが隙だらけな俺を襲おうと一気に距離を詰めてくる。

 来るタイミングが分かっているテレホンパンチなワイバーンの動きに合わせて、振り返らずに剣を頭上に振り上げる。

 振り上げた先にあったワイバーンの首は両断され、ワイバーンの頭が地面に落ちる前に俺は噴き出す血がかからないようにピョンと前に飛んで避けた。

 剣を仕舞う俺とその背後のワイバーンとの勝負を終えたターニャ達を見て、引き攣った笑みを浮かべるオッサンが話しかけてくる。

「良くやった。そのワイバーンの素材は置いて消えろ、いや、このままワイバーンの住処に向かう供をする事を許そう!」

 一生懸命に虚勢を張ろうと胸を張っているのが分かるが、余りに馬鹿馬鹿しい。

 お前達が勝てないワイバーンに勝つ相手をどうして目上から命令出来ると思うんだろう?

 反応を見せない俺達に業を煮やしたオッサンが唾を飛ばして叫ぶ。

「き、貴様等ぁ! 使ってやろうという私の慈悲が分からんのか、おい、聞いておるのかあああぁぁぁぁぁ」

 俺は途中で聞いてるのもウンザリし始めたので、土魔法でオッサンの足下を隆起させて吹き飛ばす。

 話の途中で吹き飛ばされたオッサンの叫び声が遠くなっていき、近くにあった池か沼に落ちたらしく水柱が上がったのが見える。

 悪運が強ければ生きてるだろ。

 俺はオッサンから目の前にいるガクブルしている王国軍に目を向ける。

「もう訳が分からない事を言う奴はいないな?」

 大きな声を出してる訳じゃないのに何千といる兵士達には届いたようでガックンガックンと頷く。

 俺の声より、頷く時に発生してる音の方が大きいな、さすが何千人いるもんな。

 それを見て、パチンと指を鳴らす。

 すると、何千という王国軍を覆うドーム状の土壁が生まれた。

 3時間で壊れるけど、一応、通気口も作っとくか。

 震えあがってくれてたから一網打尽が簡単だったけど、中途半端にやる気になる奴がいなくてこちらとしては助かったな。

 俺達が倒したワイバーンをポシェットに収納し終えるとターニャ達に振り返る。

「行こうか」
「いいの? あの兵隊さんに口止め、あんまり気が進まないけど口封じとかしなくても?」

 困った顔をしたターニャがそう言ってきた。

 確かにターニャの言いたい事は分かる。

 ここで起きた事をペラペラと喋られるのは、はっきりと言ってマイナスだ。だが、軍属である者達に部外者が緘口令を敷くのは無理がある。それが1,2人なら可能だろうが数千の軍に実質不可能であろう。

 かと言って、数千の兵を始末してしまったら王国軍とて退けなくなり、俺達VS王国という図式になるのは避けられない。

 今のところ、王国は限りなく黒だが、あくまで想像での状況証拠しかない。

 正直、王国を敵に回すのはアリでも、プリットの人達を敵に回すのは絶対に避けたいというのが俺の本音だ。

 ならば、どうすべきかというと……

「軍というのは情報ありきで動く。今いる兵が戻らなければ、しばらくはアクションを動かさないだろう。仮に早い段階で状況を探る目的の兵を出してたとして、この状況を見たら報告に戻る時間が発生する。つまり、時間稼ぎが狙いだろう、シーナ」
「ああ、本当はターニャの言ってる方法が手っ取り早いんだが、王国軍が動く理由を潰す。それが出来るだけの時間稼ぎさえ出来ればいい」

 勿論、倒すだけでなく、倒したワイバーンを全部回収してしまえば、欲していた物は王国の手元にはいかない。

 仮に俺が疑わしいと思ったところで、知らぬ存ぜぬを通されたら証明する術もなく、力押しも出来ない俺に強硬手段に出る事が出来ないのだから。

 まあ、してきたら全力で叩き潰すしかない。

 王国にそれぐらいは頭が回る奴が居る事を切に願う。

「じゃ、本丸のワイバーンの住処に向かおう」

 頷くターニャとパメラを小脇に抱えて俺は飛び上がり、空を駆けた。
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