35 / 80
3章 白いアレを求めて三千里
33話 それいけ、ダ○シュ村と男は心で思う
しおりを挟む
宿へと向かって走る俺は、壊血病の事を必死に思い出していた。
えーと、確か、船乗りゲームで壊血病の事を見て、調べた時の知識だとビタミンCが足らなくなるとなる病気だったか?
それを10日間ぐらい時間をかけて与えて安静にしてたらいいんだっけ?
となると、さっき買った柑橘系の果物をジュースにすれば摂取しやすいな。
漸く、宿に着くと俺達の部屋に駆け込む。
2人をベッドに寝かせるとターニャが部屋に入ってくる。
「今、沸かし始めたからもうちょっと時間がかかるよ」
「有難う。それを待っている間にこれをジュースにしておいてくれるか?」
ポシェットから露店で買った柑橘系の果物をターニャに手渡す。
「ジュースにしてどうするの? お腹に溜まらないけど」
「子供達に飲ませるんだ。罹ってる病気に必要な栄養だから」
「ウチ達だったらそれでいいけど、子供には酸味が強過ぎて飲めないんじゃない? 水で薄めたら多少マシだと思うけど」
さすがターニャ、宿屋で食堂で飯を出してるモノの経験値が違う。
確かに、子供に柑橘系の酸っぱい飲みモノを飲ませようとしたら、もどしそうになるかもしれない。
しかも、あの様子では食事もまともに取れてなく、胃が弱ってそうだから無理そうだ。
「さすがターニャだ。もうひとっ走りして甘味の強い果物を買ってくる。それとルイーダさんを連れて3人が帰ったら、白湯を飲ませた後、これを食べさせておいて」
更にポシェットからマロンの負の遺産、屋台で買い過ぎたものをテーブルに置く。
まあ、消化に悪いモノもあるだろうけど、ターニャならマシなのを選んでくれるだろう。
「分かった、後はウチに任せておいて」
「ああ、頼んだ!」
そう言って宿から再び、飛びだして、途中でマロン達とも会ったが手を上げただけで走り抜ける。
先程、買ったおばちゃんの露店に駆け込む。
「おやおや、どうしたんだい、コメを買いに行ったんじゃないのかい?」
「それは後回し! それより、ジュースに出来そうな甘みが強い果物はあるかい?」
「それだったら、これとこれかね?」
そう言った果物をナイフで切ってくれて試食させてくれる。
うん、最初のは桃みたいなのだな……2つ目のはバナナぽい。
「うん、これでいい。包んでくれる?」
「あいよ、毎度あり」
果物を包んで貰い、代金を払うとおばちゃんに手を振って、宿へと走り出した。
しかし、桃はまだいいけど、バナナはジュース状にするのは難しいな……
分かってるよな? ちゃんと伝わってるよな!
かむひあ~ スキル製造機ぃぃ!!
ピコン
風魔法
分かってるやん! それと魔力制御のある俺なら出来るはずだ!
しかし、スキル製造機って女が絡むとえらく俺に協力的な気がする……お前、実は♂だろ?
『……』
いつもお得意のダンマリを決めるスキル製造機。
ちっ、都合が悪くなると相変わらず黙りやがる、ってコイツを相手にしてる場合じゃなかった。
「ガキンチョが危ないんだった、急ごう!」
朝市で賑わう人混みを縫うように俺は走り抜けた。
宿に戻ると入口のところでルイーダさんが土下座で出迎えられたりして大変だった。
3人娘に部屋に引きずって連れて行かせて、マロンには体を拭くのを手伝わせて、スイとキャウにお金を預けて、あの親子の服を適当に見繕わせる為に古着屋へと買いに行かせた。
体を拭いても、またあの服を着せたら意味ないからな……体が弱ってる時は衛生状態が大事だしな。
調理場に行くとターニャがビールジョッキ―、一杯分の果汁を用意して待っていてくれた。
「これでいい?」
「充分だ。俺も続きのをサクッとしちまうな」
俺もターニャを習ってビールジョッキ―に桃とバナナをナイフで切り落とし、ターニャが作ってくれた果汁を1/4ほど入れて蓋をする。
ようし、やってやる。
俺は魔力制御で繊細なイメージでジョッキー内で小さな竜巻を発生させる。
ふっふふ、普通ならジョッキーを粉砕したり、内部を切り刻んだりするが魔力制御Lv10が仕事をしてくれる!
