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第十八章 日独交渉
海上要塞攻略Ⅱ
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「さて……これは私がやるわ。皆は見てるだけでいいわよ」
『何をする気だ、お前?』
「アメリカ人にものを理解させるには、ちょっと殺してやらないとね」
『何だ。あそこにいる奴らを殺すのか』
「ええ。アメリカ人を殺すのはあなたより慣れてるから、大したことないわ」
屋根の上で健気に機銃を操作しているアメリカ兵は合わせて三百人ばかり。誰一人として盾の一つも持っておらず、彼らを守るものは一切ない。
「じゃ、行くわ。一応聞いておくけど、有賀も構わないわね?」
「私が作戦に口出しすることはないよ」
「分かった」
瑞鶴は海上要塞に機銃掃射を開始した。海上要塞の全方向から獲物を追い立てるように瑞鶴の艦上爆撃機明星(日本から提供されたもの)が迫り、アメリカ兵を片っ端から撃ち殺す。40mm機銃に撃たれれば、人間など砂でできているかのように吹き飛ぶ。手足の先に当たっただけで腕や脚がもげ、胴体に当たればまず助からない。
あっという間に海上要塞の屋根は赤く染まり、機関砲の銃火は途絶えた。残された高角砲には多少の装甲があるようで、機銃は効かなさそうだが、懐に潜ってしまえば何の意味もない。12番海上要塞の戦闘能力は消滅したと言ってもいい。
「これでどう? 何か言ってこない?」
瑞鶴は有賀中将に尋ねる。その声には不愉快な感情が滲み出ていた。アメリカ人相手とは言え、一方的に虐殺するのは気分がいいものではない。
「……どうやら、降伏する気はないらしい。或いは我々が海上要塞を拿捕するつもりだと読んで、白兵戦で抵抗しようとしているのかもしれないな」
「もしそうだったら最悪ね」
海上要塞は破壊したいのではなく自分のものにしたいのである。もしも中に引き篭られたら、こちらも陸戦部隊を突入させるしかない。犠牲は避けられないだろう。
「高角砲も破壊はできないのか?」
「多分だけど、あれを爆撃したら要塞の内部も壊れるわ」
「なるほど。となると、空からできることはなさそうだな」
「そうね。航空隊は全部撤退させるわ」
瑞鶴はツェッペリンと信濃と大鳳に撤退するよう伝えた。すると信濃が不満げに言ってきた。
『我らが出陣した意味はあったのか』
「まあ、見た目だけでも多くいた方が威圧になるってもんでしょ。結局は意味なかったけど」
『……そう』
「いやー、海上要塞が思いの外雑魚だったからね。でもあんたって、戦いたがるような奴だったけ」
『別にそういうことではない。ただ燃料を無駄にしたと、思っただけ』
「それについては謝るわ」
という訳で空母達は艦載機を収容し終えた。
艦隊はそのまま前進を続け、進むこと4時間ほどで要塞までの距離が40kmを切った。海上要塞が大和の射程圏内に入ったのである。
「偵察を済ませ次第撃てるが、どうする?」
「じゃあ、撃ってくれる? あくまで威嚇だから、当てないようにしてもらいたいけど」
「承知した」
水上偵察機で観測を行いある程度の狙いを定めると、海上要塞に絶対に当てないよう照準を500m西にずらし、有賀中将は主砲斉射を命じた。およそ1分後、音速を軽く超える46cm砲弾が9発、海上要塞のすぐ西に着弾した。巡洋艦くらいなら呑み込んでしまいそうな巨大な水柱が上がる。
「うむ。方位角はそうそうにズレるものではないな。続けて撃て」
10度の斉射を行い、その照準は徐々に海上要塞に近づいていって、最後には要塞の数十メートル隣に46cm砲弾が落着した。と、その時、有賀中将に報告が入った。
「閣下、海上要塞の側から、降伏するとの通信が入りました」
「分かった」
「へえ。強がってた割にあっさり降伏したわね」
「だが、油断したところを叩くつもりかもしれないぞ」
「アメリカ人のことだし、それもあり得るわね。まあ大して警戒する必要もないと思うけど」
「海上要塞は一応魚雷を持っているそうだ。そして我々は、海上要塞に乗り込むためにどうあっても接近しなければならない」
「そこを騙し討ちするって? まあ、警戒するに越したことはないか。妙高達に向かわせるわ。ゲバラ、兵士は妙高と高雄と愛宕に移して」
「了解だ。僕もそっちに行こう」
愛宕は人間を乗せることをなかなか嫌がっていたが、高雄の説得で折れてくれた。キューバ軍の精鋭部隊およそ1,500は全員が重巡に乗り込み、そして彼女達は海上要塞に向かった。
「重巡を囮にするつもりかな?」
有賀中将は瑞鶴に尋ねた。
「囮なんてつもりはないわ。ただ、あいつらなら魚雷くらい避けられると思っただけよ。私達より遥かに小回りが効くからね。本当は駆逐艦がいればよかったんだけど」
「信頼の証、ということか」
かくして妙高達は海上要塞に乗り込むべく動き始めた。魚雷で攻撃してくることを想定して大きく距離を取っての航行である。
妙高はアメリカ軍がそこまで卑劣な裏切りはしてこないだろうと思っていたのだが、その期待はあっという間に裏切られた。
『妙高! 魚雷です! あなたの方に向かっています!』
「探知した! 回避するね!」
海上要塞まで20kmほどのところで数本の魚雷が襲って来た。が、高雄の素早い探知で妙高はすぐに回避行動を取ることができ、難なく回避することに成功した。
「はぁ。どうしてこんなことを……」
