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第十九章 メキシコ戦役
連合艦隊の攻勢
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「ウクライナが落伍か……。このまま手をこまねいている訳には……」
長門は考えていた。どうやら空母達の攻撃は大して成果を挙げていないようである。敵がコメットをどれほど持っているかは分からないが、最悪の場合このまま何もできずに壊滅させられる可能性もある。
「瑞鶴、エンタープライズはどうにかならんのか?」
『無茶言わないでよ。エンタープライズ本体の守りも堅いし、沈めるなんてまず無理よ』
「確認だが、奴の原子炉を攻撃したのだな?」
『ええ。けど特に動きはないわ』
「分かった。これ以上の攻撃は無意味だ、航空艦隊は直ちに全機退け」
船魄化によって受ける恩恵は、どちらかと言えば航空機より砲熕兵装の方が大きい。長門はエンタープライズへの直接攻撃が無意味だと判断した。日ソ艦隊が艦載機を引き上げると、エンタープライズも戦闘機を引っ込めた。
『で、次はどんな手を打つ気なのかしら?』
「これ以上ここに座して敗北を待ってはいられん。全艦隊で打って出る」
『相手の戦艦は二隻しかいないし、押し切れるって判断かしら?』
「うむ。押し切るという形になるだろう」
『数で勝ってるんだから包囲しようとは思わないの?』
「今の陣形を崩せばコメットを迎撃できなくなる。密集陣形は維持し続けなければならない」
『なるほどね』
「そうと決まれば、迅速に動こう。全艦、これより敵艦隊に突入する!! ソビエツキー・ソユーズ、ソビエツカヤ・ウクライナ、ノヴォロシースクを中心にして輪形陣を敷き、突撃する!」
そう宣言すると、ソユーズから通信が飛んでくる。
『同志長門、何故私が護衛されるかのようになっているのだ?』
「お前を護衛するのだ。敵の狙いが貴艦である以上、対空砲火を最も濃密に行える中央にいてくれた方がいい」
『……承知した』
ソユーズは納得して、輪形陣の真ん中に陣取った。もちろん空母達は最初から中央に配置されている。輪形陣の先頭には長門と陸奥が配置され、その横に扶桑と山城、斜め前から側面にかけて重巡や駆逐艦達が並んだ。
「よし。陣形は整ったな。全艦、最大戦速! 敵艦隊を殲滅する!!」
日ソ連合艦隊はついに本格的な攻勢に出たのである。
○
「閣下! 日本艦隊が動き出しました! 全艦隊挙げての総攻撃です!」
「思ったより遅かったな」
「ふふ。ですが閣下、それほどの余裕もないのではありませんか?」
自分自身の危機だというのに、エンタープライズは楽しそうに言った。
「そうだな。こっちの戦艦は数で負けてるし、既に日本軍との戦闘でボロボロだ。それに、コメットの残りは幾らだ?」
「全空母合わせて、残り60機だけです。困りましたね」
「こんだけ撃って、落とせたのは戦艦一隻だけだ。やれて、もう一隻を落とすだけだろうな」
「ええ。普通の爆弾よりは強いですけど、意外と効果は低いですね」
「やっぱり船を沈めるには魚雷ってことか?」
「はい。水の上に出ている部分を幾ら攻撃しても仕方がありませんから」
「どうしたもんかな。ソ連の戦艦をもう一隻退場させれば、それなりにやり合えるとは思うが」
「ええ、そうですね。とっとと使い切ってしまいましょう」
エンタープライズは不敵な笑みを浮かべた。
○
さて、両艦隊の距離はおよそ400km。コメットなら10分で越えられる距離だが、船では8時間ほどかかる。長門が勇ましく突撃を命令してから2時間、エンタープライズは何の攻撃も仕掛けて来ず、辺りは不気味な静寂に包まれていた。
「奴のコメットは尽き果てたのか……。それとも、何かを狙っているのか……」
『こっちから確かめる手段はないわねえ』
陸奥は言う。
「そうだな。だが、戦艦でもないのに、私達を誘き寄せる意味はあるのか?」
『ないわね』
「ならば、やはり使い果たしてと見てもいいのだろうか」
『さあねえ。もしかしたら私達が戦艦と交戦して陣形が崩れるところを狙ってるのかもしれないわ』
「それは……確かに合理的だな。戦艦と撃ち合うのであれば輪形陣を維持することはできない」
戦艦とやり合うなら単縦陣か複縦陣を組むべきだが、どちらも対空戦闘には向いていない。それに空母達は後方で待機することになって、護衛がなくなってしまう。
『そこを狙われたらなかなか痛いと思うわ』
「そうだな……。とは言え、敵を避けて通ることなどできんし……」
『あら、困っちゃった?』
「ああ。だが、事前に気付けてよかったというものだ」
『そう。考えが纏まったら教えて』
「あ、おい。お前も考えろ!」
『えー、私そういうの向いてないわ』
「……それでも長門型戦艦か、お前は」
長門は呆れたように。
『二人っきりなら一緒に考えてあげてもいいわよ』
「どういう条件だ……」
『だって、ソビエツキー・ソユーズとか面倒くさいんだもの』
「お前は……。はあ。まあいいだろう。作戦を考えよう」
長門と陸奥は十数分で作戦を考え直し、そしてソビエツキー・ソユーズに通達した。
『――何? 同志ノヴォロシースクを下がらせろと?』
「うむ。少々危険な作戦になる。脆弱な空母は下がらせておきたいのだ」
『だが同志――』
「下がっていても艦載機は届くだろう。帝国空軍の援護が期待できるユカタン半島周辺まで下がらせてくれ」