それをもうワンセット作り終える。
ガキンチョ達に飲ませるぞ、と俺は部屋に駆け込むと丁度、ルイーダさんが上着を着終えた所であった。
惜しいとか思ってませんよ? せめて、15秒早ければとか思ってないから……
微妙にダメージを受けている俺とターニャで手分けしてガキンチョ達にジュースを飲ませていく。
俺が男の子を担当して、上半身を起こして飲ませようとするが、なかなか上手くいかない。
すると、ルイーダさんが近寄って来て、
「私がやります。慣れてますので」
「あっ、お願いします」
代わるとさすが母親というべきか、上手に飲ませていく。飲んで美味しさを理解した男の子ががっつくが、それをいなして少しずつ飲ませていくのは匠の技であった。
息子にジュースを与えるルイーダさんの様子を見る限り、子供達とは違って大丈夫そうだ。
大人だった分、体力的に耐えれたんだろうな……ルイーダさん、20代前半ぽいしな。
ここで茫然と経過を見ていても仕方がないので、俺は後片付けをする為に下に降りて行った。
まあ、すぐに良くなったりはしないだろうけど……あっ、回復魔法と並行してすれば治りが早いかな? 体の負担を考えてプチヒールぐらいで様子を見るか。
下に行くと宿の店主が居り、俺が「急に調理場を借りて悪かった」と銅貨10枚を握らせると後片付けはしといてくれると言ってくれた。
お言葉に甘えて、残った果汁の入ったジョッキーを持って部屋に戻ろうとしたところで宿の店主に声をかけられる。
「アンタ、あの親子の面倒を見てやる気かい?」
「出来る限りのつもりだけど……職を見つけてあげられたらと思ってる」
「それは難しいだろうな、ここは港町だ。異国な奴等を雇って痛い目に合ってるヤツは腐るほどいる。ここで住む奴等は雇わないと思うぜ?」
どうやら酒場の店主だけのパターンではないようだ。
店主に「健闘祈るぜ」と背中を叩かれて俺は部屋へと戻って行った。
戻ってから、余ったジュースを飲んで騒ぐマロンをチョップしたり、マロンに煽動されたスイとキャウがバナナを買いに飛びだしたりなどがあった。
嵐の如くの出来事を見送って俺は柑橘系の果物だけのジュースをベッドに腰かけるルイーダさんに手渡し、対面の女の子が寝るベッドの端に俺とターニャが腰をかける。
「子供達のと違って酸っぱいでしょうが、ルイーダさんも飲んでおいてください」
「はい、有難うございます」
酸っぱそうにするが、ちびちびと飲んでいるルイーダさんに話しかける。
「飲みながらでいいので、話を聞かせて頂きたいのですが、先程、ルイーダさんが言ってましたがどうして密航などを?」
「はい、実は……」
話を聞くと散々な話であった。
ルイーダさんの国で内乱が起き、そして、トドメと言わんばかりに疫病が蔓延したらしい。
このままいったら、食糧難で死ぬか、疫病になって死ぬかの2択だったので思い切って密航という手段を取ったらしい。
「それで、旦那さんは?」
「主人は内乱で……」
あうち!
気が付かなかったという意味でもだが、ルイーダさんから見えないようにターニャに足を踏まれた。
今のは完全に俺が悪かった。でも悲鳴を上げなかった俺を自分自身で褒めたい。
状況を考えれば、聞かなくても分かりそうなものだったしな。
ゴホンと咳払いをして、俺は話を再開する。
「先程、ちょっと小耳に挟んだんですが、あの酒場に限らず、ロッカク、この港街では異国の人を雇う事を嫌う風習があるようですね」
「はい、どこでも雇ってくれなくて……」
どうしようもなかった、と涙を滲ませて言う様子から限界寸前だったようだ。
隣に座るターニャが俺の太股に手を置いて見つめてくる。
分かってるさ、見捨てたりしないから!