『いずれにせよ、これで彼らに降伏する気などないことは分かりましたね』
「無駄だと思うんだけどなあ……」
こうなったからには、キューバ軍に頑張ってもらう他なさそうだ。
『何をする気だ、お前?』
「アメリカ人にものを理解させるには、ちょっと殺してやらないとね」
『何だ。あそこにいる奴らを殺すのか』
「ええ。アメリカ人を殺すのはあなたより慣れてるから、大したことないわ」
屋根の上で健気に機銃を操作しているアメリカ兵は合わせて三百人ばかり。誰一人として盾の一つも持っておらず、彼らを守るものは一切ない。
「じゃ、行くわ。一応聞いておくけど、有賀も構わないわね?」
「私が作戦に口出しすることはないよ」
「分かった」
瑞鶴は海上要塞に機銃掃射を開始した。海上要塞の全方向から獲物を追い立てるように瑞鶴の艦上爆撃機明星(日本から提供されたもの)が迫り、アメリカ兵を片っ端から撃ち殺す。40mm機銃に撃たれれば、人間など砂でできているかのように吹き飛ぶ。手足の先に当たっただけで腕や脚がもげ、胴体に当たればまず助からない。
あっという間に海上要塞の屋根は赤く染まり、機関砲の銃火は途絶えた。残された高角砲には多少の装甲があるようで、機銃は効かなさそうだが、懐に潜ってしまえば何の意味もない。12番海上要塞の戦闘能力は消滅したと言ってもいい。
「これでどう? 何か言ってこない?」
瑞鶴は有賀中将に尋ねる。その声には不愉快な感情が滲み出ていた。アメリカ人相手とは言え、一方的に虐殺するのは気分がいいものではない。
「……どうやら、降伏する気はないらしい。或いは我々が海上要塞を拿捕するつもりだと読んで、白兵戦で抵抗しようとしているのかもしれないな」
「もしそうだったら最悪ね」
海上要塞は破壊したいのではなく自分のものにしたいのである。もしも中に引き篭られたら、こちらも陸戦部隊を突入させるしかない。犠牲は避けられないだろう。
「高角砲も破壊はできないのか?」
「多分だけど、あれを爆撃したら要塞の内部も壊れるわ」
「なるほど。となると、空からできることはなさそうだな」
「そうね。航空隊は全部撤退させるわ」
瑞鶴はツェッペリンと信濃と大鳳に撤退するよう伝えた。すると信濃が不満げに言ってきた。
『我らが出陣した意味はあったのか』
「まあ、見た目だけでも多くいた方が威圧になるってもんでしょ。結局は意味なかったけど」
『……そう』
「いやー、海上要塞が思いの外雑魚だったからね。でもあんたって、戦いたがるような奴だったけ」
『別にそういうことではない。ただ燃料を無駄にしたと、思っただけ』
「それについては謝るわ」
という訳で空母達は艦載機を収容し終えた。
艦隊はそのまま前進を続け、進むこと4時間ほどで要塞までの距離が40kmを切った。海上要塞が大和の射程圏内に入ったのである。
「偵察を済ませ次第撃てるが、どうする?」
「じゃあ、撃ってくれる? あくまで威嚇だから、当てないようにしてもらいたいけど」
「承知した」
水上偵察機で観測を行いある程度の狙いを定めると、海上要塞に絶対に当てないよう照準を500m西にずらし、有賀中将は主砲斉射を命じた。およそ1分後、音速を軽く超える46cm砲弾が9発、海上要塞のすぐ西に着弾した。巡洋艦くらいなら呑み込んでしまいそうな巨大な水柱が上がる。
「うむ。方位角はそうそうにズレるものではないな。続けて撃て」
10度の斉射を行い、その照準は徐々に海上要塞に近づいていって、最後には要塞の数十メートル隣に46cm砲弾が落着した。と、その時、有賀中将に報告が入った。
「閣下、海上要塞の側から、降伏するとの通信が入りました」
「分かった」
「へえ。強がってた割にあっさり降伏したわね」
「だが、油断したところを叩くつもりかもしれないぞ」
「アメリカ人のことだし、それもあり得るわね。まあ大して警戒する必要もないと思うけど」
「海上要塞は一応魚雷を持っているそうだ。そして我々は、海上要塞に乗り込むためにどうあっても接近しなければならない」
「そこを騙し討ちするって? まあ、警戒するに越したことはないか。妙高達に向かわせるわ。ゲバラ、兵士は妙高と高雄と愛宕に移して」
「了解だ。僕もそっちに行こう」
愛宕は人間を乗せることをなかなか嫌がっていたが、高雄の説得で折れてくれた。キューバ軍の精鋭部隊およそ1,500は全員が重巡に乗り込み、そして彼女達は海上要塞に向かった。
「重巡を囮にするつもりかな?」
有賀中将は瑞鶴に尋ねた。
「囮なんてつもりはないわ。ただ、あいつらなら魚雷くらい避けられると思っただけよ。私達より遥かに小回りが効くからね。本当は駆逐艦がいればよかったんだけど」
「信頼の証、ということか」
かくして妙高達は海上要塞に乗り込むべく動き始めた。魚雷で攻撃してくることを想定して大きく距離を取っての航行である。
妙高はアメリカ軍がそこまで卑劣な裏切りはしてこないだろうと思っていたのだが、その期待はあっという間に裏切られた。
『妙高! 魚雷です! あなたの方に向かっています!』
「探知した! 回避するね!」
海上要塞まで20kmほどのところで数本の魚雷が襲って来た。が、高雄の素早い探知で妙高はすぐに回避行動を取ることができ、難なく回避することに成功した。
「はぁ。どうしてこんなことを……」
『いずれにせよ、これで彼らに降伏する気などないことは分かりましたね』
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