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第十九章 メキシコ戦役
連合艦隊の反撃
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「おや、敵が来たようです」
次の特攻隊の出撃準備が整わない内に、エンタープライズは接近する多数の敵機を探知した。
「来たか。数は?」
マッカーサー元帥は問う。戦艦がエンタープライズに辿り着くには8時間はかかるので、日ソ連合艦隊が航空戦力で攻撃して来ることは十分に想定内である。
「およそ250機。大した数ではありませんね」
「まあまあだな」
「すぐに発艦を開始します」
エンタープライズは当然のように僚艦――再建造されたミッドウェイとコーラル・シー――の艦載機の制御を奪い、三隻同時に発艦を行う。日ソの艦載機もコメットには及ばないとは言え超音速機なので、400kmを詰めるのに20分ほどしか掛からない。その間にエンタープライズは90機の艦上戦闘機F9Fパンサーを発艦させることに成功した。
「防衛戦というのは久しぶりですが、ふふ、楽しむとしましょう」
両軍はエンタープライズから数kmしか離れていない空域で交戦を開始した。戦闘機の数においてはエンタープライズ側が勝っているのだが、爆撃機や攻撃機を阻まなければならないので、数的に余裕がある訳ではない。
「戦闘機に集中すると、楽でいいですね」
「まあ、普段は航空艦隊を丸ごと動かしてるからな」
「ええ。それに、瑞鶴とツェッペリン以外の艦載機は、前と変わらず大したことはありません」
「その調子で頼むぞ」
「ふふ。やはり空母の本懐は航空戦ですね。コメットなんかより遥かに楽しいです」
「そいつはよかった」
エンタープライズはすっかり防衛戦だということを忘れて日本軍機を積極的に刈り取り始めた。船魄としての実戦経験がまだ少ない第六・第七艦隊の空母の艦載機が餌食になって、次々と撃墜されていく。
○
『エンタープライズに有利な条件で戦うってのは、ちょっと厳しいわね……』
瑞鶴は呟く。これまでの戦いで、エンタープライズは基本的に攻め手であった。戦略的に月虹が攻め込んでいる状況でも、戦術的にはエンタープライズが攻撃側に回ることが大半だったのである。それ故にエンタープライズの意識が艦上攻撃機や艦上爆撃機の制御に分散していたのだが、艦上戦闘機に思考を集中させているこの状況、瑞鶴でも突破はなかなか難しい。
『お前にしては弱気ではないか』
ツェッペリンは言う。
『現実的な判断をしてるだけよ。何だかんだ言って本気のエンタープライズとやり合ったことはなかったからね』
『ふん。アメリカ人など我の敵ではないがな』
『だったらとっととエンタープライズを沈めなさいよ』
瑞鶴はいつも通り冗談のつもりで言ったが、ツェッペリンはそうとは受け取らなかったらしい。
『よ、よかろう! やってくれるわ!』
『え、あ、そう』
『多少の損害を許容すれば、エンタープライズを叩くなど大したことではないわ!』
ツェッペリンは艦上攻撃機Ju387にエンタープライズの防衛線を強行突破させる。目立つ動きを始めた攻撃隊は集中砲火を受けるが、エンタープライズの戦闘機の数で全てを落とし切ることは叶わない。
『おお、やるじゃない』
『あんな新参ごときに負けぬわ!』
エンタープライズは高角砲で反撃を行うが、彼女の高角砲は意外と数が少なく、一発も命中しなかった。が、代わりに機銃は山ほど装備されており、接近戦に強い。ツェッペリンの爆撃機がエンタープライズの爆撃軌道に入ると、機銃が火を噴いて濃厚な弾幕が立ち塞がる。
ツェッペリンもこれを躱しきることは不可能と判断し、損害を出しながらも突撃し、急降下爆撃を仕掛けた。
『よし! 5発くらい命中したぞ!』
『……本当にやれるとは思わなかったわ。爆撃機はほぼ全滅みたいだけど』
『せ、成果を挙げたのだからよいではないか!』
『ええ。そこは素直に賞賛するわ』
ツェッペリンはついにエンタープライズに一太刀入れることに成功した。エンタープライズの飛行甲板中央部に大穴が開いて火の手が上がっている。これでエンタープライズはこれ以上艦載機を出せなくなった。今飛んでいるものについてはどうしようもないが。
『でもツェッペリン、どうして爆撃にしたの? 魚雷をぶち込んだ方が効果が大きいと思うけど』
『奴は原子力空母だ。原子炉が攻撃に晒されるのは、絶対に嫌なのではないか?』
『なるほど……。確かにそうなったら大事件だろうけど、あのエンタープライズがそのくらいで逃げ帰るかしら』
『奴自身が望んでおらずとも、無理やり撤退させられるであろう』
どうせ魚雷を数発叩き込んだくらいでは沈まないのだ。原子力空母特有の弱点を突く方がよいのである。
○
「原子炉に爆弾が命中するところでした。危なかったですね」
エンタープライズは他人事のように。マッカーサー元帥は全く危機感のないエンタープライズに呆れながら応える。
「あのなあ、原子炉は戦艦並みの装甲で覆われているが、万が一にも直接攻撃されたら終わりだぞ」
「万が一なんてありえませんよ。大体、それほど大規模な攻撃を受けたら、原子炉がどうこうなる前に沈むでしょう」
「まあいい。問題は、これがアイゼンハワーに知れたらどうなるかだが――」