「今日、俺達は隣町、俺達のホームであるプリットに戻ろうと思ってるんですが、ご一緒にどうですか? 向こうであればご紹介出来る仕事もあると思うんですが?」
「本当に良いんですか? 私、何でも頑張ります!」
本当に嬉しかったのか身を乗り出すルイーダに苦笑する俺達。
落ち着いてと告げるターニャが質問する。
「何でもはいいですけど、出来れば得意分野でされたらどうですか? ねっ、シーナ」
「そうですね、お国では何をされてましたか?」
「そ、そうですね、私は農家で畑や田んぼをしてました」
今度は逆に俺が身を乗り出す。
「田んぼですか? 出来るんですか?」
「えっ、は、はい。田んぼが出来る土地と条件さえ揃えれば」
確か、家を建てる為に土地の値段を調べてた時の記憶では、田んぼを作る為の広さを買うととてもじゃないが割に合わない。そのうえ、水路など水を引くのが無理があった。
しかしだ、これが城門の外であれば二束三文で土地は買えるし、しかも城門の周りには川が流れていて、プリットを覆うようにお堀が出来ているぐらいに水を引くのも容易だ。
後は、城門の外であるので安全面だが……
ピコン
結界術
やっぱり、お前ならやると思ったぜ! 相手は色っぽい未亡人の美人さんだからな!
俺の中でスキル製造機は♂でムッツリと確信した!
不敵に笑う俺はサムズアップしてルイーダさんにキラリと歯を輝かして言う。
「その条件、俺が揃えてみせます。俺の為にコメを作ってください! 他にも出来れば作っていきましょう。収穫までは俺が雇う形で給金も払いますから!」
「いいんですか……そんな厚遇して頂いて……」
「いえいえ、むしろ、俺にとっても渡りに船という感じで、コメの安定供給になりますんで!」
申し訳なさそうに、お世話になります、と言ってくるルイーダさんを見て、俺は膝を叩くと立ち上がる。
「じゃ、早速、コメを買いに行きましょう! 食べたいというのもあるけど、種としてもいるから!」
「あっ、売られたコメは手渡す時に精米されたので……種としては……」
駆け出そうとした俺はつんのめってこける。
な、なんだと、俺の幸せ白いご飯計画がぁぁぁ!!
頭を抱えて仰け反る俺にルイーダさんが言う。
「あの~、種籾なら私が少々、持っていますが」
「愛してる、ルイーダさん!」
地獄から天国に引っ張り上げられた俺はルイーダさんに抱きつくと顔を真っ赤にして「私は主人に……」と言われて、ターニャに拳骨で止められる。
「シーナ、反省!」
「ごめんなさい、あんまりに嬉しかったんで」
ルイーダさんに土下座して謝ったら、涙目にはなっていたが何とか許して貰えた。
危ない、勢いだけで生きるのは不味いな……ちょっと自制しよう。
出来るか分からない自制を胸に改めて立ち上がり、出かけようとする。
「収穫まで時間かかるから、コメを売って貰いに行こう」
「あの……重ねて申し上げにくいのですが、精米されてから2週間は経ってますし、この湿気の多い港町で管理状態が悪ければ……腐ってるかも?」
その言葉を聞いた瞬間、俺はルイーダさんをお姫様抱っこする。
キャッと可愛らしい声を上げるルイーダさんを相手にせずにターニャに言う。
「急いで行ってルイーダさんに確認して貰う!」
「シーナっ! まったく反省してない!」
宿を飛びだした俺をターニャが追いかけてくるが俺は止まれない。
だって、俺がコメを食えるかの死活問題だから!
