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4章 求められる英雄、欲しない英雄

49話 男はパズルの完成予想図を描いて頭痛を覚える

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 俺はチロの店にやってくると店主であるチロは丁度、陳列棚の整理をしているところだったようだ。

 どうやら俺が持ってくるポーションの置き場を作ってくれてたようだ。

「こんにちは、チロ」
「おう、シーナ、いいところにきたな。ポーションを持ってきたんだろ?」

 俺が頷くと丁度、整理をして空いた場所を示してどいてくれたので、少し屈んでポシェットからポーションを取り出して並べていく。

 置き切れない分は預かってもらうか。

 置き終え、そう考えていた俺の右腕にチロが抱き着いてくる。

 上目遣いするチロが人差し指を唇に当て、可愛らしいお尻をフリフリと振ってギュッと更に抱きつく。

 世の娘を持つお父さんがされたら悶死確定の可愛さだ。

 最近、来ると良く抱きつかれるんだが、何かあるんだろうか?

 子供がいない俺でもやられそうな可愛いチロの頭を撫でるとチロは、アレ、想定と違うと言いたげに眉を寄せて、ちょっと泣きそうだ。

「酒場女が男をメロメロにしてたのに……」
「なんか言ったか?」
「何も言ってない! それより補充用のポーションもあるんだろ? 奥に置いておくからこっちにきな」

 可愛らしい頬を膨らませて、プリプリと機嫌が悪いチロがカウンターの向こうへと向かう。

 なんか俺、悪い事したんかな……

 残念な2人であった。


 補充用のポーションを言われる場所に置きながら俺は来る時に聞いた話を振ってみる事にした。

「なぁ、チロ、王国軍が動くかもしれない噂話なんだが……」
「はぁ?」
「知らないか? ダワンダ山脈にあるワイバーンの住処に挑むとかなんとかって話」

 そこまで話すと、ああっ! と手を叩いて分かったようだが、馬鹿馬鹿しいと言いたげに肩を竦められる。

「なんだい、シーナもそんな噂話を信じちゃってる口かい? どうせデマだろ、無駄に巣穴を突いて王国軍に何のメリットもないしね」

 ワイバーンの素材は確かに魅力的なモノが多いらしいが、冒険者なら喉から手が出る程の価値はあるが、国が王国軍を疲弊させてまで得るほどには価値はない。

 しかも、わざわざ沢山いるワイバーンの住処に行くのはどう考えても非効率だとチロは言う。

「まあ、アタイとしてはワイバーンの皮が欲しい。今度、単独のワイバーンの情報があったらシーナ、アタイの為に頑張ってくれない?」

 目をキラキラさせたチロが見上げてくる破壊力に赤面しそうになるのを咳払いをして誤魔化す。

 思わず抱き締めてやりたくなるじゃねぇーか!

「まあ、機会があったらチャレンジだけはな? じゃ、また来るわ」

 手早くポーションを置くとそそくさと出ていこうとする俺にチロは悲しげに言う。

「もうちょっとゆっくりしててもいいじゃねぇーか……」

 本当に上手く噛み合わない2人であった。


 チロの店を後にした俺は冒険者ギルドに向かっていた。

 当面の理由は後承認にして貰っていたマロン達の依頼書のサインが溜まってるのを処理する為にやってきた。

 書類にサインしながら俺はスピアさんにもチロと同じ質問をぶつける。

「あのさ、ダワンダ山脈に王国軍が向かうとかいう噂話知らない?」
「ああ、最近、酒場で噂になってるアレの事かしら?」
「やっぱり噂話自体はあるんだ。その噂は眉唾だったりするんかな?」

 噂話の領域から出ない話なのかと思いかけた俺にスピアさんが周りをキョロキョロと見渡した後、俺の顔に寄せる。

 うむ、吐息がくすぐったいし、どうせならそのプルンとした唇でチューしてくれてもいいんだよ?

 俺はキリッとした顔でスピアさんを見返すと怪訝な顔をされる。

「何、唇を突き出してるのよ。パメラに報告するわよ? そんな事より真面目な話。シーナさんだから言うんだからね?」

 突き出した唇を人差し指で押し戻されながらスピアさんは説明してくれる。

 この噂話の真偽に関してはこれだという証拠はないらしい。だが、王国軍が編成され、斥候がダワンダ山脈付近で目撃された事が噂の出所だろうと教えてくれた。

 冒険者ギルドとしてもその真偽は気になるところで、何せ相手は国なので介入出来る事が少なく、かといってほっとくには余りに近しい場所にいるのでヤキモキしている。

 なので目下、諜報に長けた冒険者を集めて、会議中だとこっそりと教えてくれた。

 なるほど、ただの噂話だと捨て置けないと冒険者ギルドとしては考えているか……

 考え込む俺を心配そうに見つめるスピアさんが言ってくる。

「シーナさん、何でもしようとしなくてもいいんですよ? もう貴方は充分な事を既にしてます。無理に頭を突っ込まなくて……」

 あ、そうか、スピアさんは俺がゴブリン神を倒した事を知ってるんだな……

 噂話とかになってない様子から冒険者ギルド経由の情報じゃないようだし、パメラ経由かもしれない。

 しかも、その話はちゃんとスピアさんで止まっているようで、冒険者ギルドはまだその事実は知らないようだ。

 良い人だ。さすがパメラが友達として仲良くしてるだけはあるよね。

「なあに、俺の大事な人達に影響がないと分かれば、全力で日和見させて貰うさ。でも、スピアさんも良い女だよな、どうだい、俺の嫁にならない?」
「うふふ、お生憎様。私は私だけと言ってくれる人と結婚するの。パメラと一緒にお嫁さんになるのも悪くはないんだけどね」
「そうか、残念だ」

