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第一章 旅スタートタスート編

閑話 兄の脳内独白〜私の妹は天使です〜

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私が5歳の時でした。天使が現れたのは。

白銀の糸のような髪に、サファイアの煌めきを丸ごと閉じ込めたような眼をもった子が私の妹になってくれたのです。創造神様の最高傑作だと私は今でも信じています。


私の父は踊り子だった母と結婚するほど自分を貫くのがお好きな人だったので、家にはあまり帰ってこず、母は父が別の女のところに行っているのではと精神的に不安定だったので私は乳母のマリさんと祖母に育てられました。


マリさんはそんな私が妹を愛せるのかとハラハラしていたと言いますが、マリさんと祖母は愛情たっぷり育ててくれましたし、妹が可愛すぎて意地悪しようとかそんな気持ちは知りませんでした。

両親がいない分よりたくさん妹と触れ合えたと感謝しているくらいです。


妹はこの私に創造神様の絵本を読んでとせがんだり、祖母からお話を聞いたりと創造神様が大好きだったようでした。そして妹は魔法を使うことに関しては天才でした。基礎的な魔法はすぐにできるようになって、1回魔導書さえ読めればほとんどの魔法を使えたのです。魔力量も、世界の中でも特筆して魔力量が多いゼーテ家の中で飛び抜けていたんじゃないでしょうか。


この時も、マリさんは私が妹に嫉妬するんじゃないかと思っていたのですが、私は「まぁこんな可愛い天使に慕われてたら、創造神様もいっぱい才能あげちゃうよね」と納得していたので賞賛しかしなかった覚えがあります。妹は私の誇りです。


私が12歳から15歳ぐらいの時に何人か妹と弟が生まれてましたが、母は私とルシェには会わせようとしませんでした。恐らく別の男性との子なんでしょうね。本当にただれた一族ですよまったく。

社交界に出ないのは高潔を守っているからだと言われますが、不純さを隠してるだけです。


妹は寂しそうにしていましたが、私は妹さえ居れば満足でしたので、会わせないならまぁ会わなくていっかと思ってました。


私が15歳になった頃です。相変わらず両親に放置されて、妹と一緒に勉強をしていた時でした。祖母が倒れました。もう歳でしたし、仕方なかったのですが、ルシェは必死に治癒魔法などの魔導書を読み漁り、祖母の不調を懸命に治そうとしていました。しかし、その2年後に眠るように息を引き取りました。


祖母は頑なにバカ息子である現当主に当主の座を譲らなかったのですが、残念なことに継承されてしまいました。それから割とすぐに当主は重い病気にかかりました。そして現当主はもとから密かに信仰していた邪神の宗教を呼び寄せ、治療させたのです。


私が当主の座を継いでしまうと、母達は立場が悪くなるので、当主が快気したことに安堵していました。そして吸い込まれるように邪神を信仰するようになったのです。愚かですね。妹はそんな家族達を軽蔑の眼差しで見ていました。

私も、もちろん家族に信仰するように言われましたが、正直妹が私にとっての教祖みたいなところがあるので、するすると邪神を躱していました。


ところが、祖母が亡くなって1年後に、当主はゼーテ家一同を初めて食堂に集めました。私はそこで初めて妹以外の兄弟を見ました。それはルシェも同じで、幼い弟達を見て喜んでいました。可愛かったです。


当主はこれからは家族全員で食事をすること、そして食前にはアクージャ様に祈りを捧げることを家族の前で宣言しました。妹は呆然として、「気分が悪い」と言って食堂を後にしました。私も後を追おうとしましたが、悔しいことに私はゼーテ家の次期当主でした。


もし継承権を弟に与えられてしまったら、いよいよゼーテ家は創造神信仰を捨てるでしょう。そうなってしまったら終わりです。

私はゼーテ家のやつらが邪神に祈祷を捧げている間、創造神様に謝罪の祈りを捧げていました。


そして我が愛する妹への冷遇が始まりました。

妹は街に出て人々の生活を見守ったり、たまに無償で医療や祝福を提供することが好きで、よく私も一緒に街に繰り出していたのですが、やつらはその行動を許しませんでした。貴族としてはしたない、という理由で日の当たらない部屋に閉じ込めたりしていました。あの子があまり身長が高くないのはそのせいかも知れません。


それでも妹は街に行くこと、人々を助けることをやめませんでした。天使でしょ?私の妹なんですよ。私は無力で、あからさまに妹を助けることができませんでした。本当に申し訳ないことをしたと思ってます。屋敷の端の部屋に追いやられ、ボロボロになった本を抱えて、泣きながら創造神様に祈りを捧げる妹を思い出すと、自分を殺したくなります。


私にできることは、妹をこの腐った家から逃がすか、私が当主権を奪い取るかの2択でした。逃がす手筈を整え、策をいくつか考えている間、当主達は妹をどう懐柔するか悩んでいました。私はもうやけになって一家を暴力で何とかしようと考えたこともありました。


そんなある日です。メイドがいつものように街に出掛け、戻ってきた妹のことを告げ口するため、私の書斎に入ってきました。私はいつもその報告を受けても聞き流していたのですが、メイドは聞き捨てならない言葉を発しました。

「ルシェ様が小汚い男を連れてきた。」

と。


私は呆気にとられてペンを折ってしまいました。メイドは当主にも報告しようとしていたので、それを全力で食い止め、妹がいるであろう部屋に向かいました。扉に耳を当て、盗聴しました。

「どうぞどうぞ。ルシェがそこまでこの目を追っていたのか知りたいしな。」

「そうですね。私の目的は、偉大なる創造神様の存在を確かめることです。」

この会話を聞き、私は部屋に突撃するのをやめました。妹は、旅にでるのだとハッキリ言ったのです。


私は喜びと心配と疑問で心がぐちゃぐちゃになりました。なぜその小汚い男を連れてきたのかとハラハラしました。とりあえず、円滑に妹が逃げられるようにメイド達やコックなどの使用人を早めに帰らせました。


その夜です。ひっそりと妹たちの跡をつけて、台所で発見したのは。その男の、キヤメさんの目の中の模様を見て納得しました。それは創造神様の…


あぁ、雑音がうるさいですね。実は今記者の質問に答えているのですが、時間を稼ぎたいので考える振りをして私の天使の話を誰かに語る風で脳内再生しています。まったく邪魔しないでいただきたい。

えーと、どこから再生しましたっけ。あぁそうそう。


昔、5歳の時にハッキリと祖母の本で見せてもらった魔法陣を。左目の中にはいっているので、彼が創造神様の…まったくうるさくてダメですね。そろそろ一旦終わりにして、質問に答えてあげましょうか。


そして、妹と彼を台所で逃がしてしまうと、妹の荷物の中に路銀を多少追加すること、行方を誤魔化すことができません。だから夕食に参加してもらって、分かりやすく反旗を翻してもらうことにしました。


妹は思った通り抵抗してくれて、キヤメさんの武力も知ることができました。

彼の持っている剣のこともね。彼になら、安心して妹を任せられます。しかし、妹は私の妹です。妹が安心して家に帰って来られるように、私もそろそろ分かりやすく行動をしようと思います…。


「ショウ様?何をされているのですか?早く犯人の情報を教えてください。先程から回答に時間がかかりすぎですよ。」

「あぁ、失礼。そうですね…。獰猛な顔をしていました。ラウの森に逃げていくのが見えましたよ。ラウの森の…恐らく最深部の方に潜伏するつもりでしょうね。ラウの森を全精力をかけて探してください。ゼーテ家の、いや、私の大切な妹なんですから。」

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