怒っているターニャに追いかけられながらも俺は露店のおばちゃんに教えて貰った店へと駆けて行った。
店に行ったら確かに在庫はあった。(ちなみに、到着してルイーダさんを下ろしたところでターニャに殴られた)
しかし、ルイーダさんの危惧通り、管理状態が悪くて酷い有様であったが、ルイーダさんの目利きでは2袋だけ無事だったようで、泣き崩れる店主が可哀想だったので値引き交渉をせずに1袋、定価の銅貨50枚で買い取った。
買ったはいいが、ルイーダさん曰く、その2袋も長くはもたないらしい。
まあ、ポシェットに仕舞って必要量だけ取り出せば問題ないだろう。腐らないしな。
色々とバタバタとしたが、俺達は馬車を用意して子供達が寝られるように微改造してロッカクの街を後にする。
プリットに戻ったら土地の買い取りなど忙しくなるな、と思いつつ、馬車を走らせた。
ロッカクでの収拾してポシェットに仕舞われてるもの
○コメ 2袋
○パメラへお土産 (桃の蜂蜜漬け)
○バナナ いっぱい
えーと、確か、船乗りゲームで壊血病の事を見て、調べた時の知識だとビタミンCが足らなくなるとなる病気だったか?
それを10日間ぐらい時間をかけて与えて安静にしてたらいいんだっけ?
となると、さっき買った柑橘系の果物をジュースにすれば摂取しやすいな。
漸く、宿に着くと俺達の部屋に駆け込む。
2人をベッドに寝かせるとターニャが部屋に入ってくる。
「今、沸かし始めたからもうちょっと時間がかかるよ」
「有難う。それを待っている間にこれをジュースにしておいてくれるか?」
ポシェットから露店で買った柑橘系の果物をターニャに手渡す。
「ジュースにしてどうするの? お腹に溜まらないけど」
「子供達に飲ませるんだ。罹ってる病気に必要な栄養だから」
「ウチ達だったらそれでいいけど、子供には酸味が強過ぎて飲めないんじゃない? 水で薄めたら多少マシだと思うけど」
さすがターニャ、宿屋で食堂で飯を出してるモノの経験値が違う。
確かに、子供に柑橘系の酸っぱい飲みモノを飲ませようとしたら、もどしそうになるかもしれない。
しかも、あの様子では食事もまともに取れてなく、胃が弱ってそうだから無理そうだ。
「さすがターニャだ。もうひとっ走りして甘味の強い果物を買ってくる。それとルイーダさんを連れて3人が帰ったら、白湯を飲ませた後、これを食べさせておいて」
更にポシェットからマロンの負の遺産、屋台で買い過ぎたものをテーブルに置く。
まあ、消化に悪いモノもあるだろうけど、ターニャならマシなのを選んでくれるだろう。
「分かった、後はウチに任せておいて」
「ああ、頼んだ!」
そう言って宿から再び、飛びだして、途中でマロン達とも会ったが手を上げただけで走り抜ける。
先程、買ったおばちゃんの露店に駆け込む。
「おやおや、どうしたんだい、コメを買いに行ったんじゃないのかい?」
「それは後回し! それより、ジュースに出来そうな甘みが強い果物はあるかい?」
「それだったら、これとこれかね?」
そう言った果物をナイフで切ってくれて試食させてくれる。
うん、最初のは桃みたいなのだな……2つ目のはバナナぽい。
「うん、これでいい。包んでくれる?」
「あいよ、毎度あり」
果物を包んで貰い、代金を払うとおばちゃんに手を振って、宿へと走り出した。
しかし、桃はまだいいけど、バナナはジュース状にするのは難しいな……
分かってるよな? ちゃんと伝わってるよな!
かむひあ~ スキル製造機ぃぃ!!
ピコン
風魔法
分かってるやん! それと魔力制御のある俺なら出来るはずだ!
しかし、スキル製造機って女が絡むとえらく俺に協力的な気がする……お前、実は♂だろ?