 俺がそう言うと「ほんと、残念ね?」と笑われ、俺も苦笑して返した。

 そして、俺は情報屋と会う為に、スピアさんに別れを告げて冒険者ギルドを後にした。


 前と同じ場所に行くと情報屋はいて、向こうが俺に気付くとバツ悪そうな顔をしながら手を上げてくる。

 近くにくると申し訳なさそうに頭を激しく掻き、フケが零れ落ちる。

「すまない。まだたいした情報がない。どういう訳か、やたらと厳重になってるんでな」
「そうか、確かに欲しい情報だが、慌てて駄目になったら目を当てられないから焦らず頼む」
「そう言ってくれると情けないが助かる。たいした情報じゃないが、あの女の弟の行方も分からなくなっている。噂じゃ、体を壊してるという話だから、旅に出たとかはないと思うんだがな」

 俺はそうかとは言ったが、情報屋は本当に難航しているようで、本当に悔しそうで本来ならオマケで伝えるぐらいの情報を口にする事を苦痛に感じているようだ。

 しかし、さっき俺が言った言葉は本心で焦らずにお願いしたい。

「それで今日は進捗状況を聞きに来ただけか?」
「いや、ちょっと知ってたら欲しい情報があってね」

 俺は今日、3度目になる質問、ダワンダ山脈の一件を説明する。

 そして、王国軍が動いている情報自体は本当にあるという説明をし終えると頷いた情報屋が口を開く。

「そこまで知ってるなら話は早いな。その根も葉もない噂は残念ながら全部本当の話だ」
「マジか!?」

 驚く俺に情報屋は頷く。

 噂話通り、王国軍が全部動く訳ではないらしい。そして、あの露店の店主が言うように今回の討伐に割かれる王国軍では遂行が出来ないだろうというのは、情報屋達の間でも同じ見解のようだ。

 国は本気の馬鹿なのか? それとも何か追い詰められたりしてるのか?

「王国軍の狙いはワイバーンの住処にいるワイバーンの主の体内あるとされる宝玉だ」
「宝玉?」

 竜種のなかで長生きした個体の体内で魔力が凝縮されて宝玉が作られる。

 ワイバーンは空飛ぶトカゲとドラゴンと比べてそう評される事があるが、長生きをするとドラゴンと同じように宝玉を生みだす。

 勿論、ドラゴンと比べると込められた魔力と比べられたものではないが、それでも破格な力と価値があるそうだ。

 だから、本当はドラゴンのが欲しいが、それこそ全軍でどうにかなるかという瀬戸際なのでワイバーンをという事だ。

「王国はそんな宝玉を手にしてどうする気なんだ?」
「心当たりは腐るほどあって特定が難しいな。それだけ宝玉の力は別格なんでな」

 本気で面倒そうな事になってきてるな……

 俺は嫁とイチャイチャしながら、美味しいご飯をみんなで囲んで食べて、シズクを迎えに行くという念密な計画があって忙しいのに!

 だが、厄介事が俺を阻んで上手くいかなくて溜息を零す。

「まだ続きがある。アンタのところに来てるだろ?」
「何の話だ?」
「王国から派遣されたトリルヴィって見た目がガキ臭い女だよ」

 来てる、と告げながら、あの時に感じてた厄介事が形になりそうで眉を寄せながら答える。

 すると、情報屋は御愁傷様、と言いたげに俺を憐れむような目で見つめた。

「ゴブリン神を単独で倒した冒険者がいるかもしれないという噂を確認しに来てただろ? 何故だとは思わなかったか? ゴブリン神は一軍を相手に出来ると言われていて、それを上回った男を下手に刺激して藪を突いて蛇、って具合になる恐れがあったのに、何故、捜しに来たんだろうな?」

 俺を見つめる情報屋は『男』と言った。どうやら最低、国が知っているレベルの情報は知っているようだ。
 しかも、国は分からないが情報屋は俺がそうであると疑っているのではなく、確信しているようだ。

 少し警戒心が出たらしく、それを感じ取った情報屋が肩を竦める。

「安心は出来ないだろうが、俺達、プリットの情報屋達も英雄には感謝している。やり口も本当に英雄と称されるべき行動を取り、名誉も求めてない。その本物の英雄の事を相手が国だろうが誰だろうか売らないと満場一致で決まっている」

 情報を売るのが情報屋の誇りだが、情報屋達はまた1人の人間で、良くも悪くも、しがらみがある。

 その失いたくないモノを守ってくれた相手に唾は吐けないと説明してくれた。
 
「……きっとその英雄さんが聞いたら感謝しただろうさ。それはともかく、王国が派遣している理由ってのは……」
「ああ、一軍を相手を単独で撃破する冒険者を発見して協力を得れば、ワイバーンの住処に挑むリスクが激減すると考えたようだ」

 嫌な予感がバッチリ当たって俺は思わず舌打ちをしてしまった。
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