「あらあら、もう知られてしまったようです」
アイゼンハワー首相から電話が掛かってきた。
次の特攻隊の出撃準備が整わない内に、エンタープライズは接近する多数の敵機を探知した。
「来たか。数は?」
マッカーサー元帥は問う。戦艦がエンタープライズに辿り着くには8時間はかかるので、日ソ連合艦隊が航空戦力で攻撃して来ることは十分に想定内である。
「およそ250機。大した数ではありませんね」
「まあまあだな」
「すぐに発艦を開始します」
エンタープライズは当然のように僚艦――再建造されたミッドウェイとコーラル・シー――の艦載機の制御を奪い、三隻同時に発艦を行う。日ソの艦載機もコメットには及ばないとは言え超音速機なので、400kmを詰めるのに20分ほどしか掛からない。その間にエンタープライズは90機の艦上戦闘機F9Fパンサーを発艦させることに成功した。
「防衛戦というのは久しぶりですが、ふふ、楽しむとしましょう」
両軍はエンタープライズから数kmしか離れていない空域で交戦を開始した。戦闘機の数においてはエンタープライズ側が勝っているのだが、爆撃機や攻撃機を阻まなければならないので、数的に余裕がある訳ではない。
「戦闘機に集中すると、楽でいいですね」
「まあ、普段は航空艦隊を丸ごと動かしてるからな」
「ええ。それに、瑞鶴とツェッペリン以外の艦載機は、前と変わらず大したことはありません」
「その調子で頼むぞ」
「ふふ。やはり空母の本懐は航空戦ですね。コメットなんかより遥かに楽しいです」
「そいつはよかった」
エンタープライズはすっかり防衛戦だということを忘れて日本軍機を積極的に刈り取り始めた。船魄としての実戦経験がまだ少ない第六・第七艦隊の空母の艦載機が餌食になって、次々と撃墜されていく。
○
『エンタープライズに有利な条件で戦うってのは、ちょっと厳しいわね……』
瑞鶴は呟く。これまでの戦いで、エンタープライズは基本的に攻め手であった。戦略的に月虹が攻め込んでいる状況でも、戦術的にはエンタープライズが攻撃側に回ることが大半だったのである。それ故にエンタープライズの意識が艦上攻撃機や艦上爆撃機の制御に分散していたのだが、艦上戦闘機に思考を集中させているこの状況、瑞鶴でも突破はなかなか難しい。
『お前にしては弱気ではないか』
ツェッペリンは言う。
『現実的な判断をしてるだけよ。何だかんだ言って本気のエンタープライズとやり合ったことはなかったからね』
『ふん。アメリカ人など我の敵ではないがな』
『だったらとっととエンタープライズを沈めなさいよ』
瑞鶴はいつも通り冗談のつもりで言ったが、ツェッペリンはそうとは受け取らなかったらしい。
『よ、よかろう! やってくれるわ!』
『え、あ、そう』
『多少の損害を許容すれば、エンタープライズを叩くなど大したことではないわ!』
ツェッペリンは艦上攻撃機Ju387にエンタープライズの防衛線を強行突破させる。目立つ動きを始めた攻撃隊は集中砲火を受けるが、エンタープライズの戦闘機の数で全てを落とし切ることは叶わない。
『おお、やるじゃない』
『あんな新参ごときに負けぬわ!』
エンタープライズは高角砲で反撃を行うが、彼女の高角砲は意外と数が少なく、一発も命中しなかった。が、代わりに機銃は山ほど装備されており、接近戦に強い。ツェッペリンの爆撃機がエンタープライズの爆撃軌道に入ると、機銃が火を噴いて濃厚な弾幕が立ち塞がる。
ツェッペリンもこれを躱しきることは不可能と判断し、損害を出しながらも突撃し、急降下爆撃を仕掛けた。
『よし! 5発くらい命中したぞ!』
『……本当にやれるとは思わなかったわ。爆撃機はほぼ全滅みたいだけど』
『せ、成果を挙げたのだからよいではないか!』
『ええ。そこは素直に賞賛するわ』
ツェッペリンはついにエンタープライズに一太刀入れることに成功した。エンタープライズの飛行甲板中央部に大穴が開いて火の手が上がっている。これでエンタープライズはこれ以上艦載機を出せなくなった。今飛んでいるものについてはどうしようもないが。
『でもツェッペリン、どうして爆撃にしたの? 魚雷をぶち込んだ方が効果が大きいと思うけど』
『奴は原子力空母だ。原子炉が攻撃に晒されるのは、絶対に嫌なのではないか?』
『なるほど……。確かにそうなったら大事件だろうけど、あのエンタープライズがそのくらいで逃げ帰るかしら』
『奴自身が望んでおらずとも、無理やり撤退させられるであろう』
どうせ魚雷を数発叩き込んだくらいでは沈まないのだ。原子力空母特有の弱点を突く方がよいのである。
○
「原子炉に爆弾が命中するところでした。危なかったですね」
エンタープライズは他人事のように。マッカーサー元帥は全く危機感のないエンタープライズに呆れながら応える。
「あのなあ、原子炉は戦艦並みの装甲で覆われているが、万が一にも直接攻撃されたら終わりだぞ」
「万が一なんてありえませんよ。大体、それほど大規模な攻撃を受けたら、原子炉がどうこうなる前に沈むでしょう」
「まあいい。問題は、これがアイゼンハワーに知れたらどうなるかだが――」
「あらあら、もう知られてしまったようです」
アイゼンハワー首相から電話が掛かってきた。
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