『……』
いつもお得意のダンマリを決めるスキル製造機。
ちっ、都合が悪くなると相変わらず黙りやがる、ってコイツを相手にしてる場合じゃなかった。
「ガキンチョが危ないんだった、急ごう!」
朝市で賑わう人混みを縫うように俺は走り抜けた。
宿に戻ると入口のところでルイーダさんが土下座で出迎えられたりして大変だった。
3人娘に部屋に引きずって連れて行かせて、マロンには体を拭くのを手伝わせて、スイとキャウにお金を預けて、あの親子の服を適当に見繕わせる為に古着屋へと買いに行かせた。
体を拭いても、またあの服を着せたら意味ないからな……体が弱ってる時は衛生状態が大事だしな。
調理場に行くとターニャがビールジョッキ―、一杯分の果汁を用意して待っていてくれた。
「これでいい?」
「充分だ。俺も続きのをサクッとしちまうな」
俺もターニャを習ってビールジョッキ―に桃とバナナをナイフで切り落とし、ターニャが作ってくれた果汁を1/4ほど入れて蓋をする。
ようし、やってやる。
俺は魔力制御で繊細なイメージでジョッキー内で小さな竜巻を発生させる。
ふっふふ、普通ならジョッキーを粉砕したり、内部を切り刻んだりするが魔力制御Lv10が仕事をしてくれる!
それをもうワンセット作り終える。
ガキンチョ達に飲ませるぞ、と俺は部屋に駆け込むと丁度、ルイーダさんが上着を着終えた所であった。
惜しいとか思ってませんよ? せめて、15秒早ければとか思ってないから……
微妙にダメージを受けている俺とターニャで手分けしてガキンチョ達にジュースを飲ませていく。
俺が男の子を担当して、上半身を起こして飲ませようとするが、なかなか上手くいかない。
すると、ルイーダさんが近寄って来て、
「私がやります。慣れてますので」
「あっ、お願いします」
代わるとさすが母親というべきか、上手に飲ませていく。飲んで美味しさを理解した男の子ががっつくが、それをいなして少しずつ飲ませていくのは匠の技であった。
息子にジュースを与えるルイーダさんの様子を見る限り、子供達とは違って大丈夫そうだ。
大人だった分、体力的に耐えれたんだろうな……ルイーダさん、20代前半ぽいしな。
ここで茫然と経過を見ていても仕方がないので、俺は後片付けをする為に下に降りて行った。
まあ、すぐに良くなったりはしないだろうけど……あっ、回復魔法と並行してすれば治りが早いかな? 体の負担を考えてプチヒールぐらいで様子を見るか。
下に行くと宿の店主が居り、俺が「急に調理場を借りて悪かった」と銅貨10枚を握らせると後片付けはしといてくれると言ってくれた。
お言葉に甘えて、残った果汁の入ったジョッキーを持って部屋に戻ろうとしたところで宿の店主に声をかけられる。
「アンタ、あの親子の面倒を見てやる気かい?」
「出来る限りのつもりだけど……職を見つけてあげられたらと思ってる」
「それは難しいだろうな、ここは港町だ。異国な奴等を雇って痛い目に合ってるヤツは腐るほどいる。ここで住む奴等は雇わないと思うぜ?」
どうやら酒場の店主だけのパターンではないようだ。
店主に「健闘祈るぜ」と背中を叩かれて俺は部屋へと戻って行った。
戻ってから、余ったジュースを飲んで騒ぐマロンをチョップしたり、マロンに煽動されたスイとキャウがバナナを買いに飛びだしたりなどがあった。
嵐の如くの出来事を見送って俺は柑橘系の果物だけのジュースをベッドに腰かけるルイーダさんに手渡し、対面の女の子が寝るベッドの端に俺とターニャが腰をかける。
「子供達のと違って酸っぱいでしょうが、ルイーダさんも飲んでおいてください」
「はい、有難うございます」
酸っぱそうにするが、ちびちびと飲んでいるルイーダさんに話しかける。
「飲みながらでいいので、話を聞かせて頂きたいのですが、先程、ルイーダさんが言ってましたがどうして密航などを?」
「はい、実は……」
話を聞くと散々な話であった。
ルイーダさんの国で内乱が起き、そして、トドメと言わんばかりに疫病が蔓延したらしい。
このままいったら、食糧難で死ぬか、疫病になって死ぬかの2択だったので思い切って密航という手段を取ったらしい。
「それで、旦那さんは?」
「主人は内乱で……」
あうち!