『分かった。命令には従おう』
ソユーズはノヴォロシースクを南に下がらせ、残りの艦隊は輪形陣を維持したまま行軍を続ける。
長門は考えていた。どうやら空母達の攻撃は大して成果を挙げていないようである。敵がコメットをどれほど持っているかは分からないが、最悪の場合このまま何もできずに壊滅させられる可能性もある。
「瑞鶴、エンタープライズはどうにかならんのか?」
『無茶言わないでよ。エンタープライズ本体の守りも堅いし、沈めるなんてまず無理よ』
「確認だが、奴の原子炉を攻撃したのだな?」
『ええ。けど特に動きはないわ』
「分かった。これ以上の攻撃は無意味だ、航空艦隊は直ちに全機退け」
船魄化によって受ける恩恵は、どちらかと言えば航空機より砲熕兵装の方が大きい。長門はエンタープライズへの直接攻撃が無意味だと判断した。日ソ艦隊が艦載機を引き上げると、エンタープライズも戦闘機を引っ込めた。
『で、次はどんな手を打つ気なのかしら?』
「これ以上ここに座して敗北を待ってはいられん。全艦隊で打って出る」
『相手の戦艦は二隻しかいないし、押し切れるって判断かしら?』
「うむ。押し切るという形になるだろう」
『数で勝ってるんだから包囲しようとは思わないの?』
「今の陣形を崩せばコメットを迎撃できなくなる。密集陣形は維持し続けなければならない」
『なるほどね』
「そうと決まれば、迅速に動こう。全艦、これより敵艦隊に突入する!! ソビエツキー・ソユーズ、ソビエツカヤ・ウクライナ、ノヴォロシースクを中心にして輪形陣を敷き、突撃する!」
そう宣言すると、ソユーズから通信が飛んでくる。
『同志長門、何故私が護衛されるかのようになっているのだ?』
「お前を護衛するのだ。敵の狙いが貴艦である以上、対空砲火を最も濃密に行える中央にいてくれた方がいい」
『……承知した』
ソユーズは納得して、輪形陣の真ん中に陣取った。もちろん空母達は最初から中央に配置されている。輪形陣の先頭には長門と陸奥が配置され、その横に扶桑と山城、斜め前から側面にかけて重巡や駆逐艦達が並んだ。
「よし。陣形は整ったな。全艦、最大戦速! 敵艦隊を殲滅する!!」
日ソ連合艦隊はついに本格的な攻勢に出たのである。
○
「閣下! 日本艦隊が動き出しました! 全艦隊挙げての総攻撃です!」
「思ったより遅かったな」
「ふふ。ですが閣下、それほどの余裕もないのではありませんか?」
自分自身の危機だというのに、エンタープライズは楽しそうに言った。
「そうだな。こっちの戦艦は数で負けてるし、既に日本軍との戦闘でボロボロだ。それに、コメットの残りは幾らだ?」
「全空母合わせて、残り60機だけです。困りましたね」
「こんだけ撃って、落とせたのは戦艦一隻だけだ。やれて、もう一隻を落とすだけだろうな」
「ええ。普通の爆弾よりは強いですけど、意外と効果は低いですね」
「やっぱり船を沈めるには魚雷ってことか?」
「はい。水の上に出ている部分を幾ら攻撃しても仕方がありませんから」
「どうしたもんかな。ソ連の戦艦をもう一隻退場させれば、それなりにやり合えるとは思うが」
「ええ、そうですね。とっとと使い切ってしまいましょう」
エンタープライズは不敵な笑みを浮かべた。
○
さて、両艦隊の距離はおよそ400km。コメットなら10分で越えられる距離だが、船では8時間ほどかかる。長門が勇ましく突撃を命令してから2時間、エンタープライズは何の攻撃も仕掛けて来ず、辺りは不気味な静寂に包まれていた。
「奴のコメットは尽き果てたのか……。それとも、何かを狙っているのか……」
『こっちから確かめる手段はないわねえ』
陸奥は言う。
「そうだな。だが、戦艦でもないのに、私達を誘き寄せる意味はあるのか?」
『ないわね』
「ならば、やはり使い果たしてと見てもいいのだろうか」
『さあねえ。もしかしたら私達が戦艦と交戦して陣形が崩れるところを狙ってるのかもしれないわ』
「それは……確かに合理的だな。戦艦と撃ち合うのであれば輪形陣を維持することはできない」
戦艦とやり合うなら単縦陣か複縦陣を組むべきだが、どちらも対空戦闘には向いていない。それに空母達は後方で待機することになって、護衛がなくなってしまう。
『そこを狙われたらなかなか痛いと思うわ』
「そうだな……。とは言え、敵を避けて通ることなどできんし……」
『あら、困っちゃった?』
「ああ。だが、事前に気付けてよかったというものだ」
『そう。考えが纏まったら教えて』
「あ、おい。お前も考えろ!」
『えー、私そういうの向いてないわ』
「……それでも長門型戦艦か、お前は」
長門は呆れたように。
『二人っきりなら一緒に考えてあげてもいいわよ』
「どういう条件だ……」
『だって、ソビエツキー・ソユーズとか面倒くさいんだもの』
「お前は……。はあ。まあいいだろう。作戦を考えよう」
長門と陸奥は十数分で作戦を考え直し、そしてソビエツキー・ソユーズに通達した。
『――何? 同志ノヴォロシースクを下がらせろと?』
「うむ。少々危険な作戦になる。脆弱な空母は下がらせておきたいのだ」
『だが同志――』
「下がっていても艦載機は届くだろう。帝国空軍の援護が期待できるユカタン半島周辺まで下がらせてくれ」
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