気が付かなかったという意味でもだが、ルイーダさんから見えないようにターニャに足を踏まれた。
今のは完全に俺が悪かった。でも悲鳴を上げなかった俺を自分自身で褒めたい。
状況を考えれば、聞かなくても分かりそうなものだったしな。
ゴホンと咳払いをして、俺は話を再開する。
「先程、ちょっと小耳に挟んだんですが、あの酒場に限らず、ロッカク、この港街では異国の人を雇う事を嫌う風習があるようですね」
「はい、どこでも雇ってくれなくて……」
どうしようもなかった、と涙を滲ませて言う様子から限界寸前だったようだ。
隣に座るターニャが俺の太股に手を置いて見つめてくる。
分かってるさ、見捨てたりしないから!
「今日、俺達は隣町、俺達のホームであるプリットに戻ろうと思ってるんですが、ご一緒にどうですか? 向こうであればご紹介出来る仕事もあると思うんですが?」
「本当に良いんですか? 私、何でも頑張ります!」
本当に嬉しかったのか身を乗り出すルイーダに苦笑する俺達。
落ち着いてと告げるターニャが質問する。
「何でもはいいですけど、出来れば得意分野でされたらどうですか? ねっ、シーナ」
「そうですね、お国では何をされてましたか?」
「そ、そうですね、私は農家で畑や田んぼをしてました」
今度は逆に俺が身を乗り出す。
「田んぼですか? 出来るんですか?」
「えっ、は、はい。田んぼが出来る土地と条件さえ揃えれば」
確か、家を建てる為に土地の値段を調べてた時の記憶では、田んぼを作る為の広さを買うととてもじゃないが割に合わない。そのうえ、水路など水を引くのが無理があった。
しかしだ、これが城門の外であれば二束三文で土地は買えるし、しかも城門の周りには川が流れていて、プリットを覆うようにお堀が出来ているぐらいに水を引くのも容易だ。
後は、城門の外であるので安全面だが……
ピコン
結界術
やっぱり、お前ならやると思ったぜ! 相手は色っぽい未亡人の美人さんだからな!
俺の中でスキル製造機は♂でムッツリと確信した!
不敵に笑う俺はサムズアップしてルイーダさんにキラリと歯を輝かして言う。
「その条件、俺が揃えてみせます。俺の為にコメを作ってください! 他にも出来れば作っていきましょう。収穫までは俺が雇う形で給金も払いますから!」
「いいんですか……そんな厚遇して頂いて……」
「いえいえ、むしろ、俺にとっても渡りに船という感じで、コメの安定供給になりますんで!」
申し訳なさそうに、お世話になります、と言ってくるルイーダさんを見て、俺は膝を叩くと立ち上がる。
「じゃ、早速、コメを買いに行きましょう! 食べたいというのもあるけど、種としてもいるから!」
「あっ、売られたコメは手渡す時に精米されたので……種としては……」
駆け出そうとした俺はつんのめってこける。
な、なんだと、俺の幸せ白いご飯計画がぁぁぁ!!
頭を抱えて仰け反る俺にルイーダさんが言う。
「あの~、種籾なら私が少々、持っていますが」
「愛してる、ルイーダさん!」
地獄から天国に引っ張り上げられた俺はルイーダさんに抱きつくと顔を真っ赤にして「私は主人に……」と言われて、ターニャに拳骨で止められる。
「シーナ、反省!」
「ごめんなさい、あんまりに嬉しかったんで」
ルイーダさんに土下座して謝ったら、涙目にはなっていたが何とか許して貰えた。
危ない、勢いだけで生きるのは不味いな……ちょっと自制しよう。
出来るか分からない自制を胸に改めて立ち上がり、出かけようとする。
「収穫まで時間かかるから、コメを売って貰いに行こう」
「あの……重ねて申し上げにくいのですが、精米されてから2週間は経ってますし、この湿気の多い港町で管理状態が悪ければ……腐ってるかも?」
その言葉を聞いた瞬間、俺はルイーダさんをお姫様抱っこする。
キャッと可愛らしい声を上げるルイーダさんを相手にせずにターニャに言う。
「急いで行ってルイーダさんに確認して貰う!」
「シーナっ! まったく反省してない!」
宿を飛びだした俺をターニャが追いかけてくるが俺は止まれない。
だって、俺がコメを食えるかの死活問題だから!
怒っているターニャに追いかけられながらも俺は露店のおばちゃんに教えて貰った店へと駆けて行った。
店に行ったら確かに在庫はあった。(ちなみに、到着してルイーダさんを下ろしたところでターニャに殴られた)
しかし、ルイーダさんの危惧通り、管理状態が悪くて酷い有様であったが、ルイーダさんの目利きでは2袋だけ無事だったようで、泣き崩れる店主が可哀想だったので値引き交渉をせずに1袋、定価の銅貨50枚で買い取った。
買ったはいいが、ルイーダさん曰く、その2袋も長くはもたないらしい。
まあ、ポシェットに仕舞って必要量だけ取り出せば問題ないだろう。腐らないしな。
色々とバタバタとしたが、俺達は馬車を用意して子供達が寝られるように微改造してロッカクの街を後にする。
プリットに戻ったら土地の買い取りなど忙しくなるな、と思いつつ、馬車を走らせた。
ロッカクでの収拾してポシェットに仕舞われてるもの
○コメ 2袋
○パメラへお土産 (桃の蜂蜜漬け)
○バナナ いっぱい
12
お気に入りに追加
2,735
あなたにおすすめの小説
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
異界の錬金術士
ヘロー天気
ファンタジー
働きながら大学に通う、貧乏学生のキミカ。ある日突然、異世界トリップしてしまった彼女は、それと同時に、ちょっと変わった能力をゲットする。なんと念じるだけで、地面から金銀財宝が湧き出てくるのだ! その力は、キミカの周囲に富をもたらしていく。結果、なんと王様に興味を持たれてしまった! 王都に呼び出されたキミカは、丁重にもてなされ、三人のイケメン護衛までつけられる。けれど彼らを含め、貴族たちには色々思惑があるようで……。この能力が引き寄せるのは、金銀財宝だけじゃない!? トラブル満載、貧乏女子のおかしな異世界ファンタジー!
解体の勇者の成り上がり冒険譚
無謀突撃娘
ファンタジー
旧題:異世界から呼ばれた勇者はパーティから追放される
とあるところに勇者6人のパーティがいました
剛剣の勇者
静寂の勇者
城砦の勇者
火炎の勇者
御門の勇者
解体の勇者
最後の解体の勇者は訳の分からない神様に呼ばれてこの世界へと来た者であり取り立てて特徴らしき特徴などありません。ただひたすら倒したモンスターを解体するだけしかしません。料理などをするのも彼だけです。
ある日パーティ全員からパーティへの永久追放を受けてしまい勇者の称号も失い一人ギルドに戻り最初からの出直しをします
本人はまったく気づいていませんでしたが他の勇者などちょっとばかり煽てられている頭馬鹿なだけの非常に残念な類なだけでした
そして彼を追い出したことがいかに愚かであるのかを後になって気が付くことになります
そしてユウキと呼ばれるこの人物はまったく自覚がありませんが様々な方面の超重要人物が自らが頭を下げてまでも、いくら大金を支払っても、いくらでも高待遇を約束してまでも傍におきたいと断言するほどの人物なのです。
そうして彼は自分の力で前を歩きだす。
祝!書籍化!
感無量です。今後とも応援よろしくお願いします。
デーモンズブラッド - 「自己再生」と「魔力強奪」で成り上がり -
花京院 光
ファンタジー
魔物が巣食う世界で村人として平和な暮らしを送っていた十五歳のクラウス。ある日、幻獣のデーモンが無数の魔物を従えて村を襲撃し、クラウスと妹のエルザを襲う。熟練の冒険者でも討伐隊を組まなければ倒す事の出来ないデーモンに対し、クラウスは妹や村人達を守るために勝負を挑んだ。クラウスはデーモンとの戦いに敗れたが、「自己再生」と「魔力強奪」という悪魔の力を得た。これはデーモンに復讐を誓った主人公が剣と魔法を学び、チート級の能力に慢心せず、努力を積んで成り上がる物語です。
毎週水曜、土曜十二時に更新予定。
【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました
桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて…
小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。
この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。
そして小さな治療院で働く普通の女性だ。
ただ普通ではなかったのは「性欲」
前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは…
その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。
こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。
もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。
特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる